歯科麻酔 なるべく無痛に近い歯科治療の実現のために
2025年8月21日
はじめに:なぜ歯医者は嫌われがち?
麻酔の歴史は歯科から始まったことはご存じでしたか?
こんにちは、医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 副院長の吉村です。
歯科の麻酔の歴史は19世紀半ば、アメリカの歯科医師ホレス・ウェルズが笑気麻酔(亜酸化窒素)を用いて痛みを抑えた抜歯に成功したことから始まったと言われています。
麻酔が登場するまでは、抜歯はもちろん「無麻酔」で行うので、すごく痛かったんです。
現代でも「歯医者は痛い」というイメージは根強いですよね。
現代の歯医者は麻酔を繊細に使用しますし、なるべく痛みを抑えた治療を心掛けています。
それでも痛みの感じ方は人それぞれですから、同じ麻酔薬を同じように使用しても「まったく痛くなかった!」という人(多数派)と「痛かった…」という人(少数派)に分かれます。

そして過去の痛い経験がトラウマになっている方も少なくありません。
そこで今回は、痛みのメカニズムと麻酔が効く仕組みを分かりやすく解説します。
この記事を読むことで「歯医者怖い!」と思っている方が、仕組みを知ることで、少しでも安心して歯科治療を受けられるようになっていただけると嬉しいです。
1. 歯の痛みはどこで生じる?──歯で感じるのか、頭(脳)で感じるのか
皮膚をつねる、頭をぶつける、指を挟む…こうした“普通の痛み”は侵害受容性疼痛と呼ばれます。
皮膚・粘膜・筋・骨・内臓などには自由神経終末があり、強い刺激が加わると痛み信号が発生します。
歯の痛みの多くも同じ仕組みに属します。
この痛み信号は末梢から脊髄を上行し、視床などの中継を経て大脳皮質で「痛み」として認識されます。
つまり、痛みは脳で感じているのです。

なお、痛み信号は脳に届くまでの経路で**強さが増減する“変調(modulation)”**を受けます。
人によって、あるいは状況によって痛みの感じ方が違うのは、この変調機構が関わるためです。
2. 痛みを伝える神経線維と、その配置
2-1. 2種類の線維が“ズキン”と“じわー”を作る
• Aδ(エー・デルタ)線維
鋭くて速い痛みを伝える線維。
いわゆる「ズキン」という一過性の痛みが該当します。
食事で繰り返し噛むと「ズキンズキン」と連続痛になることも。
• C(シー)線維
鈍くて遅い痛みを伝える線維。
「じわじわと痛む」タイプがこれです。
「まずズキンと来て、そのあとじわーっとする」という典型的な歯痛の表現は、先にAδ線維が働き、続いてC線維が遅れて働くために起こります。
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2-2. 組織別:どこがどう痛むの?
• エナメル質
ハイドロキシアパタイトの結晶構造で、痛覚の末端は存在しません。
• 象牙質
象牙細管にAδ線維が多く、鋭い痛みとして脳に伝わりやすい部位。
• 歯髄(歯の中の神経・血管)
C線維が多く、じわじわとした痛みが主体。
硬い歯質に囲まれた閉鎖空間のため、このC線維は非常に敏感で繊細。
繰り返しの刺激で痛みが増強しやすい特徴があります。
• 歯根膜
Aδ線維とC線維の両方が存在。
噛み合わせや打診で感じる鋭い痛み(Aδ)も、病変が進んだときのじわじわ痛(C)も起こり得ます。
時に両者が相互に痛みを誘発することも。

こうした分布を踏まえて、歯科医師はレントゲンや口腔内所見と合わせながら、「どこが痛みの発生源か」を絞り込み、最も悪影響を与えている原因部位を突き止めていきます。
3. 歯科麻酔はどこに効いている?──仕組みをざっくり
痛み信号は神経細胞膜上のNa(ナトリウム)チャネルを介して生じます。
局所麻酔薬はこのNaチャネルを一時的にブロックし、痛みの電気信号の発生・伝導を遮断します。
• 外傷などで神経が損傷された状態では、痛み信号が過剰に発生しますが、麻酔を用いることで強い痛みを感じずに歯髄などの処置が可能になります。
• 歯髄の痛みは繰り返し刺激で増強しやすいため、無痛に近い治療は術後痛の軽減にもつながります。
• 言い換えると、上で述べた**“変調”を人為的にコントロール**している、と考えることもできます。
まとめ
• 痛みは脳で感じるが、その前段で強さが変調されるため、感じ方には個人差が出ます。
• Aδ線維(速く鋭い)とC線維(遅く鈍い)の役割分担が、「ズキン→じわー」という歯痛の正体。
• 組織別の線維分布(象牙質=Aδ、歯髄=C、歯根膜=両方)を理解すると、痛みの原因部位の推定に役立ちます。
• 局所麻酔はNaチャネルをブロックして痛みの電気信号を遮断。
処置中の痛み軽減だけでなく、術後の痛みの抑制にも効果があります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
• 「歯科における痛みとそのコントロール」 Dental Diamond 2003 第28巻9号
• 『歯内療法学』 第2版 第3章
歯周病のしくみ 歯周病もピラミッド
2025年7月18日
こんにちは、岩国市のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 副院長の吉村です。
歯周病と、歯周病の背景になることがらについての話題です。
1)歯周病は他因子による生活習慣病
歯周病を含めた生活習慣病の多くの原因は、複数の生活習慣や要因が積み重なることで起こります。
ピラミッドの一番下の段には、「それ単独では歯周病にはならない要因」が並んでいます。
そうした要因に口腔清掃の不足(歯石や歯垢/プラークが歯・歯ぐきに沈着すること)が重なって、歯周病を起こします。
ピラミッド図を見てください。

3段目にある「基礎疾患」とは、糖尿病や免疫疾患などです。

ある病気が、別の病気のピラミッドの底(病気の因子の一つになる)という現象は多く、歯周病も他の病気の要因になることがあります。

2)歯周病は他の病気の「因子の一つ」になる
例えば、糖尿病のピラミッド図はこのようになります。

糖尿病は、歯周病が改善するとHbA1c等の血液検査値が下がり、歯周病が悪化すると糖尿病も悪化することが知られています。
他にも、前述の動脈硬化・脳梗塞・心筋梗塞・アルツハイマー型認知症・心内膜なども歯周病が病因の一つになっています。
3)細菌の構成を示す歯周病ピラミッド
では、歯周病の病因を、細菌学的に見てみましょう。

歯周病の原因に「歯石とプラークの付着」という項目があります。
この歯石とプラークは様々な種類の細菌による複合体(コンプレックス)です。
この複合体の構成細菌の中に下記のものが含まれると、その細菌複合体は病原性が高くなっていきます。
プラークに含まれると病原性が高くなる細菌
・歯周病菌の病原性が強い細菌
・歯に付着する能力高い細菌
・酸をたくさん作る、虫歯の病原性が高い細菌
下図は細菌複合体の病原性が高いか低いかを示す「Scoranskyのピラミッド」です。
これは、歯周ポケットの中の細菌を分類したものになります。

4)歯周病を引き起こす細菌群
4-1)初期付着細菌群…虫歯菌など
ピラミッドの一番下の段は、初期付着細菌群で、虫歯の原因菌なども含まれます。
これらの菌は、酸素が豊富な環境で繁殖します。
そして細菌の外側に菌対外多糖といわれる「ネバネバ」を作り出します。
ネバネバが糊(のり)の役割をして、菌を歯の表面にひっつけることができます。

これらの菌は小学生頃定着することが多いようです。
虫歯の病原性はありますが、歯周病の病原性は高くありません。
4-2)オレンジコンプレックス(歯周病の中程度悪性細菌群)
初期付着細菌群が作り出す「ネバネバ」は、自力では歯にくっつく力のない他の菌の棲み家になります。
この、初期付着細菌群が作り出した「ネバネバ」に、次にやってくる菌たちが「オレンジコンプレックス」といわれる中程度悪性細菌群です。

