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保険適応の入れ歯(義歯) 部分入れ歯の場合

2025年2月26日

保険適応の入れ歯(義歯) ~部分入れ歯の場合~

こんにちは、岩国市のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井です。
今日は「保険の入れ歯」の第二弾として、部分入れ歯の話題です。

総入れ歯については、前回の記事をご覧ください

保険適応の入れ歯(義歯) ~総入れ歯の場合~

前回、日本の現在の保険制度では、保険で作れる入れ歯にはそれなりの制限がある、というお話をさせていただきました。部分入れ歯も同じで、歯にひっかけるバネの部分の形や設計、材質などが細かく決められています。

1 保険の入れ歯と自由診療の入れ歯の違い

保険入れ歯と自費入れ歯の比較

写真左:保険の入れ歯 写真右:自由診療の入れ歯(ノンクラスプデンチャー)

右の写真の入れ歯は、最も一般的な入れ歯のバネ(クラスプ)で「エーカースクラスプ(二腕鉤)」と言います。1925年(なんと100年前!)にAkers氏が開発したことで、この名前で呼ばれています。

左の写真の入れ歯は、ポリアミド樹脂のいわゆる「ノンクラスプデンチャー」です。
ノンクラスプデンチャーといっても、バネが無いわけではなく、樹脂製のバネがあります。
金属のバネでないので、見た目が綺麗です。保険診療では、樹脂製のバネは認められていないので、この入れ歯は自由診療となります。

では、次の写真を見てみましょう。

保険入れ歯と自費入れ歯のバネのかかり方の違いを比較する図

上:保険の入れ歯のバネの設計(イメージ)
下:自由診療の入れ歯(ミラクルデンチャー)の設計

保険の入れ歯は、歯の軸と入れ歯の着脱方向を概ね一致させるため、エーカースクラスプを歯のアンダーカットに入れて固定します。
ミラクルデンチャーは歯の軸と入れ歯の着脱方向をあえてズラすことで、エーカースクラスプを使わずにアンダーカットに入れ歯を収めるため、金属のバネを使わずに入れ歯を固定することができます。
ただし、保険診療ではこのような設計は認められていないため、自由診療となります。

2 保険診療の入れ歯の「バネ(クラスプ)」はすべて金属製

2-1)エーカースクラスプ

最も一般的なクラスプです。鋳造された金属製で、歯のアンダーカット部分に引っ掛けて入れ歯を固定します。保険診療で広く使用されており、経済的ですが、目立ちます。

 

エーラースクラスプの説明図

エーカースクラスプの説明図

写真:エーカースクラスプ

鋳造された金属製のバネが、歯を頬側と舌側から挟みこんで、3面4隅角(3方向から4つの歯の角)をしっかり掴みます。
入れ歯がスポッと抜け落ちないように、このエーカースクラスプは歯のアンダーカットにもぐりこみます。
アンダーカットに金属の弾性を利用して装着することで、パチッ!という装着感が得られます。

一方で、入れ歯の着脱時にエーカースクラスプが歯を揺さぶってしまうことで、クラスプがかかっている歯が時と共に揺れてきやすくなってしまう、というデメリットもあります。
噛んだ時の力はクラスプがかかっている歯に強く伝わるので、長期間の使用で歯がグラグラになって、抜けてしまった…という悲しいケースは、残念ながら保険の部分入れ歯ではかなり一般的にみられます。

エーカースクラスプの長所
  • ・保険適応である
  • ・外れにくく変形しにくい
エーカースクラスプの短所
  • ・長期間の使用で、歯が揺れてくるようになりやすい

2-2)ワイヤークラスプ

金属の針金を曲げて作られたクラスプです。保険適用内で使用可能ですが、耐久性や保持力がエーカースクラスプに比べて劣ることがあります。

2-3)コンビ鉤

表側はワイヤー、裏側は鋳造された金属でできています。エーカースクラスプとワイヤークラスプのコンビネーションです。

2-4)ダブルエーカースクラスプ

隣り合う2本の歯の両方にエーカースクラスプを装着したい時に使用する、エーカースクラスプを2個まとめたような形のクラスプです。

3 自由診療の部分入れ歯ってどんなもの?

