MFT特集 第8回 – 「笑ったときに下顎の前歯が見えない」ディープバイト(Deep Bite)について考える
2024年10月25日
MFT特集 第8回 – 「笑ったときに下顎の前歯が見えない」ディープバイト(Deep Bite)について考える
こんにちは。岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村剛です。
今回はMFT(口腔筋機能療法)に関連した第8回の特集として、最近よく見られる深いかみ合わせ(deep bite)についてお話します。
MTF特集1~7はこちら(クリックすると、ページに移動します)
MFT特集その1 筋肉量を増やして小児口腔機能発達不全症を治そう
MFT特集その2 「正しい姿勢・咀嚼と嚥下・呼吸」を得るために大事なこと
MFT特集その3 お口の機能発達は10歳までが勝負!
MFT特集その4 お口ポカンの影響と直し方について
MTF特集その5 口呼吸とアレルギー、アデノイド
MFT特集その6 矯正手法とMFTについて
MFT特集その7 舌癖と歯列不正のメカニズムについて
筋肉は、歯並びやかみ合わせに大きな影響を与えます。
第5回でも軽く触れましたが、日本人は丸顔が多く、幼い印象を持たれる顔が多い傾向があります。
骨や筋肉の視点から見ると、下あごの発達が悪く、咬筋が優位になりやすい顔の作りです。
実はこの特徴が、深いかみ合わせの症状と一致しています。
つまり、日本人は深いかみ合わせになりやすい顔の作りであると言えます。
1 ディープバイトの原因と影響
ディープバイトは奥歯をぎゅっと噛みしめてしまう「クレンチング」が原因です。
歯の高さである「咬合高径」は、噛む力と萌出する力のバランスで決まります。
噛む力が強ければ、萌出力が負けてしまい、歯の高さが低くなります。
このディープバイトの問題点は、時間が経つにつれてさらに深くなり(悪化する)可能性が高いことです。
2 下あごの成長とディープバイトの関係
下あごの成長は上あごに比べて遅く、思春期前後にピークを迎えます。
しかし、この時期に咬筋が強すぎると、下あごの発達が阻害され、上顎前突の傾向が強まります。
そのため、思春期前後までにバイトアップやマウスピース矯正など、下あごの発達を促す介入を行うことが有効です。
また、広島大学の研究でも、ディープバイトは自然には改善せず、むしろ悪化することが多いとされています。
3 家庭でできるディープバイト対策
家庭でできる対策としては「クレンチング(噛みしめ癖)予防」が挙げられます。
人間は集中すると癖が出やすく、奥歯を無意識に上下の歯を接触させてしまう癖がつくことがあります(歯牙接触癖:tooth contacting habit)。
これが進行すると、歯を常に噛んでいる状態となり、さらに問題が悪化することがあります。
また、ストレスがかかると歯ぎしりなど、奥歯を強くかみしめる症状が出る人もいます。
人は安静時、「上下の歯が当たっていない状態」が正常です。
上下の歯が接触するのは、食事時間も入れて1日約17分と言われています。
以上より、普段から上下の歯を当てない・噛みっぱなしにしないように意識することが大事です。
4 下あごに負担をかける癖に注意
頬杖やうつぶせ寝など、下あごに負担をかける癖も良くありません。
これらの癖は姿勢に関連しており、自分がどのような状況で下あごに力をかけているかを把握することが重要です。
例えば、ゲームをする時も、口を開けている人もいれば、奥歯をかみしめている子供も多くいます。
最近のお子さんの生活習慣の傾向として、ゲームやスマホなどを長時間するケースが多くみられます。
そうした生活習慣の中で、奥歯をかみしめるにしろ、開けているにしろ、お口の癖が強く影響するようになったと臨床家として感じています。
お子さんの生活の癖や姿勢の癖、お口の癖などを親御さんがしっかりチェックしてあげることが重要です。
まとめ
生活習慣や癖が歯並びに影響することを意識し、「お口の悪い癖」「口腔機能発達不全」を見逃さないことが重要です。良く分からない場合は、お近くの歯医者さんでチェックしてもらってくださいね。
生活習慣の悪化を防ぐためにも、早めの対策がおススメです。
いかがでしたか?