オレンジコンプレックスの細菌(代表菌はFusobacterium nucleatum, Prevotella intermedia など)は、歯肉炎や思春期性や妊娠性の歯周炎を引き起こします。
これらの菌が15から18歳前後で口腔への定着がみられるようです。
4-3)レッドコンプレックス(歯周病の高悪性細菌群)
こうして軽度の歯肉炎・歯周炎がオレンジコンプレックス細菌群によって引き起こされると、プラーク内の酸素はどんどん減少し、高病原性の細菌群であるレッドコンプレックス細菌群が棲める環境へと変わっていきます。
そして赤い頂点の細菌群、レッドコンプレックス(歯周病の高病原性の細菌群)がプラークの中に形成されていきます。
代表菌であるPorphyromonas gingivalis, Tannerella forsythia, Treponema denticolaは、歯周病の主役級で、18歳頃から見られはじめ、30代以降には定着が見られます。

Socranskyのピラミッド:ポイント早見表

出典(参考文献)
[1] Socransky SS, Haffajee AD, Cugini MA, Smith C, Kent RL Jr. Microbial complexes in subgingival plaque. J Clin Periodontol. 1998;25(2):134-144. doi:10.1111/j.1600-051X.1998.tb02419.x.
[2] Haffajee AD, Socransky SS. Microbial etiological agents of destructive periodontal diseases. Periodontol 2000. 1994;5:78-111. doi:10.1111/j.1600-0757.1994.tb00020.x.
[3] Holt SC, Ebersole JL. Porphyromonas gingivalis, Treponema denticola, and Tannerella forsythia: the “red complex,” a prototype polybacterial pathogenic consortium in periodontitis. Periodontol 2000. 2005;38:72-122. doi:10.1111/j.1600-0757.2005.00113.x.
[4] Chen Y, Shi T, Li Y, Huang L, Yin D. Fusobacterium nucleatum: The Opportunistic Pathogen of Periodontal and Peri-Implant Diseases. Front Microbiol. 2022;13:860149. doi:10.3389/fmicb.2022.860149.
[5] Aruni AW, Dou Y, Mishra A, Fletcher HM. The Biofilm Community—Rebels with a Cause. Curr Oral Health Rep. 2015;2(1):48-56. doi:10.1007/s40496-014-0044-5.
[6] Boisen G, Davies JR, Neilands J. Acid tolerance in early colonizers of oral biofilms. BMC Microbiol. 2021;21:45. doi:10.1186/s12866-021-02089-2.
5)歯周病菌の歯への付着を阻止できる!?できない!?
結論からお伝えします。
これらの菌を歯に付着させない、定着させない、ということは不可能です。
というのは、これらの細菌は多くの人の口腔に存在する口腔常在菌で、親子のスキンシップや様々な日常生活を経て口腔内に定着するからです。
感染経路を完全に遮断することはできません。
また、歯周病菌が口腔に定着しているすべての人が歯周病になるわけでもありません。
通常、口の中にいる菌は大きく分けて3種類と言われています。
善玉菌、悪玉菌、日和見菌と呼ばれているものです。
その比率は2:1:7と、日和見菌の割合が圧倒的に多いのです。
口腔内にいる菌
・善玉菌(Streptococcus salivarius、Streptococcus sanguinis、Streptococcus mitisなど)
病原菌抑制やpH緩衝能で口腔内環境を安定化させる細菌たち
・悪玉菌(虫歯菌Streptococcus mutans、歯周病菌Porphyromonas gingivalisなど)
虫歯を作ったり、歯周病を引き起こす力が強い細菌たち
・日和見菌(Fusobacterium nucleatum、Prevotella intermediaなど)
オレンジコンプレックスの菌で、病原性は低いが、レッドコンプレックスの菌を定着させる橋渡しの役割を果たす。
条件がそろわなければ「特に何もしない」「いるだけ」の存在。
しかし、口腔内の衛生状態が悪化すると悪玉菌にとって居心地の良い環境を整えてしまう。
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日和見菌が悪玉菌の味方になってしまわないように、しっかり歯磨きをしたり、定期的に歯科医院に通院して歯石を除去したり、適切な飲食習慣をもつことが重要です。
6)歯垢(プラーク)が病原性を強く持つ状態「マイクロバイアルシフト」と歯周病治療
歯磨きが足りなかったり、歯石が付着した状態を放置してしまったりすると、歯垢や歯石の中は高病原性細菌が優勢となっていきます。
歯垢や歯石の変化(pH低下、栄養素変化、酸素濃度低下など)が原因で、悪玉菌にとって居心地が良い環境が整えられてしまった状態です。
歯周病の治療は、まさにこの状態を改善することにあります。

(歯周病学,1996,末永書店、第4章より改変して引用)
7)マイクロバイアルシフトの防ぎ方
①甘いものや炭水化物などの糖質の過剰摂取を控えること
② コーラのような甘い炭酸水などの酸性飲料水を減らすこと
③ 毎日の歯磨きと、歯医者さんでのクリーニングでお口の中をいつも清潔に保つこと
④ 十分な栄養と睡眠時間を確保し体調を整え免疫力を保つこと
⑤歯茎から出血しているところを放置しないようにすること
(昭和学士会誌 第79巻5号 歯周病とう蝕の最新バイオロジー より引用)
特に⑤は重要です。
血液は栄養の塊で、特に鉄分がレッドコンプレックスの増殖には必須であるためです。
歯磨きが不足してしまうと、30代以降では2-3日で容易に出血するようになりますから、注意が必要です。
まずは出血しない歯茎を目指して、歯磨きすること、定期的に歯石を除去することがおススメです。
まとめ
いかがでしたか?
・歯周病はバイオフィルム感染症であり、悪化の原因は色々な因子が影響するが、最も良くないのはバイオフィルムの悪性化(成熟)である
・環境が悪化すると日和見菌が悪性の働きをしてしまい、悪玉菌がさらに悪性化していく。
この状態をマイクロバイアルシフトという。
・プラークの除去は、年代や状況に応じてやり方が異なります。
・マイクロバイアルシフトを防ぐのは生活習慣の積み重ねであるが、歯の出血は歯周病の原因でもあり、大きな指標でもある。
歯周病治療は、各個人でのオーダーメイドな対策が大事です。
歯の状態、歯茎の状態、歯並びや歯磨きの癖の問題、かみ合わせや、歯石の付着状況などを総合的に検査・診断し、最適な治療を行う必要があります。
歯磨きすると歯茎から血が出る方や、しばらく歯医者に行っていないという方は、ぜひ歯科医院でチェックを受けてみていただけたらと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
虫歯のしくみ 感染症として考える
2025年6月24日
岩国市のつぼい歯科クリニック 副院長の吉村剛です。
当院では、スタッフ全員が同じ基準で動ける“わかりやすい職場”をめざし、日々の業務を「仕組み化」しています。
仕組み化とは――
A)問題を言語化して、焦点をはっきりさせる
B)解決策を言語化する
C)解決策を行動手順に分解し、実践する
というシンプルなプロセスです。

この考え方は、虫歯や歯周病などの口腔トラブルの予防・解決にもそのまま応用できます。
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世の中に数多くあるエビデンス(根拠)や病因論を分かりやすくご紹介することで、あなたのお口のトラブル予防「仕組化」のお役に立てたらうれしいです!
1)虫歯(う蝕)のしくみ 感染症として考える
1-1)う蝕は「三要因感染症」
う蝕は、歯のカルシウム成分が菌などの産生する酸によって脱灰(溶け出し)、エナメル質、象牙質、歯髄など歯の内部の構造を破壊していく感染症です。
すべての感染症は、「感染症に罹患(りかん)するか否か,罹患した場合に重症化・難治化するか否かは,微生物,宿主,環境の3つの要因によって規定されます」(小児感染免疫,Vol.35No.1,31)。

簡単に言うと、虫歯は「歯の質」も関係しますが、日ごろのケアや食生活で重症化します、ということです。
1-2)虫歯菌
虫歯の原因菌はS.mutans とよばれる口腔内常在菌とされています。
S.mutans は 1 歳頃の萌出歯へ母子感染することが多く、初期定着菌を減らせば生涯う蝕リスクを下げることができる と報告されています(Caries Res 54:297-305, 2020)。
一方で、最終的な虫歯リスクは、S.mutansを含めた口腔常在菌の総合体(バイオフィルム)の性質で決まると言われています。
虫歯菌は自分の体の外に、菌体外多糖という「糊(のり)」を作る機能があります。
細菌には、糊を作って自分の身を守るタイプの菌と、糊を作らないタイプの菌があります。
キッチンの三角コーナーのヌルヌルを想像してみてください。

