最近使われるようになった歯科材料(白い材料編)
2025年5月20日
こんにちは、医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 副院長の吉村です。
今回も歯科材料分野のお話(第4回)です。
歯科材料についての過去の記事はこちら
第1回 詰め物を歯にひっつける「接着」と、なるべく削らない歯科治療:MI(ミニマルインターベンション)
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7032
第2回 歯科治療と接着性レジンセメントに求められる性質
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7106
第3回 最近使われるようになった歯科材料と消えていった歯科材料(金属編)
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7180
1)歯が白いと若く見える!?
歯が白いと何が違うのでしょうか。
白い歯は相手に、『若さ』や『清潔感』といった印象を与えると言われています。
イギリスの大衆紙 Daily Mail が行った調査では、歯が白い人は平均で実年齢より 5歳 若く見えたそうです。

元記事のタイトル:
Bad teeth age us by 12 YEARS: Experts say stained smiles can add more than a decade to your face – but would you try this alternative to whitening?
調査の概要(要約)
・英国マンチェスター Carisbrook Dental の Dr. Tariq Idrees らが 1,000 人の一般ボランティアに写真を提示。
・同一人物の歯を ①真っ白 ②軽度着色 ③重度着色 の3種類に加工し、見た目年齢を推定してもらった。
・軽い着色でも女性は+6歳、男性は+4歳老けて見えた。
・歯の色は、肌のシワより年齢判断に影響する可能性がある。

歯が白いと、光の反射の影響で歯のデコボコが目立たなくなります。
そのため、歯並びまで整って見える効果があります。
第一印象の半分は視覚情報といわれていますから、白い歯がおよぼす好感度は大きいと言えるでしょう。
2)歯科材料を取り巻く3つの潮流
今使われる歯科材料には大きな流れが3つあります。
・JIS規格(日本工業規格)からISO(国際規格)への流れ
・デジタル技術の普及
・新素材の開発と改良

従来の規格・技法・材料も、まだまだ現役ではありますが、主流となっている規格・技法・素材は、既に移り変わっている印象です。
3)改良・開発が著しい「白い材料」
3-1) CR(コンポジットレジン)〈保険〉
プラスチックにセラミック粒子を混ぜた材料。
レジン単独では強度が小さいところ、セラミックス粒子を配合することで硬さや白さ、美しさを出します。
接着力が高く、歯を削る量を小さくできる利点を持ちますが、劣化しやすい欠点も併せもっています。
劣化しやすい欠点はまだ改善できていませんが、歯の土台向けに弾力強化タイプや、色馴染みがより良いタイプなど、色んなタイプが開発されてきています。
3-2) CAD/CAM用ハイブリッドセラミック 〈保険/自費〉
コンポジットレジンと同じく、プラスチックにセラミック粒子を混ぜた材料。
こちらの方がセラミック粒子の配合率が高く、工場で徹底的に硬化されるため変色や摩耗が少なめ。
ただし金属やジルコニア、ファインセラミックほどの強度はありません。
3-3) CAD/CAM用 PEEK〈保険〉
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)は軽くてしなやか、アレルギーの心配がほぼない新素材。
ただし色調が不透明な「粘土色」「真っ白」の2種しかなく、擦り減りやすい点、接着がやや不安定な点が課題です。
5年を超える長期症例が無いことから、まだ過渡期の材料と言えるかもしれません。
3-4)e-maxとジルコニア(セラミックス)〈自費〉
白い素材で最も有名なのはセラミックスです。
昔はフレーム構造という土台が必要でしたが現在はコンピューター制御の進化と共にオールセラミックでの技工が容易になりました。
そして、これを接着性レジンで歯と強固に接着させる術式が現在一般的です。
現在よく使われているのがe-maxとジルコニアです。

e-maxはニケイ酸リチウムを鋳型に押し出して作るタイプと、ブロックを削り出して焼成するタイプがあります。
精度は鋳型を使用するタイプの方が圧倒的に高いため、当院では鋳型タイプを使用しています。
強度と美しさが両立しており、また歯と硬さが近いこともあって、特に詰め物の材料として人気です。
一方のジルコニアは、二酸化ジルコニウムのブロックを削り出して焼成します。
強度、弾性ともに非常に優れた材料ですが、審美性に関しては、e-maxの方がより透明感があり美しいと言われています。
ただ、ジルコニアも結晶化技術の改善により、透明感が出せるように開発が進んでいます。
4)新技術・新材料の利点と欠点、欠点に対する対策
新技術や新材料の進化と共に、より美しい詰め物・被せ物を利用することができるようになりました。