保険診療で認められていない材料・設計・製作方法で作られた全ての入れ歯が、自由診療の入れ歯になります。

3-1)材料が認められていないもの

保険診療の入れ歯は、「アクリル樹脂」と「スルフォン樹脂」のみです。
ですから、ノンクラスプデンチャーに良く用いられるポリアミド樹脂や、最近では金属の代わりにジルコニアを用いた義歯などは自由診療の範囲となります。

3-2)設計が認められていないもの

Iバー、Tローチバー、リングクラスプ、ヘアピンクラスプなど、目立ちにくくて歯への負担が小さい装置は、たとえ材料がエーカースクラスプと同じ金属を用いたとしても、保険では認められていません。
また、ミラクルデンチャーのように入れ歯の着脱方向が特殊な設計も、保険診療では認められていません。

ミラクルデンチャーの写真

写真:ミラクルデンチャー(アクリル樹脂製)
材料は保険診療のものと同じですが、着脱方向の設計が保険義歯とは異なります。

3-3)製作方法が認められていないもの

保険診療では、入れ歯は歯や顎の印象剤(口の中に入れたら固まる材料)で型をとること、と決まっています。
今は3Ⅾスキャナで光学印象して、パソコンで入れ歯の設計を行って…ということも、技術的には可能ですが、2025年2月の現在は保険診療では認められていません。そのため、3Dスキャナやパソコンによる設計の入れ歯は自由診療となります。
*先進技術の保険適応化も少しずつ進んではいるので、いずれは認可されるのでないかと思っています。

4.自由診療の入れ歯って、どんなところが優れているの?

保険診療では「噛むという機能を回復できる」ことが最重視されているため、下記の要素は軽視されがちです。

保険診療の入れ歯ではあまりカバーされない内容

  • ・見た目が目立たない
  • ・揺れている歯でも残せる
  • ・歯への負担が軽減される
  • ・通院回数を減らすことができる
  • ・小さい/薄い入れ歯にできる

自由診療の入れ歯は、保険の入れ歯のデメリットを軽減する特徴のものが多いです。

当院の場合は、自由診療の部分入れ歯で最も人気なのは「ミラクルデンチャー」です。

ミラクルデンチャー

参考リンク:当院の入れ歯治療

 

ミラクルデンチャーでもたくさんの種類があることを示した写真

写真:様々なタイプのミラクルデンチャー

ミラクルデンチャーの長所

  • ・歯が揺れていても噛みやすい
  • ・歯に負担がかかりにくいため、バネがかかる歯が揺れずに長持ちしやすい
  • ・保険の入れ歯よりはサイズが小さくなることが多い
  • ・エーカースクラスプを使用しないため、見た目が良い
  • ・希望により金属不使用にもできる(その場合はサイズがやや大きくなる)
  • ・外れたり浮いたりしにくいため、噛みやすい
  • ・歯を新たに失うなどしても増歯修理が可能。修理して長く使用できる。

ミラクルデンチャーの短所

  • ・入れ歯の出し入れに多少の練習が必要(回転するように入れることが多いです)
  • ・自由診療であるため、費用がかかる(税込み22万円~)
  • ・設計によっては一部金属パーツを使用した方が良い症例もあるため、必ずしもメタルフリーにできないこともある(事前に相談できます)

5 初めての部分入れ歯。保険か自費か、迷った時には?

まずは模型を手にとって、大きさや材質、それぞれの特徴をしっかりとご確認されることをおススメします。
入れ歯の種類によって、術前に終えておくべき処置が変わってしまうことが多いからです。

保険の入れ歯と比較した、ミラクルデンチャーの特徴

歯を削らなくてすむケースが増える

保険の入れ歯の場合、設計によって「レストシート」「グルーブ」「プロキシマルプレート」など、歯を少し削って入れ歯の安定性を高める処置が必要となることが多い。しかしミラクルデンチャーでは削らないことが多い。

抜歯せずにすむケースが増える

保険の入れ歯では、揺れが大きい歯をあらかじめ抜歯してから入れ歯製作に入ることが多い。
しかし、ミラクルデンチャーでは、揺れている歯を残して入れ歯製作に入ることが多い。

自分にとってどちらが望ましい入れ歯であるか、しっかり考えていただくのが大事だと思います。

6 入れ歯は眼鏡のようなもの

机の上に、日本の保険入れ歯とメガネが置かれている写真

自費の入れ歯にすれば、「まるで天然の歯のように、入れ歯であることを忘れられるのでは!?」と期待される方もいるのですが、私はいつも「入れ歯は眼鏡のようなものです」とご説明しています。

私は子どものころからずっと近視で、小学生時代から眼鏡を使用しています。
なので、眼鏡は体の一部だと思って出費は惜しまず、それなりのランクの眼鏡を診療用・出張用・PC作業用・自宅用…と使い分けています。
でも、くつろぐ時は眼鏡をはずします。
だって裸眼の方が、楽ですからね。