この「糊」を大量に作ることができる虫歯菌がたっぷり含まれているプラークは、歯の表面に引っ付く力が非常に強く、さらに「自力では歯に引っ付くことができない他の病原菌まで歯に定着させてしまう」という性質があります。
その結果、病原性の高いバイオフィルム(菌の集合体)が作られ、虫歯になってしまうのです(Dental Diamond 29(1):30-58, 2024)。
排水溝や三角コーナーのぬめりは、普通の食器用洗剤をかけただけではなかなか落とすことはできず、ハイターのような強力で人体に有害な殺菌剤を使うか、スポンジで擦って洗うかしないとヌルヌルを落とすことができない、という経験をしたことがある人は多いでしょう。
食後、お口の中では、排水溝や三角コーナーのぬめりと同じようなことが起こっています。
お口の中にハイターのような有害な殺菌剤は使えませんから、当然、擦り洗い(歯磨き)が必要になります。
2)虫歯という感染症を予防する方法
2-1)虫歯菌の感染経路を減らす
生まれたばかりの時、赤ちゃんの口に虫歯菌はいません。
では、最初のスタートとなる菌は、どこから来るのでしょうか?
虫歯菌の感染経路は
6割:お母さん
3割:お父さん
1割:その他
とされています。

この菌(初期定着菌)の性質や量も重要です。
主たる養育者(多くは母親)の口の中の細菌レベルを下げることで、う蝕経験が減少するという報告があります(Dental Diamond Vol.29No.1,30-58)。
お母さん・お父さんの口の中の虫歯を治療したり、歯石や歯垢を除去して口腔内を綺麗にすると、赤ちゃんへの虫歯菌の感染を減らすことができる、ということです。
2-2)感染してしまったら、虫歯菌の増殖を防ぐ
虫歯菌の感染経路を減らす努力をすることで、虫歯菌の感染の確率を下げることはできます。
しかし、虫歯菌の感染をゼロにできるわけではありません。
虫歯菌の感染があったとしても、虫歯菌の増殖を防ぐ取り組みも併用しましょう!
最も効果的な虫歯菌の増殖予防方法は「砂糖の摂取量を減らす」ことです。
砂糖の商品化と共に虫歯のパンデミックが広がったという世界的な経緯があります(う蝕の分子生物学,第1章)。

また、小児期(5歳ぐらいまで)においては虫歯の経験指数は砂糖の摂取量に比例するという報告があり(Cor van Loveren,Caries Res, 53; 168-175, 2019.)、砂糖の摂取量が最も大きくう蝕に影響しているのは間違いありません。
2-3)フッ素で虫歯に抵抗力のある歯を作る
日本人を含むアジア人は、他の人種と比較してエナメル質が薄いとの報告があります(歯の解剖学、p22-24)。

エナメル質は歯の一番表面にある、虫歯に抵抗性がある表面素材です。
エナメル質が薄い場合、エナメル質が厚い場合に比べて虫歯のリスクは高くなります。
つまり、日本人は先天的に虫歯リスクが高い歯を持っていると言えるのです。
そのため、フッ素を用いて歯の耐酸性を強化するなどの対策が必要です。
よくある保護者の方からの質問「フッ素は何歳からやった方がいいんですか?」
フッ素は、何歳からでも歯の強化には有効です。
より効果的に虫歯の罹患(りかん)率を下げるために、特に虫歯になりやすい時期に重点的に対策するのがおすすめです。
虫歯の罹患率が高くなる時期(Dental Diamond Vol.29No.1,30-58)
・3~4歳ごろ:歯の生えた直後の乳歯
・6歳ごろ:第一大臼歯の生えた直後
・12歳ごろ:第二大臼歯が生えた直後

年齢別総人口は総務省「人口推計」(2021年10月)
虫歯有病率は、3歳児は厚生労働省「乳幼児歯科健診結果」(2020年度)
5~17歳は文部科学省「学校保健統計調査」(令和3年度、未処置う歯のある者の割合)
生えた直後の歯は、生えてから時間がたった後の歯よりも虫歯への抵抗性が低いです。
フッ素塗布の他に、シーラントという「虫歯になる前に予防的に溝をフッ素徐放レジンで埋める(予防填塞:よぼうてんそく)」処置も有効です。
2-4)物理的に虫歯菌を除去する(減らす)
日ごろの歯磨き習慣や、歯科医院で歯磨きだけでは難しい取り残したプラークを専門的にに清掃してもらうことを定期的に行うなど、物理的な虫歯菌の除去も効果的です。
古い歯垢・歯石の中は酸性度が高いことも多いためです。
3)歯科医院で検査、チェックすることから始めましょう!
以上により、虫歯のリスクと対策を簡単に説明しました。
免疫状態や生活環境などにより、個人差が大きく、対策ポイントの優先順位は千差万別です。
よって、患者さんお一人お一人のオーダーメイドな対策が大事になってきます。
まずは一度、歯科医院で検査、チェックすることから始めることをおすすめします。
まとめ
いかがでしたか?
・虫歯を含む感染症は微生物,宿主,環境の3つの要因によって規定されます。
・S.mutans菌は主たる保育者などから伝播し、保育者のう蝕リスクも子供のう蝕リスクに影響します。
・砂糖の摂取量がう蝕リスクに大きく影響します。
・う蝕の罹患率は萌出直後に最も高まります。
各個人でのオーダーメイドな対策が大事です。
歯科医院で検査、チェックすることから始めましょう。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
最近使われるようになった歯科材料(白い材料編)
2025年5月20日
こんにちは、医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 副院長の吉村です。
今回も歯科材料分野のお話(第4回)です。
歯科材料についての過去の記事はこちら
第1回 詰め物を歯にひっつける「接着」と、なるべく削らない歯科治療:MI(ミニマルインターベンション)
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7032
第2回 歯科治療と接着性レジンセメントに求められる性質
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7106
第3回 最近使われるようになった歯科材料と消えていった歯科材料(金属編)
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7180
1)歯が白いと若く見える!?
歯が白いと何が違うのでしょうか。
白い歯は相手に、『若さ』や『清潔感』といった印象を与えると言われています。
イギリスの大衆紙 Daily Mail が行った調査では、歯が白い人は平均で実年齢より 5歳 若く見えたそうです。

元記事のタイトル:
Bad teeth age us by 12 YEARS: Experts say stained smiles can add more than a decade to your face – but would you try this alternative to whitening?
調査の概要(要約)
・英国マンチェスター Carisbrook Dental の Dr. Tariq Idrees らが 1,000 人の一般ボランティアに写真を提示。
・同一人物の歯を ①真っ白 ②軽度着色 ③重度着色 の3種類に加工し、見た目年齢を推定してもらった。
・軽い着色でも女性は+6歳、男性は+4歳老けて見えた。
・歯の色は、肌のシワより年齢判断に影響する可能性がある。

歯が白いと、光の反射の影響で歯のデコボコが目立たなくなります。
そのため、歯並びまで整って見える効果があります。
第一印象の半分は視覚情報といわれていますから、白い歯がおよぼす好感度は大きいと言えるでしょう。
2)歯科材料を取り巻く3つの潮流
今使われる歯科材料には大きな流れが3つあります。
・JIS規格(日本工業規格)からISO(国際規格)への流れ
・デジタル技術の普及
・新素材の開発と改良