新しい材料の利点は何といっても
・生体親和性が高い(安全)
・白く自然な見た目 *PEEKを除く
ですが、利点ばかりではありません。
白い新材料の弱点は
・習慣性の歯ぎしりや喰いしばりがある場合は、割れてしまうことがあり得る
という点でしょう。
割れやすいことが治療前から予測される場合は、
・神経を既に取った症例では、詰め物・被せ物が割れない厚さになるように削る
・使用材料としてセラミックを避ける
・マウスピースで歯と詰め物を保護する
・咬筋ボトックスなどで食いしばりを防ぐ
などの対策を行うことがあります。
5)最高の「歯の詰め物・被せ物の材料とは?」
金は虫歯再発防止という点では最高で、目立つと言う点では残念。
e-maxは美しいという点では最高で、強度という点では惜しい。
ジルコニアは強度と白さという点では素晴らしいけれど、e-maxと比べて透明感が物足りない…。
コンポジットレジンは安くて治療も早く終わると言う点では最高で、劣化が早いという点では残念。
では、真の最高の材料とは、何でしょうか?
最も安く、安全で、一番良い材料は自分の自前の歯です!(2回目)

まとめ
いかがでしたか?
・歯の白いと顔の印象が若く見えると言われています。
・今使われる歯科材料には大きな流れが3つあります。
日本規格から国際規格への流れ、デジタル技術の応用促進、新素材の開発です。
・最も安全で良く、なおかつ安価なのは自前の歯です!(2回目)
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
自費の根管治療(歯内療法)って、保険とどう違うの?
2025年5月16日
こんにちは、つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井です。
今日は「歯の神経(根っこ)の治療=根管治療」のお話の2回目です。
前回お話した「安い保険治療と高い成功率は両立しにくい」という根管治療の現実を踏まえ、
今回は「自費診療で使われる根管治療の最新器材と設備が、どのように治療の成功率を高めるのか」をわかりやすく解説します。
参考リンク:歯の神経の治療(根管治療・歯内療法)をしたのに、また腫れてしまった!どうして?
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7214
1.根管治療に入る前に「診断」精度を高めるCT撮影
参考リンク:歯科用CTで出来ること ~根管治療でCTって必要なの?~
歯科用CTで出来ること ~根管治療でCTって必要なの?~
「歯の根尖病巣の検出力」は
CTが100とすると
デンタルレントゲンが55
パノラマレントゲンが28
と言われています。
ですから、CTで診断した方が、診断力は2~3倍も高くなります。
しかし、保険診療でCT撮影が認められるのは「根っこが3本以上ある奥歯で、根管形態が複雑なものに限る」という制限があります。
細い根管の見逃しは、根管治療の成功率を下げる大きな要因になるため、画像診断の精度は重要です。
2.「隔壁」を作る
根管治療をしなくてはならないほどの虫歯がある場合、歯の質を大きく失っています。
歯質の壁を失ってしまうと、治療中に唾液が根管の中に入り込んでしまうため、プラスチックで壁(隔壁といいます)を作ります。
そうすることで、治療中に細菌を含んだ唾液が歯の中に入らないようにできますし、仮の蓋をした時にも唾液が歯の中に侵入することを防ぐことができます。

3.ラバーダムで唾液を遮断する

ラバーダムという、ニトリル製のシート(昔はラバー=ゴム製のものを使用していましたが、現在はゴムアレルギーの方への配慮のため、アレルギーを起こしにくいニトリル製のものが主流になってきています)を、クランプという金具で歯に固定します。
どうしても苦手、という方が一定数いらっしゃる処置です。
歯がキュッ!と掴まれる感じがするので、苦手な方には麻酔を用いて装着することもあります。
このラバーダムも、根管治療の成功率を大きく左右する因子になります。
4.拡大視野で虫歯を取り切り、根管を探す

次は、歯をズームにして、細かい部分を観察しながら治療します。根管治療の成功率を左右する因子の一つに、「冠部齲蝕の取り残し」というのがあります。根っこの見逃しの前に、歯の神経が入っていた部分の虫歯をわずかに見逃してしまう…ということがあると、いつまでも治癒しません。
虫歯の染め出し液を使用して、取り残しが無いか、念入りに確認します。
そして、CTで事前に確認した根管の中を細い針金のような器具を、根っこの尖端まで通していきます。
根っこの中には、一部感染してしまった神経、既に死んでしまった神経の残骸、もしくは前の治療で根管内に充填された材料(ガッタパーチャ)などが入っています。細い針金で根管を確認してから、根管内の感染性の物質を除去していくのです。
5.根管内の感染性の物質を拡大視野で除去する
歯の中の感染性物質(死んだ神経の残骸や、古い充填物など)を針金状のヤスリ(ファイル)で削りおとしていきます。
歯の根っこが曲がっていると、従来型のスチールファイルでは、根っこの先に到達できなかったり、根っこの湾曲の形を変えてしまったりといった現象が起こることがあります。
そこで、Ni-Tiファイルという形状記憶合金で出来たファイルを用いると、根っこの湾曲にファイルが追従してくれるので、歯に優しく、曲がった根っこも処置することができます。