部分入れ歯も眼鏡と同じです。
「使っていることを忘れる瞬間はある。けれど、食事以外の時は、つけない方が楽」なんです。

メガネはかけないと見えないだけですが、入れ歯は使わないと歯が動いて噛み合わせが変わってしまう

眼鏡は使わないと見えにくいだけですが、入れ歯は使わないと噛みにくいだけじゃなく、歯が動いて咬み合わせが崩壊していってしまいます。
なので、楽だから使わない、ってわけにはいかないのです。

メガネを入れ歯に例えると

保険の部分入れ歯を、1万円程度の高コスパ眼鏡にたとえるならば、
自由診療の入れ歯が10~15万円程度の高級眼鏡、
コンタクトがインプラントで、
レーシック手術がブリッジでしょうか。

インプラントやブリッジについては、過去の記事をご覧くださいね。

参考リンク:歯を失ってしまった後、どんな治療法があるの?

治療法を比較検討する際には、「部分入れ歯」の中だけの比較ではなく、ブリッジやインプラントも含めて、最もご自身に適した治療法を検討されることが、長い目で見ると大事になってくると思います。

まとめ

いかがでしたか?

  • ・保険の部分入れ歯は経済的ですが、設計や材質に制限があり、歯への負担が大きい場合があります。
  • ・自由診療の部分入れ歯は、見た目や機能性に優れ、歯への負担を軽減できます。
  • ・部分入れ歯を選ぶ際は、保険・自費の違いを理解し、模型を確認しながら自分に合った選択をすることが大切です。
  • ・入れ歯は「眼鏡のようなもの」と考え、生活に合わせた最適な治療法を選ぶことをおススメします。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

保険適応の入れ歯(義歯) ~総入れ歯の場合~

2025年2月10日

保険適応の入れ歯(義歯) ~総入れ歯の場合~

こんにちは、岩国市のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井です。
今回は「保険の入れ歯」についての話題です。

日本では、歯を失った場合に保険で入れ歯を作ることができます。 入れ歯が合わなくなってしまっても、入れ歯を作ってから半年経てば新しい入れ歯を保険で作れる…という、世界的に見ても本当に恵まれた制度です。 しかし、保険で作れる入れ歯には、実はそれなりの制限もあります。 今日は、保険で作れる入れ歯にはどんな種類があるのか、どういった制限があるのかについて、詳しくお話ししたいと思います。

1 保険でカバーされる医療は、治療の選択肢の一部だけ

すべての治療の中に、一部として保険診療があることを示した概念図

インプラントや歯列矯正が保険でカバーされないことは、よく知られています。 (正確には、癌で顎骨を除去した場合のインプラントや、唇顎口蓋裂や骨変形症の歯列矯正は保険でカバーされます)

保険治療は、使用可能な材料や決められた作り方、形態などが、非常に細かく決まっています。 詳しくは過去の記事をご覧ください。

参考リンク
保険の効く歯科治療と効かない歯科治療その違いは?
保険の効く歯科治療と効かない歯科治療 その2

保険も「入れ歯全体のうちの一部」が保険でカバーされています。

2 保険でカバーされる入れ歯ってどんなもの?

では、どんな入れ歯が保険でカバーされているのでしょうか? 今回は総入れ歯の実物の写真をご覧いただきます。

保険総義歯と金属床義歯の画像

総入れ歯(左:保険の入れ歯 右:自由診療の入れ歯)

保険でカバーされる総入れ歯は、すべてが樹脂製のものです。
保険でカバーされない総入れ歯の代表的なものに、金属床義歯という、見えない部分が金属の板になっているものがあります。
一見、「金属使ってない方が良いんじゃないの?」と思われるかもしれません。
では、樹脂か金属かで、総入れ歯がどう変わるか、くわしく解説します。

樹脂か金属かで総入れ歯がどう変わるか ~上顎を覆う入れ歯の床部分の厚みが違う~

保険義歯と金属床義歯の厚みを比較した画像

総入れ歯の床部分(上:保険の入れ歯 下:自由診療の入れ歯) 樹脂より金属の方が強度があります。
強度が高い分、薄く作ることができます。
薄い方が一般的に、装着した時の違和感が少ないです。