従来の規格・技法・材料も、まだまだ現役ではありますが、主流となっている規格・技法・素材は、既に移り変わっている印象です。
3)改良・開発が著しい「白い材料」
3-1) CR(コンポジットレジン)〈保険〉
プラスチックにセラミック粒子を混ぜた材料。
レジン単独では強度が小さいところ、セラミックス粒子を配合することで硬さや白さ、美しさを出します。
接着力が高く、歯を削る量を小さくできる利点を持ちますが、劣化しやすい欠点も併せもっています。
劣化しやすい欠点はまだ改善できていませんが、歯の土台向けに弾力強化タイプや、色馴染みがより良いタイプなど、色んなタイプが開発されてきています。
3-2) CAD/CAM用ハイブリッドセラミック 〈保険/自費〉
コンポジットレジンと同じく、プラスチックにセラミック粒子を混ぜた材料。
こちらの方がセラミック粒子の配合率が高く、工場で徹底的に硬化されるため変色や摩耗が少なめ。
ただし金属やジルコニア、ファインセラミックほどの強度はありません。
3-3) CAD/CAM用 PEEK〈保険〉
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)は軽くてしなやか、アレルギーの心配がほぼない新素材。
ただし色調が不透明な「粘土色」「真っ白」の2種しかなく、擦り減りやすい点、接着がやや不安定な点が課題です。
5年を超える長期症例が無いことから、まだ過渡期の材料と言えるかもしれません。
3-4)e-maxとジルコニア(セラミックス)〈自費〉
白い素材で最も有名なのはセラミックスです。
昔はフレーム構造という土台が必要でしたが現在はコンピューター制御の進化と共にオールセラミックでの技工が容易になりました。
そして、これを接着性レジンで歯と強固に接着させる術式が現在一般的です。
現在よく使われているのがe-maxとジルコニアです。

e-maxはニケイ酸リチウムを鋳型に押し出して作るタイプと、ブロックを削り出して焼成するタイプがあります。
精度は鋳型を使用するタイプの方が圧倒的に高いため、当院では鋳型タイプを使用しています。
強度と美しさが両立しており、また歯と硬さが近いこともあって、特に詰め物の材料として人気です。
一方のジルコニアは、二酸化ジルコニウムのブロックを削り出して焼成します。
強度、弾性ともに非常に優れた材料ですが、審美性に関しては、e-maxの方がより透明感があり美しいと言われています。
ただ、ジルコニアも結晶化技術の改善により、透明感が出せるように開発が進んでいます。
4)新技術・新材料の利点と欠点、欠点に対する対策
新技術や新材料の進化と共に、より美しい詰め物・被せ物を利用することができるようになりました。

新しい材料の利点は何といっても
・生体親和性が高い(安全)
・白く自然な見た目 *PEEKを除く
ですが、利点ばかりではありません。
白い新材料の弱点は
・習慣性の歯ぎしりや喰いしばりがある場合は、割れてしまうことがあり得る
という点でしょう。
割れやすいことが治療前から予測される場合は、
・神経を既に取った症例では、詰め物・被せ物が割れない厚さになるように削る
・使用材料としてセラミックを避ける
・マウスピースで歯と詰め物を保護する
・咬筋ボトックスなどで食いしばりを防ぐ
などの対策を行うことがあります。
5)最高の「歯の詰め物・被せ物の材料とは?」
金は虫歯再発防止という点では最高で、目立つと言う点では残念。
e-maxは美しいという点では最高で、強度という点では惜しい。
ジルコニアは強度と白さという点では素晴らしいけれど、e-maxと比べて透明感が物足りない…。
コンポジットレジンは安くて治療も早く終わると言う点では最高で、劣化が早いという点では残念。
では、真の最高の材料とは、何でしょうか?
最も安く、安全で、一番良い材料は自分の自前の歯です!(2回目)

まとめ
いかがでしたか?
・歯の白いと顔の印象が若く見えると言われています。
・今使われる歯科材料には大きな流れが3つあります。
日本規格から国際規格への流れ、デジタル技術の応用促進、新素材の開発です。
・最も安全で良く、なおかつ安価なのは自前の歯です!(2回目)
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
最近使われるようになった歯科材料と消えていった歯科材料(金属編)
2025年4月21日
こんにちは。岩国のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 副院長の吉村です。
今回も歯科材料分野のブログ(第3回)です。
歯科材料についての過去の記事はこちら
第1回 詰め物を歯にひっつける「接着」と、なるべく削らない歯科治療:MI(ミニマルインターベンション)
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7032
第2回 歯科治療と接着性レジンセメントに求められる性質
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7106
これまでのブログで書いてきましたが、歯科材料の進化と、それに伴って消えていく材料というのがあります。
20年前、僕の学生時代に、研究室で眺めたり、話に聞いていた材料が現実の臨床で使われる時代になりました。
最近の歯科材料は『体にやさしい』がキーワードのように思います。
その流れの中で、新たに出現した材料もあれば、消えていった材料があります。
今回はその視点で歯科材料を見ていこうと思います。
今回は金属材料編、次回はその他の材料(主には白い材料)にしようと思います。
1.「保険の銀」の特徴
口腔内は極めて過酷な環境です。
口の中では熱いもの、冷たいものが通過し、また酸性のもの、たまにアルカリ性のものが行きかいます。
また、細菌は多い人であれば1兆個(10の12乗)もいます。
環境が悪いと細菌はメチルカプタンなどの硫化水素化合物を出します。
これは口臭の原因でもある、きわめて酸化力が高い毒ガスです。
噴火口の匂いのあれです。
口の中では、金属は錆びます。
歯科治療でいわゆる「保険の銀歯」と言われる、「金銀パラジウム合金(金パラ)」は、金12%、銀50%、パラジウム20%、銅17%で構成されており、その他にもスズや亜鉛、インジウム、アルミニウムなども含まれています。
金銀パラジウム合金という名前ですが、銀が50%なので、要は銀合金です。
銀は加工性が良く、パラジウムは強度を高める効果があります。
金は耐食性を高めるために配合されていますが、口腔内で合金が科学的に安定するのには金やプラチナの合計が全体の75%以上を占める必要があるので、科学的に少し不安定というデメリットがあります。
銀のカトラリーや、銀のアクセサリーが黒くくすんでしまう現象を見たことがある人は多いかもしれません。
銀は硫化水素やメチルメルカプタンといった硫黄系のガスと結合して真っ黒な硫化銀を作る性質があります。

金銀パラジウム合金は、銀の性質(加工性は良いが科学的に不安定)のために金属イオンを放出しやすく、金属アレルギーの原因になったり、メタルタトゥーといって金属イオンが歯茎や歯に入り込むことで周囲の組織に入れ墨のような変色を起こしたりします。
一方で、加工性が良く、強度があるという優れた特徴も持っているため、詰め物や被せ物、ブリッジ、入れ歯などさまざまな形で使用されています。
2.「保険の銀」金銀パラジウム合金の歴史
金銀パラジウム合金の登場
戦後すぐ(1945~1955)には、日本には国民皆保険制度はありませんでした。
食糧難の中、虫歯になる人もほとんどいません。
しかし戦後の復興期(1955~1960)に国民の砂糖使用量が急増、虫歯も同時に爆発的に増えて「国民病」と言われるようになりました。
歯科治療において、安定した品質で安価に供給できる金属が求められました。
そこで1950年代後半に保険収載金属として登場したのが、金銀パラジウム合金でした。
金に比べると科学的安定性は大幅に劣るものの、当時の銀合金や銅合金に比べるとずっと安定していて、「国民病」となった虫歯の安価な詰め物として普及していきました。
金と比べて科学的に不安定という点については、登場当初から慎重な意見は多くありました。
金銀パラジウム合金の健康に対する慎重な意見と海外での使用状況
例えば『補綴歯科』誌(日本補綴歯科学会発行)1950〜60年代の号において、金パラの腐食性や生体適合性について慎重な意見が記載されています。
当時の補綴学者や材料学者の間では、パラジウムの生体への影響や銀の腐食性を懸念する声が、学術論文や座談会、討論記録の中での発言として多く見られます。
特に1959〜1965年ごろの文献に、「金銀パラジウムはコスト優先であり、理想的な補綴金属とは言い難い」とする記述もあります。
少し遅くに日本で開発された接着レジンは、現在では世界中で使用されています。
しかし、同じく日本で開発された金銀パラジウム合金は、日本以外ではほとんど使われていません。
特にパラジウムの使用については、法規制されている国(スウェーデン、ノルウェーなど)や慎重に検討せよとする国(ドイツなど)もあります。

3. 日本でも「保険の銀」金銀パラジウム合金の歯科での消費量は減少している
では、金銀パラジウム合金の日本国内での使用量はどう変わってきたでしょうか?