・日本人は丸顔で、ディープバイトになりやすい顔の作りです。
・クレンチングによって下あごが押し込まれ、悪化しやすい傾向があります。
・ゲームなどの集中による癖もディープバイトに影響するため、生活習慣を見直すことが重要です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
MFT特集7 舌癖と歯列不正のメカニズムについて
2024年9月26日
MFT特集7 舌癖と歯列不正のメカニズム~舌の悪い癖と歯並びが悪くなることの関わりについて~
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニック、小児歯科専門医の吉村です。
今回は、MFT(口腔筋機能療法)の第7回として、舌癖がどのように歯並びに影響を与えるかを解説します。
第1章 舌癖と歯列不正の関係
舌癖は「舌が正しい位置にない状態」とも言えます。
舌に力が入っていないと、舌の厚みや模様がはっきりしません。
舌が正しい位置にあれば、力が入り、舌の模様がはっきりします。
例えるなら、牛タンのブロックのように厚みがあり、縦にしっかりとした形が舌の正しい姿です。
舌が弛緩して低位になると、上下前歯の間か、下顎に収まるようになります。
- ・舌が上下の前歯の間に収まるようになれば、舌突出癖が誘発され、『開咬』になります。
- ・舌が下顎に収まってしまえば、下顎歯列が拡大されて、『反対咬合』の傾向を呈してきます。
- ・上顎は舌の刺激が少ないため、横幅が狭く、口蓋が高く(上顎のくぼみが深く)なります。
- ・低位舌の場合、口輪筋が発達不全をおこし、お口ポカン(口唇閉鎖不全)になりやすくなります。
- ・お口ポカンになると、前歯は『出っ歯』の状態を呈する場合があります。
第2章 舌癖が発音に与える影響
舌癖は発音にも影響を与えます。
舌が正しい位置にないと、サ行やタ行の発音がくぐもった音になり、ナ行やラ行も正しく発音できなくなることがあります。
話している内容は通じるのですが、もごもごしゃべっている感じとか、飴玉をなめている感じという印象になりやすいです。
また、舌癖に関連する他の口腔悪習癖も、改善の難易度に違いがあります。
個人差はありますが、一般的に改善しやすいものとしにくいものに分けられます。
◆改善しやすいもの:原因が明確で、その癖を継続している期間が短いもの
- ・口唇閉鎖不全
- ・咬合力の低下
- ・弄舌癖
- ・口唇癖
- ・一部の歯列異常(非骨格性のもの)
◆改善しにくいもの:複合的な要因によるもの
- ・口呼吸
- ・構音障害
- ・異常嚥下癖
- ・長期の指しゃぶりや咬爪癖
複合的な要因によるものは、歯科的なアプローチのみでは治療が難しいことがあります。
舌癖は「舌を自由に動かす」感覚が失われている場合が多いです。
MFTや矯正治療を通じて、自由に動かせる舌と理想的な歯並びを手に入れましょう。
まとめ
いかがでしたか?
- ・舌癖がある舌は力が入っておらず、厚みがなく、模様やしわがはっきりしていないという特徴があります。
- ・舌が低位である場合、上下前歯の付近に存在すれば開咬となり、下顎に位置すれば下顎前突になりやすいです。
- ・舌癖がある場合、構音障害(くぐもったような発音)になることがあります。
- ・舌の習癖には治しやすいものと治しにくいものがあり、舌癖のある期間の長さで治療難易度が変わります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
歯並びが治れば滑舌が改善する!?~滑舌と歯並びの関係~
2024年9月19日
歯並びと滑舌の関係
1. はじめに
こんにちは、つぼい歯科クリニックの院長 坪井です。
お子さんの滑舌が悪いことで悩んでいるお母さま方へ、今回は歯並びと滑舌の関係についてお話しします。
現代のお子さんの多くが、口唇や舌を正しく使えていないと言われています。
一般的に3割程度のお子さんが、舌や口唇を上手に動かすことが苦手な「口腔機能発達不全症」と言われていますが、小児歯科の臨床に携わる歯科医師の体感としては3割どころではなく、5~7割と感じています。
- 滑舌が悪い
- 舌の可動域が小さい
- 舌を挙上するのが苦手
- 風船を膨らますことができない
- 蝋燭を吹き消せない
- 普段から口が開いている
- 食事がとても時間がかかる
今回は、こうした「小児口腔機能発達不全症」の症状のうち、滑舌と歯並びの関係に焦点を当ててお話しようと思います。
2. 子供の滑舌と歯並び
歯並びが滑舌に与える影響は非常に大きいです。
歯の位置がずれていると、舌が正しい位置に動かず、発音が難しくなります。
例えば、歯並びの横幅が狭く、口蓋(上顎のお椀のような形態)が深い場合、舌を上に持ち上げて上顎に触れさせることが難しくなることがあります。すると「タ行」の発音が難しくなることがあります。
また、上の前歯が前に出っ歯となっていて、下の前歯との距離が大きく空いている場合、舌を上の前歯に擦って音を出す「サ行」が言いにくくなることもあります。
滑舌が悪いと、友達とのコミュニケーションに支障をきたしたり、コンプレックスになったりすることがあるため、可能ならば低年齢のうちに改善したいところです。
3. 歯列矯正の効果
横幅が狭く出っ歯型の歯並びと、正常な歯並びを見比べてみましょう。
横幅が狭く、出っ歯型の歯並び
正常な歯並び
横幅が狭くなってしまった場合、上顎が深くなってしまい、舌を当てるのが難しくなってしまいます。
こうして舌を正常に動かすことが難しい場合、ちょっと籠ったような発音になることが多いです(口蓋化構音)。
歯列矯正治療では前歯を引っ込めたり、(10歳以下の小児の場合は)急速拡大装置と呼ばれる、上顎の横幅をしっかり広げる治療などで、構音が難しくなってしまう原因を治療することができます。
急速拡大装置
4. MFTや言語聴覚士によるトレーニングの併用
歯列矯正だけでなく、筋機能療法(MFT)や言語聴覚士によるトレーニングも有効です。
当院は、口腔機能発達不全症のお子様が矯正治療を行う場合、ほぼMFTも併用しています。
*ただし、お子様の年齢が10歳以上の場合で治療効果が薄いと判断した場合は、ご自宅での簡単なトレーニングの指導のみとさせていただいています。
MFTについては、こちらの記事もご覧ください。
参考リンク:お口の機能発達は10歳までが勝負!
参考リンク:当院のMFTの様子(インスタグラム)
*インスタグラムは音がでますのでご注意ください
5. まとめ
いかがでしたか?
・滑舌と悪い歯並びには関係があり、歯並びを治すことで滑舌が改善することがあります。
・特に「タ行」「サ行」で特に改善が見られます。
・MFTや言語聴覚士によるトレーニングを併用した方が効果的です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。