歯科ボトックスで噛みしめ・ガミースマイル・梅干しジワを解決
2025年6月17日
噛みしめ・ガミースマイル・梅干しジワに有効なボトックス(ボツリヌス毒素治療)のお話
こんにちは、岩国市の医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井です。
今回は、歯科ボトックス(ボツリヌス毒素治療)についての話題です。
「食いしばりでエラが張る」
「笑うと歯ぐきが目立つ」
「食いしばりのせいで、歯が傷んでいると言われた」
「いつも奥歯を噛む癖のために、セラミックの詰め物が割れやすいと言われた」
「朝、起きたら顎が疲れている」
「あごに梅干しのようなシワが寄る」
――これらの主な原因は、咬筋・上唇挙筋群・オトガイ筋の過緊張によるものです。
A型ボツリヌストキシン(この記事ではわかりやすいように一番有名な商品名であるボトックスで統一します)を適量注入することで、筋肉の収縮を一時的に抑え、症状を3〜6 か月改善できます。
ここでは歯科領域で行う3大適応
①咬筋過緊張
②ガミースマイル
③オトガイ過緊張
について、最新エビデンスとともに詳しく解説します。
1)ボトックス(ボツリヌス毒素製剤)治療とは―作用メカニズムと歯科的メリット
ボトックスは神経終末からのアセチルコリン放出を阻害し、一時的に筋活動を弱めます。口腔顔面領域では痛み軽減・咬合力の適正化・審美性向上という三つのメリットが得られます。特に咬筋や側頭筋への注射は、睡眠時ブラキシズムを軽減します。
① 咬筋ボトックス(食いしばり・歯ぎしり・エラ張り対策)
対象
・就寝中の歯ぎしり・起床時の顎痛がある
・咬筋肥大によるフェイスラインの角張り
・セラミックの詰め物・被せ物やインプラント破損が何度かある
*顎のエラ張り、顔の輪郭の見た目を改善するためのボトックス治療は、歯科ではなく美容整形外科での治療となります。歯科での咬筋ボトックス治療は、かみしめや顎関節症がある人に対しての機能改善が目的です。
効果と持続期間
筋痛・咬合力・夜間ブラキシズムが投与後1〜2週間で減少し、平均3~6 か月持続します。効果減弱後は再投与可能です。
② ガミースマイルボトックス(上唇挙筋群)
対象
笑った際に歯肉が大きく露出する状態(ガミースマイル)が気になる方。
効果と持続期間
1回のボトックス注射により歯肉露出が平均3 mm減少することが見込めます。
注射をしてから効果が出るまでに5〜7 日かかり、その後は4〜6 か月間、効果が持続します。
ただし、出っ歯が原因でおきるガミースマイルは、ボトックスだけでは十分に改善できず、外科的・矯正的治療で根本的に治療した方が良い場合もあります。
③ オトガイ筋ボトックス(梅干しジワ)
対象
口唇閉鎖時にあごの皮膚が凹凸になる“梅干しジワ”が気になる方(オトガイ筋の過緊張)
効果と持続期間
投与後1週間でオトガイの皮膚表面がなめらかになり、3〜4 か月持続します。
2)安全性・副作用
①ボトックスの安全性―小児医療でも実証された低リスク治療
ボトックスは1980年に斜視治療で医療用に初承認されました。
現在では小児脳性まひの痙縮や眼瞼けいれん、片頭痛など、さまざまな治療目的で世界中で使用されています。
小児痙縮では体重当たり4〜6 U/kgと高用量が投与されます。
小児に対して高用量を使用しても、2023年の系統レビュー(対象656例)では、副作用の大半は注射部位痛・軽度筋力低下・感覚異常といった自己限定的なものにとどまりました。
また米国FDA添付文書には、30 U以下の使用では重篤な遠隔毒性報告はないと明記されています。
歯科で用いる咬筋・上唇挙筋への投与量(片側10〜20 U)は30Uと比較して少量の使用です。
実臨床でも推奨量を守った際の全身毒性報告はゼロで、「局所に作用し全身にはほとんど拡散しない薬剤」と位置づけられています。
②ボトックスの副作用と注意事項
ボトックスは全身投与量600 Uを超えなければ重大な全身毒性の報告はありません。
しかし局所で腫脹・内出血・表情の違和感が1〜5%に生じます。
いずれも比較的短時間で症状は消失します。
注射後4時間は強い圧迫や入浴・運動を避けてください。
授乳中・妊娠中・重症筋無力症の方は禁忌です。
注釈:ボトックスの「Unit(U)」とは?
ボツリヌストキシン製剤でいう1 Unit(1 U)は、薬液の重さや体積ではなく「生物学的活性」を表す国際単位です。
つまり「U」は薬効をそろえるための共通言語であり、重量(mg)とは別のものになります。
3)当院のボトックス治療メニュー
咬筋、オトガイ筋、ガミースマイルともに1回33000円(税込み)
診察・カウンセリングは完全予約制です。
過去のボトックス歴や全身疾患をお持ちの方は事前にお知らせください。
4)よくある質問(FAQ)
・治療後に噛む力が弱くなりすぎませんか?
日常の食事には問題ありません。
硬いスルメやナッツ類を大量に噛むと力不足を感じる場合がありますが、3か月以内に自然回復します。
多くの場合、「普通に噛めるけれど、噛みこむ力が弱くなった」という体感になります。
・矯正治療中でも受けられますか?
ワイヤー・アライナー矯正のいずれでも併用可能です。
咬筋ボトックスはブラケット破損やインビザラインの過度なアライナー摩耗を防ぐ利点があります。
・効果が切れたらどうなる?
筋活動は徐々に回復し、元の状態に戻ります。継続的な効果を望む場合は4〜6 か月毎の再投与を推奨します。
5)まとめ
いかがでしたか?
・歯科ボトックスは低侵襲・短時間・即効性が魅力で、咬筋過緊張・ガミースマイル・オトガイ筋シワを同時に改善できます。
・ボトックス注射は安全性が高い治療です。
・食いしばりや笑顔のコンプレックスでお悩みの方は、まずはお気軽にカウンセリングへお越しください。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
参考文献・出典
- ボツリヌス毒素の口腔領域への臨床応用. 日本歯科麻酔学会誌 48(2):33-40.
- Evaluation of the Efficacy of Low-Dose Botulinum Toxin Injection Into the Masseter Muscle. J Oral Rehabil. 2024.
- Dose and Injection Site of Botulinum Toxin Type A for Gummy Smile Management: A Systematic Review. Clin Oral Investig. 2024.
- Botulinum Toxin Type A for Treatment of Excessive Gingival Display. J Stomatol Oral Maxillofac Surg. 2023.
- Novel Anatomical Guidelines for Botulinum Neurotoxin Injection in Chin Morphology. Plast Reconstr Surg. 2023.
- Chin Imperfections: Our Experience with Botulinum Toxin A. Aesthetic Medicine. 2023.