※ 上記はあくまで歯科用合金としての使用量の推定値です。
※2024年の推定消費量は10トンと言われています。
参考資料:
厚生労働省「歯科用貴金属材料の使用実態調査」
日本歯科材料工業協同組合 年次報告書
貴金属流通統計(田中貴金属、三井金属など)
金銀パラジウム合金はこの5~6年で6割も消費量が減っています。
他の材料の登場や、金属価格の高騰、虫歯の減少など、さまざまな背景によるものです。
まだまだ現役だけれども、使用量を減らし続けている材料だと言えるでしょう。
4. 消えた材料、水銀化合物「アマルガム」
消えていった材料としてはアマルガムがあります。
アマルガムは水銀化合物という意味で、水銀と銀、銅、スズといった金属の化合物です。
金属なのに常温での取り扱いが可能で(鋳造が不要)、固まってしまえば物理的に安定すると「されていた」ため、昔はよく使われました。

現在使われていない理由はデメリットの多さです。
アマルガムのデメリット
・作業時に有毒な水銀が気化してしまう
・科学的に不安定で着色、金属アレルギーの原因になること
・物理的にも強度が弱く、亀裂や破折が頻繁に起こること
・水銀を使用するため環境負荷が高いこと
・2019年の「水俣条約」施行のため水銀使用に対する法的規制が強化されたこと
・保険収載からも外されたこと
などから、現在では新規治療の際の選択肢としては完全に消えました。
5. 新たに登場した金属「チタン冠」
最近日本で保険算定されるようになった金属には、純チタン冠があります。
チタンは酸化すると科学的に安定する材料で、生体親和性が高く、アレルギーを起こしにくいといった特徴があります。
またとても硬い材料です。
5-1)純チタン冠のメリット・デメリット
メリット
・生体親和性が高く、アレルギーが起きにくい
・腐食に強く、口腔内でも安定
・比較的低コストで保険適用が可能
デメリット
・加工に特殊設備が必要で、鋳造や溶接に技術を要する
・見た目が審美的に劣る(銀色)
・複雑な加工が困難であるため単冠にしか使用できない(インレーや連結冠、ブリッジはNG)
科学的に安定している点は金銀パラジウム合金より優れていて、高精度の加工が困難という点は金銀パラジウム合金より劣っています。
5-2)純チタン冠の日本における使用状況

2004年に保険収載されました。
2020年のロシア・ウクライナ戦争でパラジウムの価格が高騰したため(ロシアは主要なパラジウムの生産国です)金銀パラジウム合金の価格が高騰し、保険での使用が困難になった時期に「金銀パラジウム合金の代替金属」として一気に普及しました。

※ 歯科用チタンインプラントとは別の統計です。
5-3)純チタン冠の世界的な使用は非常に少ない
結論から言うと、「純チタン冠を一般的に、しかも積極的に使用している国は非常に少ない」です。
ほとんどの国では、「インプラント体や義歯フレーム、インフラ構造物(コーピング)」にはチタンが使用されますが、単独クラウン(チタンクラウン)としての使用は限定的です。
ただこれは、「有害だから」ではなく
「加工に難があるのに、わざわざ純チタンを導入する必要ないよね」
「設備投資して作るのが銀色のチタン冠?白いジルコニアで十分だよね」
という感じです。
背景に、「日本は保険で使用する金銀パラジウム合金の代替金属がどうしても必要」という事情があり、
日本以外の国には金銀パラジウム合金は普及しておらず、最初からセラミックやジルコニアが普及していた、という事情があります。

6. 世界最古の歯科用金属で現在も王者、ゴールド
「錆びない。体に優しい。柔らかさもあって扱いも楽。壊れない。そんな材料は存在するのか?」と言われたら、存在します。金です。
昔から使われており、安定性も高く、とても良い材料です。
6-1)歯科用金属としての金の歴史

世界最古にして、現在も最高の歯科用金属、それが金です。
6-2)歯科用金属としての金の特徴
加工性: 非常に高く、鋳造・研磨・適合性に優れる
耐久性: 長期的に安定し、破損・腐食しにくい
生体親和性: アレルギーリスクが低く、安全性が高い
虫歯の再発: 全ての歯科材料の中で最も起こしにくい
審美性: 目立つ
コスト: 高い
非常によい歯科材料ではありますが、「目立つ+高額」という大きな欠点があります。
特に価格面については、政情不安になって為替への信頼性が下がると、金相場は必ず上がってしまいます。

近年のあまりの相場の上昇に、ゴールドを選択する患者さんが「財テクの一種と思うわ」と冗談を仰るほどです。
7.現在の歯科用材料は「体に優しい」がキーワード
かつて歯科用材料として盛んに使用され、現在では使用量が減った材料の特徴の共通点は
以下の通りです。
長所:操作性、加工性が良い(歯医者が扱いやすい)
短所:科学的に安定性が低い(錆びやすさ、アレルギーの原因になる)
現在では「手間暇よりも、少しでも患者さんの体に良いものを」という価値観が、患者さんにとっても歯科医師にとっても、主流の考えになってきたと思います。
もう一つ言うと、
最も安く、安全で、一番良い材料は自分の自前の歯ですよ!
ぜひ、大事にメンテナンスしてくださいね♪
まとめ
いかがでしたか?
・現在の歯科材料は『体に優しい』が重視されるようになりました。
・金は最古の歯科用金属でありながら、現在でも最も高品質な歯科用金属です。
・最も安全で安価で高性能なのは自前の歯です!
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
歯科レーザー治療のメリットと注意点とは?
2025年4月5日
こんにちは、つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科の歯科医師 藤東です。
今日は、歯科におけるレーザー治療についてお話しします。
レーザー治療は、虫歯や歯周病の治療、外科処置など、さまざまな場面で活用されている治療法です。
この記事では、レーザー治療の特徴やメリット、注意点 について詳しくご紹介します。

1. 歯科におけるレーザー治療とは?
レーザー治療は、特定の波長の光を利用して、組織を切開・蒸散・凝固する技術 です。
医科の分野では、皮膚科や眼科などでも使用されており、歯科でもさまざまな治療に応用されています。
主に以下のような治療に使われます。
✅ むし歯の治療(小さな虫歯を痛みなく削る)
✅ 歯周病の治療(歯ぐきの炎症を抑え、殺菌する)
✅ 口内炎の治療(痛みを和らげ、治りを早くする)
✅ 知覚過敏の緩和(歯がしみるのを抑える)
✅ 歯ぐきの黒ずみ除去(メラニン色素を除去し、ピンク色の歯ぐきにする)
✅ 根の治療の際の洗浄(蒸散作用を利用して泡の力で洗浄)
*ここでは当院で使用されているエルビウムヤグレーザーについて解説します。

2. レーザー治療のメリット
エルビウムヤグレーザーには、従来の治療方法と比べていくつかのメリットがあります。
2-1)痛みが少ない
レーザーは組織の水分を瞬時に蒸発させながら処置を行うため、神経を刺激しにくく、痛みが軽減されます。
麻酔が必要ない場合もあり、特に歯を削る音や振動が苦手な方に適した治療です。
2-2) 出血が少なく、治りが早い
・止血作用により出血を最小限に抑えられる
・殺菌効果により治療後の感染リスクが低い
・温熱効果によって傷の治りが早い
2-3) 知覚過敏の症状を抑えられる
軽度な知覚過敏に対しては、レーザーを当てることでしみる症状を抑えられる 可能性があります。
ただし、むし歯でしみる場合は削る治療が必要になるため、従来の削って詰める治療が必要です。
2-4) 歯ぐきの黒ずみを改善できる
メラニン色素が沈着して黒ずんだ歯ぐきに対して、レーザーを使用することでピンク色の健康的な歯ぐきを取り戻すことができます。

3. レーザー治療の注意点
レーザー治療には多くのメリットがありますが、すべての症例に適用できるわけではありません。
3-1)深いむし歯には適用できない
レーザーは初期のむし歯や小さな虫歯には有効ですが、象牙質に達したむし歯や神経に近い虫歯には従来の治療が必要になることもあります。
3-2) 保険適用外の治療もある
虫歯や口内炎、歯周病治療など、大半の場合には保険が適用されますが、歯ぐきの黒ずみ除去などは、自由診療(自費診療)となります。
3-3) 金属や詰め物には使用できない
レーザーの種類によっては、金属の詰め物や被せ物に影響を与える可能性 があるため、適用できないケースがあります。
治療前に歯科医師と相談しましょう。
3-4)時間がかかる
レーザーは照射範囲(レーザーの当たる部分)がとても小さく、従来のドリルのような器具に比べて削る力がとても弱いです。
小さな面積で光を当てていくため治療に時間がかかってしまいます。
虫歯治療でレーザーがあまり用いられない最大の理由です。
そのため、お子さんの治療にはあまり向きません(長時間、口を開けて我慢できないことが多いため)。