3.保険(樹脂)と自由診療(金属)の総入れ歯の違い

保険の総入れ歯の良い点

  • ・樹脂製なので金属アレルギーの人でも安心して使用できる
  • ・保険適応あり
  • ・壊れても院内での修理がしやすい/その場で修理してもらえることも多い

保険の総入れ歯の残念な点

  • ・金属に比べて強度に劣る
  • ・床部分が分厚く、人によっては違和感が強い
  • ・分厚い樹脂が食事の温度を感じにくくさせてしまう

自由診療の総入れ歯(金属床義歯)の良い点

  • ・薄くて強度があるため、壊れにくい
  • ・薄いため、違和感が小さい
  • ・薄い金属は温度を良く通すので、熱いものは熱々のまま、冷たいものは冷えたまま味わえる

自由診療の総入れ歯(金属床義歯)の残念な点

  • ・金属アレルギーの方にはおススメできない
  • ・保険でカバーされない
  • ・壊れにくいが、壊れた場合は預かり修理になることも多い

私の臨床上の経験では、「小さな総入れ歯を使いたい」とか、「熱々のラーメンや、キンキンに冷えたビールを、入れ歯になる前のように楽しみたい」という方が、金属床義歯を希望されます。
一般的に、入れ歯は小さいほうが違和感が少ないです。

4.金属床義歯以外の自由診療の入れ歯

4-1)インプラントオーバーデンチャー(インプラントで固定する入れ歯)

全ての歯をインプラントにするより、インプラントの埋入本数を減らすことができるため、総インプラントよりは治療費用を減らすことができます。
片顎2~4本のインプラントに、入れ歯を装着して用います。
*通常のインプラント治療の場合は片顎4~8本のインプラントを埋入する必要があります。

4-2)シリコンデンチャー(歯茎に触れる部分にシリコンクッションが入っている入れ歯)

痛みが少なく、安定感が高いのが特徴です。ただし、シリコン部分は他の樹脂部分(多くはアクリル樹脂)に比べて劣化しやすく、お手入れは必須です。

4-3)メッシュデンチャー(金属床部分にミクロの穴が無数にある入れ歯)

通常の金属床よりも味や温度が、さらに感じやすくなっている義歯です。
ただし、メッシュの入った金属床の強度は、通常の金属床義歯より劣ります。

これらの治療法は、保険の入れ歯に比べて自然な見た目、痛みがない、安定感があるなどのメリットがあります。

ちなみに当院では、自費の総義歯では金属床義歯を希望される方がほとんどです。

インプラントオーバーデンチャーは、部分入れ歯では「バネをなくしたい」というご要望で作ったり、既存のインプラントを再利用する形で作成することの方が多く、総入れ歯でのご希望は少ない印象です。

5.初めて総入れ歯を作るとき、保険か自費か、迷った時には?

少ない本数であったとしても自分の歯で食事をしていた人。
歯はぐらぐら揺れていたけれども、自分の歯で食事をしていた人。
このような人が、初めての総入れ歯を作る場合は、以下のような確認をされることをオススメします。

確認せずに入れ歯を作ってしまった場合、「違和感がすごい」「こんなに大変だと思わなかった」「思っていたのと違う」などの理由で、後悔をする人がたまにいます。

まずは、実際に触ってみて確認する

入れ歯を作る前に、入れ歯の模型を実際に触ってみて、厚さ、重さ、大きさなどを確認して、どの入れ歯だったらこれから使っていけそうかを考えてください

そのうえで、まだ迷ってしまう場合は、特別な事情がなければ最初の1個は保険の入れ歯を選択しましょう。
保険の入れ歯の使用感に満足できないときに、改めて自由診療を考えれば良いと思います。

保険の入れ歯と自費の入れ歯では、上顎を覆う床の厚さ、精度、持ちの良さ、安定感、温度を感じられるかどうかなど、いくつもの違いはあります。

しかし、「保険の入れ歯でも我慢できる程度のものかどうか」は、実際に使用してみないと分かりません。
まず、保険の入れ歯で良いので、噛める入れ歯を作ってみることをおすすめします。

ちなみに、保険で入れ歯を製作して、気に入らなかったからと別の医院に行って、保険で入れ歯2個目をすぐに製作することはできません。
転院しても、新しい入れ歯を作るのは半年以上期間を開けないといけない、という保険のルールがあるからです。

まとめ

いかがでしたか?

  • ・保険の総入れ歯は、経済的な負担を軽減する素晴らしい選択肢です。
  • ・保険の総入れ歯は、治療の選択肢の一部であり、使用材料や製作方法に制限があります。
  • ・保険の総入れ歯は強度や厚み、温度の感じやすさなどにおいて、金属床義歯に劣る点があります。
  • ・保険の入れ歯か自由診療の入れ歯か迷ったら、まずは模型で確認してみると良いでしょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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