萌出障害などの小児歯科領域での歯科用CTについて~へんかと経過と診断~
2021年11月27日
こんにちは、岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。
当院には、歯の生え方などに問題があるお子さんが多く来院されます。
歯の生え方や、生える前の永久歯がどうなっているかは、通常「パノラマエックス線写真」と呼ばれる顎全体のレントゲンで判断します。
それでもよく分からない場合、CTで精査をすることもあります。
当院でも、骨の中の永久歯の状態や、他の歯との位置関係を確認するためにCT撮影をする機会が増えてきました。
そこで今回は小児歯科とCTについてお話していきます。
1)歯科で撮影するレントゲンの種類
歯科医院で撮影するレントゲンは主に3種類です。
デンタルエックス線写真
1-2本の歯をチェックする撮影で、問題のある部分が主に黒く写ります。
一度に撮影できる範囲が狭いです。
しかし、わずかな被爆量で詳細に歯を診ることができるのが特徴です。
ただし、デンタルエックス線写真は、影絵のようなものです。
3次元的な位置関係は精細に分かるわけはありません。
「X線の入射角に対する影の長さで推定する」という感じです。
パノラマエックス線写真
顎全体を撮影をします。
末端にひずみがありますが、広範囲を診ることができるのが特徴です。
詳細に診ることには向いていません。
顎全体を虫歯がないか、重度の歯周病がないか、生える前の永久歯の位置は問題ないか、などを大まかに判定することに使用します。
これも影絵ようなものです。
3次元的な位置関係は分かりません。
パノラマエックス線写真で大まかに「問題がありそう」と思った部分については、デンタルエックス線写真やCTで精査することも多いです。
CT
何枚もレントゲンを撮影し、それをコンピューター上で組み合わせたものです。
患部を3D画像で確認できるのが特徴です。
他のレントゲン写真は「影絵」なのに対して、立体的に確認することができます。
情報量としては、「影絵」と「3D模型」では、それはもう段違いです。
手術前のCT撮影で、手術した時と同じぐらいの情報量が得られます。
一方で、CTは他のレントゲン写真撮影と比べて被爆量は多くなります。
何枚ものレントゲン写真を撮影するからです。
それでも、一回あたり0.1mSv程度です。
歯科用のCTは医科用のものと比べ約1/20〜1/30程度の被曝量とされています。
ちなみに、日本で普通に生活した場合、年間2.4mSv被曝すると言われています。
政府によると、年間被曝量20mSv以下であれば「一応」安全とされています。
「一応」というのは、わずかな自然被爆だけでも病気になる人もいれば、大量の被爆があっても何も起きない人がいるからです。
ただ、20mSvという基準以内あれば、ほとんどの人には問題ないと言ってよいでしょう。
もちろん、被爆は少ない方が良いので、CT撮影は医学的に必要最小限で行っています。
2)萌出(ほうしゅつ)障害とCT撮影のメリット
つぼい歯科クリニックでは、必要に応じてパノラマエックス線写真を撮影し、全体のチェックを行うようにしています。
その結果、時々『なんか変。』と思う部位が出てきます。
多くは、まだ生えていない(骨の中にある状態の)永久歯の位置や、生えようとする方向が、通常と違う…というパターンです。
そんな場合は、定期的にデンタルエックス線写真で撮影し、経過を観察していきます。
精査や処置が必要な状態であるか、このまま生えるのを待つだけで良いかの判断をするためです。
その上で異常がある場合は、必要に応じてCT撮影します。
この流れが表題にしております『へんかと経過と診断』で、小児歯科では非常に大事とされています。
3)CTが有用な症例
一般的に、萌出障害の原因には以下があげられます。
- 歯が生えるスペースの不足
- 先行歯の異常
- 過剰歯や歯牙種などの存在
- 骨の異常
「歯が生えるスペースの不足」は模型で分析して判定します。
しかし残りの原因については、レントゲン撮影で判断することとなります。
パノラマエックス線写真やデンタルエックス線写真では情報が不足する場合は、CT撮影が有効です。
またCT撮影すると、う蝕や根の治療も状態が完全に判定でき、状態がわかります。
萌出障害は手術を伴う治療が多いです。
しかしCT撮影することで、我々歯科医師も、患者さんの痛みや侵襲が最も少ない治療プランを、術前に考えることができます。それは、患者さんにとっては被爆量というデメリットを越えるメリットになります。
しかるべき年齢になっても歯が生えてこない、乳歯が抜けて随分になるけれど歯が生えない、などのお悩みがある場合は、ぜひ一度ご相談ください。
歯の萌出障害は、保険適応で出来ることも多いので、早めのご相談をおススメします。
まとめ
- 歯科で撮影するレントゲン検査には、デンタルエックス線写真、パノラマエックス線写真、CTがあります。
- CT撮影によって、萌出障害の原因、異常を判明することができます。
- 原因がわかれば、最小の侵襲での治療プランを考えることができるようになります。
- お子さんの永久歯が生えてこないなどの悩みがある場合は、早めにご相談ください。