まとめ
いかがでしたか?
・歯科におけるレーザー治療は、痛みが少なく、出血や感染リスクを抑えられるなど、多くのメリットがあります。
・歯ぐきの治療、知覚過敏の緩和には特に有効です。
・多くの処置にレーザー治療は保険適応で使用できます。
・歯肉の黒ずみ除去は保険適応外になります。
つぼい歯科クリニックではレーザー治療を受けることが可能です。
レーザー治療が気になる方は、お気軽にお尋ねください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
歯科治療と接着性レジンセメントに求められる性質
2025年3月24日
こんにちは!岩国市のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 吉村剛です。
今回も歯科材料分野のブログ 第二弾、歯の被せ物の材料と接着セメントについてのお話です。
まだご覧になっていない人はこちらの記事もどうぞ
第一弾 詰め物を歯にひっつける「接着」と、なるべく削らない歯科治療:MI(ミニマルインターベンション)
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7032
1. 歴史的な歯の美意識の変化
時と共に、歯の美意識も変わってきました。
大昔、日本の既婚女性の歯はお歯黒というもので黒く染められていました。
この黒は鉄成分で虫歯予防効果や、虫歯を目立たせない効果がありました。

40年ぐらい前になると時代はバブルです。
わざわざ歯を金に置き換えて闇にキラッと光る歯が、お金持ちの象徴とされました。
昔のミュージシャンの動画とか見ると、金歯よく見ます。
平成時代に入ると、時代は真っ白な歯です。
スポーツ選手や芸能人の歯は紙のような白さの歯をめざし、1995年には「芸能人は歯が命」というキャッチコピーが、流行語大賞にも選ばれました。
一本だけ白くしても逆に目立つので、全体のトーンを合わせることが一般的になりました。
令和の現在はそこから変わって、ナチュラルな歯の色が一般的です。
ただし、昔と比べ明らかに全体的に明るい色が好まれるようになり、特に全体のトーン、バランスがとれていることが求められるようになりました。
歯のホワイトニングをする人も、かなり増えました。
ということで、現在の歯の被せ物の材料は、透明感がありながらも、天然の歯の色調を表現できることが重要になりました。
2.現代の歯の詰め物・被せ物の材質

左:ジルコニア冠(クラウン) 右:エステティックジルコニア冠(クラウン)
上の写真はどちらもジルコニアという、見た目が綺麗な被せ物の材料でできています。
左右の画像を見比べてみてください。
右の方は歯の尖端に半透明の部分があります。
天然の歯も、一番外側は半透明なので、より天然の歯に近い見た目になっています。
現代の「審美補綴物(しんびほてつぶつ)」見た目が綺麗とされる材料は多種あるのですが、代表的なものが上の写真のジルコニアを含めたセラミックです。
このセラミックにも、いろいろな種類がありますし、なんならメーカーごと、製品ごとに違いがあります。
基本的にセラミックはお皿などの陶材から進化した材料です。
硬く、白く綺麗で、歯に近い透明感があり、患者さんからはもっとも人気が高い素材の一つです。
代表的な材料と天然の歯、保険の銀との物性の比較は下記の通りです。

弾性率:大きいほど柔軟性がある
曲げ強さ:大きいほど丈夫
圧縮強さ:大きいほど丈夫
モース硬度:大きいほど硬く耐摩耗性がある
破壊靭性:大きいほど亀裂が出来たときに割れにくい
実はセラミックは天然の歯より、柔軟で丈夫で摩耗に強いのです。
ジルコニアは陶器のような見た目なのに金属より柔軟性があり、耐摩耗性が高いため、しっかり鏡面研磨すればジルコニア冠もお向かいの天然の歯も、摩耗しにくいと言われています。
3.昔はセラミックを歯に直接、接合させることができなかった。
いかにセラミックが優れた柔軟性や丈夫さを獲得しても、人の体重とほぼ等しいという圧力を日常的に受ける歯に、1㎜程度の薄さで被せるとなると、耐久性の問題が発生してしまうのです。
歯と完全に一体化できるならば、天然の歯と等しい性能を発揮できます。
しかし、歯とセラミックの間に「歯科用セメント」の層が入ることにより、その性能を発揮できない時代が長くありました。
硬いものと硬いものをセメントで張り付けたものに、力をかければどうなるでしょう?
セメントの接着強度が低ければ、いかに優れた材料であっても、接合面が壊れてしまいます。
セラミックが天然の歯よりも物性に優れているのに、天然の歯より割れやすいのは、この「接合面が弱い」問題があるからです。
逆に天然の歯は「最初から一塊で継ぎ目がない」からこそ、割れにくいのです。
・「接着性レジンセメント」登場前の、セラミックの問題点

セラミック(実は天然の歯も)は、曲げ強くて強度があっても、一定以上の強い力がかかって一部に小さなヒビが入ってしまうと、ヒビが全体に広がって割れてしまいます。
これを脆性破壊と言います。
お茶碗がひび割れるイメージです。
一方で、金属は薄くても、針金のように曲がる性質(延性と塑性)があるので、強い力がかかっても、強い力がかかった部分が歪むことで力を分散し、全体にはひび割れない性質があります。
こうした理由から、セメントの性能が低く歯と被せ物が一体化できない時代は、セラミック単独の被せ物は存在しませんでした。
昔のセラミックの被せ物は、金属の内冠にセラミックを張り付けた陶材焼き付け鋳造冠(メタルボンド)しかなく、20年前は「綺麗な被せ物」というと、これを指しました。

陶材焼き付け鋳造冠(メタルボンド)
今はあまり人気がない被せ物です
4.接着性セメントの登場が「オールセラミック」時代を作った
接着性レジンの発明により状況が変わりました。
セラミックを歯の表面に強固にくっつけることができるようになったのです。
そして初めて、セラミックの「歯に近い透明感・白さ」「歯に近い弾性率」の特徴を生かせるようになりました。
こうして、現在では自由診療の被せ物といえばオールセラミックという時代になりました。
セラミックだけではありません。
保険のCAD/CAM冠(セラミックの粒子を樹脂で固めた白い被せ物、保険の白い冠)はセラミック以上に歯の接着しにくい材質として知られていますが、接着性セメントの進化によって、現在では脱離の問題はずいぶん少なくなっています。

e-MAX冠(ファインセラミック製)
5.金属 VS オールセラミック
接着性レジンセメントの登場で、現代の歯科治療はまさに「脱金属時代」という様相です。
皆さん、白くて綺麗な方が良いっておっしゃいますからね。
ただ、金属もセラミックも、それぞれメリット・デメリットがあります。
そしてそのメリットとデメリットは裏表の特徴であるともいえます。
・金属は強い力がかかっても歪むことで力を分散するため、割れにくい
↔ 金属は中に虫歯ができても外れないため、虫歯の発見が遅れる、虫歯になりやすい。
・セラミックは強い力がかかると脆性破壊が起きる
↔ セラミックは少しでも詰め物の状態が悪くなったら外れることで、セラミックの下は虫歯に非常になりにくい
・金属は塑性変形するため、薄い被せ物でも割れにくい
↔ 金属は科学的・物理的に不安定で摩耗や金属イオンの放出、硫化銀の形成などが起きる。
長期安定性が低く、アレルギーや変色の原因になる。
・セラミックは変形しないため、被せ物にはある程度の厚みが必要
↔ セラミックは科学的・物理的に安定で、アレルギーや変色を起こさない。
・セラミックは歯にしっかりと接着しないと取れやすい。
防湿やタンパク除去などの前処置をしっかりする必要がある。
樹脂含侵層を作るためのプライマー処理が必須。
↔ 少しでも接着が甘い部分があれば外れるので、中に虫歯ができにくい。
樹脂を歯にしみこませた「樹脂含侵層」は虫歯になりにくくなる。
・金属は弱い接着でもとれにくい。
防湿やタンパク除去をちゃんとしなくても歯につく
↔ プライマー処理はされないことが多い。
タンパク除去処理、防湿が不十分なまま歯に装着されると、虫歯の原因になる。

*金(ゴールド 18K以上)は、他の金属とは異なり、虫歯になりやすい、化学的に不安定、変色を引き起こすというデメリットがありません。アレルギーに対しても、他金属と比較すると起こしにくいです。
金属の延性や塑性変化の性質を持ちながらも、最も虫歯になりにくい歯科材料の一つです。
このように、セラミックにも金属にも長所と短所がそれぞれあります。
私たち歯科医師は、まずは患者さんの価値観をまずはしっかり聞かせていただいて、お口の状態を見て、医学的にできること・できないことをすり合わせていくことで、患者さんお一人お一人に合わせた治療計画を立案させていただくことが大事だと思っています。
まとめ
いかがでしたか?
・歯に関する美しさの常識は時代と共に変化しています。
・セラミックは接着性セメントの進化により、適応範囲が広がりました。
・歯科材料は進化していますがそれぞれメリット、デメリットがあります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
CRの材料学とMI(ミニマルインターベンション)について
2025年3月3日
詰め物を歯にひっつける「接着」と、なるべく削らない歯科治療:MI(ミニマルインターベンション)
こんにちは、岩国のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 歯科医師の吉村剛です。
ここ20年~30年で日本の歯科材料は大きく発展しました。
今回から、歯科材料に焦点を当てて、お話していきます。
1)接着技術が登場する前の虫歯治療
大昔、歯にくっつく材料はないとされていました。
その時代は、金箔などを詰めていくのが最良の治療法とされていました。
その後、精密な印象(型取)をとれる技術が確立し、それを石膏に置き換え、そこで蝋(ろう)で形を作り、金や銀の合金で歯に詰める技術が確立しました。
それが、いわゆる銀歯です。
その頃の詰めやすい・外れにくい形を分類してまとめたのが、アメリカの歯科医師G.V.ブラック(グリーン・バーディマン・ブラック)が1884年に提唱した、虫歯治療における窩洞(かどう)の分類と形成の原則、ブラックの窩洞という分類です。
歯につめものを引っ付ける(接着)技術が発展した今となっては、ブラックの窩洞は「削りすぎ」と言われるようになりました。
しかし、接着技術が発展する前(ほんの20~30年前まで)は、削る量を最小にする方法とされていました。
僕が歯科医師になった20年ほど前は、リン酸亜鉛セメントなどで、歯と詰め物被せ物っをくっつけていました。
この『くっつけて』は、実は「接着」ではありません。
接着と区別して「合着」と言われています。
リン酸亜鉛セメントは、薄く固まる性質があります。
隙間を埋めて、機械的嵌合力(異なる材料や部品が物理的に結合する力)を発揮させていました。
2)接着技術の登場
1990年代からのプライマー、ボンディングの進化とレジンの発達により、材料と歯を科学的に引っ付けることができるようになりました。
「接着」の登場です。
たとえるならば、
・「合着」は木工用ボンド
・「接着」はアロンアルフアのような瞬間接着剤
みたいなものです。

3)歯科の「接着」の仕組み
では、「接着」は、どうして大きな力で歯と引っ付くことができるようになったのでしょうか?
歯の少し内側の構造(象牙質)は、コラーゲン繊維とカルシウム(正確には、ハイドロキシアパタイト)で出来ています。

詰め物を入れるために歯を削った後、削った部分の表面を酸処理すると、象牙質のカルシウムが溶けてコラーゲンの繊維がむき出しになります。
削った面にコラーゲン繊維が絨毯のようにフサフサと広がっているところに、前処理剤(プライマー)を流し込み、コラーゲン繊維と樹脂が混ざり合った層を作ります。
この、樹脂を含んだコラーゲン繊維の層が間に入ることで、材料が歯と科学的に「接着」するのです。
そうは言っても、歯に詰め物や被せ物をくっつけても、外れてしまったということを経験されたり、見聞きされた経験がある、という方もいらっしゃるかもしれません。
次に、接着したのに外れてしまう原因についてもご説明します。
4)接着したのに詰め物が外れてしまう原因
4-1)詰め物や歯が割れた/歯と詰め物の間に虫歯が出来た
レジンは圧縮には強いのですが、引っ張る力に弱い特徴があります。
よって、噛む力のかかり方によっては、歯とレジンの境目などに大きな力がかかってしまい、詰め物や歯が割れてしまうことがあります。
また、目に見えない小さなヒビが原因で虫歯になってしまうこともあります。
この場合はいくら接着がしっかりできていても、詰め物は外れてしまいます。
その他にも、残っている歯の質が少なすぎて、外れてしまうケースもあります。
そのような場合の解決法として、歯の土台や、詰め物のデザインを変更することで、外れにくくできることがあります。
4-2)接着強度が不足した
基本的に、大手歯科材料メーカーの接着セメント(歯科用の糊)は非常に強度があります。
しかし、選ぶ詰め物によっては、接着強度が出にくいものがあります。
代表的なものが保険の被せ物のPEEK冠です。
これは接着が非常に難しい材料で、丁寧に接着しても、他の素材の被せ物と比較すると接着強度が低くなってしまう傾向があります。
対策として、土台の形の工夫で取れにくくする、PEEK冠専用の接着セメントを用いるなどを行います。

PEEK冠

4-3)接着を阻害する因子があった場合
接着を阻害する因子は、何だと思われますか?
答えは、「水」と「空気」です。
歯科用の接着剤は、人体に反応する水溶性の部分(水に溶ける性質の部分)と、樹脂と反応する脂溶性の部分(油に溶ける性質の部分)を持っています。
ボンディング材はアルコールの配合量などで、厳密に水溶性と脂溶性の配合割合を調整しています。
唾液や呼気の水分などにより、水分比率などが少しでもおかしくなると、接着力が下がってしまいます。
そして、空気は樹脂の「硬化阻害因子」であり、しっかり固まるのを邪魔してしまいます。
歯科用接着性セメントを使用する場合は、当院では「オキシガード」という空気を遮断するジェルを使うなどして、接着力をUPさせるようにしています。

*スーパーボンドと言う、空気が接着阻害因子にならない歯科用セメントも存在します。
4-4)TCH(歯牙接触癖)や歯ぎしりなどの、詰め物が取れやすい習慣がある
どれほど接着力が強力でも、それを上回る強い外力が日常的にかかってしまうと、外れてしまうことはあります。
実際の臨床では、これが最も多いかもしれません。
このようなケースでは、接着の力も借りつつ、伝統的なブラックの窩洞で詰め物を作る場合もあります。
5)接着がもたらしたMI(ミニマムインターベーション)歯科
接着剤の進化によって、歯と詰め物・被せ物を、直接くっつけることができるようになり、歯の削り方が変わりました。
より歯を削る量を少なくすることができるようになりました。
それがミニマムインターベンション(最小の侵襲・できるだけ歯を削らない治療)といわれる概念です。
1884年に提唱されたブラックの窩洞は、合着セメントしか世の中にない前提で、取れないようにするための削り方が必要でした。
しかし今は、接着の力を借りて、「取れない削り方」をする必要性が小さくなったためです。
と合着(コメ糊)の対比図-visual-selection-1.png)
接着と合着の対比についての概念図
6)技術革新が推し進める歯科治療の未来
歯科の進歩や流れは、材料の特徴や進化が大きく影響しています。
これはスマートフォンの普及・進化や、AIの進化とともに、私たちのライフスタイルそのものが変化していくことと、よく似ています。
技術の進化により概念が変わってきています。
今回は詰め物・被せ物を歯にひっつける接着性セメントのお話でした。
詰め物・被せ物の材料なども、ここ10年で新しいものがどんどん登場してきました。
もちろん、いわゆる保険の銀歯(金銀パラジウム合金)や、最古の歯科材料である金も、まだまだ現役です。
歯科医院に行くと、いろいろ説明されるけれど、あまりピンと来ないという方も多い、「歯科の材料学」。
次回は接着性とについてと、現在よく使われる材料の材料学などを、深掘りしてお話していく予定です。
ぜひご覧ください。
7)まとめ
いかがでしたか?
・昔は歯に接着する材料がなく、機械的嵌合力で詰め物を歯に付けていました。
・歯のコラーゲンと樹脂を含有する層が作れるようになったボンディング剤の進化により、歯と詰め物が科学的に「接着」できるようになりました。
ここ30年ぐらいの歯科材料の進化です。
・材料の進化に伴い、最小の侵襲で歯科治療するというミニマムインターベンションが可能になりました。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
MFT特集 その11 リハビリの考え方でアプローチするMFTの実践方法
2025年1月21日
MFT特集 その11 リハビリの考え方でアプローチするMFTの実践方法
こんにちは、つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 小児歯科専門医の吉村です。
今回はMFT特集その11 MFTの実際とその考え方をまとめです。
MFT(筋機能療法)や、小児口腔機能発達不全症について詳しく知りたい方は、ぜひ過去の記事もご覧ください。
MTF特集 全リンク(クリックすると、ページに移動します)
当院の筋機能療法(MFT)
1.MFTはリハビリの考え方と似ている
リハビリでは、体の機能がうまく働かなくなったとき、ただ障害された部分を治すだけではなく、他の部分を使って障害された機能を補うことを考えます。
たとえば、私自身の話ですが、よく背中が痛くなることがありました。
症状ケース1
- ・症状 背中が痛い
- ・原因 軽度ヘルニア+姿勢や背中の筋肉と腹筋のバランスが悪い
- ・トレーニング 首の牽引、懸垂運動、背中の筋を意識しながらの運動、腹筋運動などのリハビリ
このように、具体的な動き(トレーニング)を通して体を改善していくのがリハビリの基本です。
リハビリは英語でrehabilitationと言います。
Re(再び)+ habilitate(適応させる、能力を与える)+ion(~すること)で、元は持っていた機能を回復させること、という意味です。
一方でMFTは「ハビリテーションhabilitation」、まだ獲得されていない機能を新たに習得させます。

元あった機能か、まだ獲得されていない機能かの違いで、トレーニングの基本的な考え方は似ているんです。

2.滑舌の問題もリハビリと同じアプローチで
実は、滑舌の問題もリハビリと似た考え方で改善できます。たとえば、「カ行がうまく言えない」という悩みはよくあります。
症状ケース2
- ・症状 カ行の発音が難しい
- ・原因 舌の奥を持ち上げる力が弱い
- ・トレーニング MFT:口腔筋機能療法(舌挙上トレーニング)
トレーニング例
こうした練習を通して、舌の動きを改善し、滑舌を良くしていきます。ただ「舌の奥を鍛えましょう」と言われても難しいですが、具体的な方法を取り入れることで、自然とできるようになるのです。
3.リハビリとMFTの共通点
リハビリの基本は次の5つです:
リハビリの基本
- ・できないことをできるまで練習する
- ・方法を変えて反復練習する
- ・環境を整える
- ・補助具を使う
- ・できない部分を他の人や道具で補う
これらはMFTにも当てはまります。
たとえば、1~3はMFTの練習そのものですし、4や5は矯正装置を使って歯列を整えることが該当します。
4.MFTの明るい未来
MFTがリハビリよりも希望を感じられるのは、練習を頑張れば、できるようになるお子さんが多いことです。神経や脳の障害で動かなくなった部分を改善するリハビリに比べると、MFTは「コツ」をつかむことが重要です。そのコツさえ伝われば、あとは一気にできるようになることが多いのです。
ただし、お子さんの場合、その「コツ」を伝えるのが少し大変だったりします。
私たちクリニックを挙げて取り組んでいますので、みんなで一緒に頑張っていきましょう!
当院の筋機能療法(MFT)
5.まとめ
いかがでしたか?
- ・MFTはリハビリの考え方と同じ方法を用います。
- ・ただ「ここが問題です」と指摘されるだけでは、誰もすぐに改善できるわけではありません。トレーニングを通じて、少しずつ正しい機能を身につけていきます。
- ・トレーニングを繰り返し行いながら、歯並びを整える矯正治療を組み合わせることで、後戻りが少なく、機能がしっかり整った歯科矯正を実現することができます。
今回でMFT特集は完結です!
長い間お付き合いありがとうございました。
MFT特集 その10「かみ合わせのずれとその原因:正中のずれを考える
2025年1月2日
MFT特集 その10 「かみ合わせのずれとその原因:正中のずれを考える」
こんにちは!岩国市のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 小児歯科専門医の吉村です。
今回はMFT(口腔筋機能療法)関連の第10回として、「正中のずれ」について考察します。
かみ合わせのずれや偏咀嚼など、いわゆる「ずれ」の原因を探り、その対応方法について解説します。
正中のずれの原因は大きく分けて以下の2つに分類されます。
正中とは?
正中(せいちゅう)とは、歯科においては、主に上下の歯の中心を指し、特に前歯の中心線を意味します。
正中のずれの原因は?
1.構造の問題(萌出や顎の成長などの問題)
2.機能の問題(偏咀嚼や舌癖などの問題)
それぞれの原因に応じた対応方法も異なるため、まずは正中線のずれを確認し、次に上顎と下顎のどちらに問題があるのかを観察することが重要です。
1.構造の問題
1-1 交差咬合
乳犬歯や犬歯のかみ合わせがずれている場合、下顎が偏位することがあります。
上下顎のバランスが悪い場合に多く、特に下顎が大きい(下顎前突傾向)ケースで見られます。
このような場合、上顎を拡大する矯正治療を行うことで改善が期待できます。

交差咬合:上顎の拡大で改善します。
1-2 乳犬歯の早期喪失
顎が歯に対して小さく、歯が並ぶスペースが不足しているお子さんでは、前歯の生え変わりにともない、乳犬歯が早期に抜けてしまうことがあります。
顎が小さなお子さんの場合、下顎側切歯(前から2番目の歯)が生えるときに、本来ならば乳側切歯という、乳歯の前から2番目の歯とだけ入れ替わらなければならないところ、乳犬歯の根っこも同時に溶かしてしまうことが多いのです。
すると、下顎側切歯が生えてくる7歳前後に、乳犬歯を早期に失ってしまうのです。
乳犬歯が早期に抜けると、永久歯の犬歯が生えるスペースを失ってしまい、結果的に犬歯が八重歯になることがあります。

八重歯(犬歯低位唇側傾斜):矯正治療で改善します。
この場合は、軽度であれば小児矯正によって顎を拡大して歯の生えるスペースを確保したり、重度であれば抜歯による成人歯列矯正による改善が必要になります。
2.機能の問題
2-1 偏咀嚼
歯の位置に問題がなくても、舌癖や歯の喪失が原因で偏咀嚼が起こることがあります。
また、歯の痛みや萌出時の早期接触も偏咀嚼の原因となります。
改善方法としては、以下のようなトレーニングが有効です。
- 普段あまり噛んでいない側(非咀嚼側)での咀嚼トレーニング
- 鏡を見ながら正中を合わせるトレーニング
これらを繰り返すことで、少しずつ癖を改善することが可能です。
チューイングガムを用いたトレーニングがおススメです。
2-2 普段の姿勢
頬杖やうつ伏せ寝など、日常の姿勢もかみ合わせのずれに影響を与えます。
特に、片側だけで頬杖をつくなどの悪習癖がある場合、かみ合わせだけでなく筋肉の付き方にも歪みが生じます。このような場合、以下の対応が重要です。
- 悪い癖を治す
- 周囲の筋肉を正しく鍛える
- 体幹を鍛えるトレーニング
これにより、悪い状態に戻らないよう予防することができます。
MFT(筋機能療法)ではこうした姿勢の矯正なども行っていきます。
当院の筋機能療法(MFT)
まとめ
いかがでしたか?
- 正中のずれの原因は、構造の問題(交差咬合や乳犬歯の早期喪失)と機能の問題(偏咀嚼や姿勢の悪さ)に分けられます。
- 交差咬合や乳犬歯の早期喪失など、構造の問題の場合はMFTよりも矯正治療がより有効です。
- 舌癖や普段の姿勢など、機能の問題の場合はMFTのトレーニングや姿勢改善が効果的です。
偏咀嚼や姿勢の悪さが原因の場合、MFTのガムトレーニングや体幹を意識した筋肉トレーニングを取り入れることで改善が期待できます。
正中のずれを改善するためには、原因を正確に把握し、それに応じた適切な対応を行うことが大切です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!