このNi-Tiファイルは非常に柔らかく、強い力をかけたりしてしまうと歯の中で折れてしまいやすいというデメリットがあります。そのため、当院ではファイルにかかる力や回転数をコンピューター制御してくれる機械を用いて、強い力がかかってしまったら自動的に逆回転をかけて力を解放するなど、さまざまな安全対策を講じて使用しています。
6.とにかくしっかりと洗う!根管洗浄
歯の中をファイルで削れば、削りカスが発生します。
この削りカスは、感染性の物質を含んでいるので洗い流さなければなりません。
「水流で洗い流す」というのが基本戦略になるのですが、問題は根管という「針のように細い、行き止まりの通路」にどうやって水の流れを作るか…ということです。

ここに、細長いガラス管の画像があります。細すぎて、食器用スポンジやペットボトル用のブラシなどは入りません。この管の中を洗うと考えてください。
中に水や消毒薬・洗剤を入れることはできますが、振ったり、上下にひっくり返したりはできません。
強力な消毒剤を数分入れることは可能ですが、「一晩漬け置き」などもできません。
さて、どうすれば管の中を綺麗に洗うことができるでしょうか?
根管洗浄は、この「細い管をなんとかして洗う」という作業なのです。
最近では、
・シリンジによる薬液洗浄
・超音波洗浄
・音波洗浄
・レーザー洗浄
などが、よく選択されています。
6-1)マイクロシリンジによる薬液洗浄
現在、最も一般的に使用されている根管洗浄法です。2018年の全国29歯科大学34講座のアンケートで、93%がこの洗浄方法を選択していたそうです。

このような、根管治療用の注射器(注射針の代わりに、消毒薬を根管に入れるための鈍針を先端につけています)を用いて、根管内に薬液を入れる洗浄法です。
細い管の中にフレッシュな薬液の水流を作りたい!→注射器で水流を作ってしまおう!
という作戦です。
ただし、薬液を勢いよく押し出して洗浄できるわけではありません。

水流を作りたいけれども、勢いがありすぎると根っこの先から、骨の方に薬液が漏れてしまうからです。
薬液が漏れてしまうと、腫れや炎症の原因になってしまいます。
ですから、シリンジから押し出される薬液の水流は、チョロチョロ…という勢いです。
水流だけでなく、消毒剤の薬効もあるのですが、それでもちょっと洗浄力が頼りなく感じられますね。
そこで、多くの歯科医師はこのマイクロシリンジによる薬液洗浄に、他の洗浄法を併用して、根管内の洗浄効果を高める作戦をとっています。
6-2)超音波洗浄
マイクロシリンジによる薬液洗浄に次いで2番目に多く使用される洗浄方法です。
マイクロシリンジと超音波の併用による根管洗浄は、保険診療でも一般的な洗浄方法と言えます。
根管内に入れた細い金属製のチップを超音波で振動させることで、マイクロシリンジ洗浄の5~10倍の流速を得ることができます。毎秒2万回の振動で高速の渦流がチップの周囲に生じ、さらにキャビテーションという細かな泡が発生したり潰れたりする現象が起きます。この泡が潰れるときに生まれる衝撃波が、削りカスを攪拌したり、破壊したり、薬液を活性化したりします。
金属チップが根管壁に触れると段差を作ってしまうというデメリットもあるので、根管の細い部分には使わないよう、触れさせないよう使用する必要があります。
6-3)音波洗浄
普及率は10%程度で、精密根管治療で採用している先生も多いかもしれません。
超音波より周波数の低い、音波の振動数で根管内に入れたシリコンチップを振動させることで削りカスを洗い流したり、薬液を器具が直接触れない部分に届けたりします。
超音波洗浄のようにキャビテーションは発生させないので、汚れを根管壁から剥がす力は超音波洗浄に劣りますが、チップが根管壁に触れても根管壁を傷つけないため、根管の細く深い部分にも使用することができます。
単独で使用せず、マイクロシリンジ+超音波洗浄にさらにプラスして使用されることが多いと思います。
6-4)レーザー洗浄
ここからは、精密根管治療で用いられる洗浄方法になります。
保険診療でほとんど使用されない理由は「高価であるため」。
日本の保険制度では「根管洗浄」は根管治療に含まれるとされていて、安価なマイクロシリンジ洗浄であっても、高価なレーザー洗浄であっても、診療報酬は同じです。
レーザーは設置コストが500~800万円かかる上に、根管内に挿入するチップ(8000円~1万7000円程度)は高価な上に非常に繊細な光ファイバー(落とせば一撃で壊れる繊細さ)であることが、保険での使用制限につながっていると思われます。
しかし、その洗浄効果は非常に強力です。
Er:YAGレーザーのレーザー光は水へ超高吸収され、根管内で微細な蒸気爆発を起こし、強力なキャビテーション作用によって根管内の細い部分の削りカスまで除去することができます。
前回記事で掲載した透明模型のシミュレーションを、もう一度ご覧ください。

左:一般的な保険診療の道具(裸眼・スチールファイル、マイクロシリンジ薬液洗浄)で根管内を洗浄後
右:一般的な自費診療の道具(顕微鏡・ニッケルチタンファイル・レーザー洗浄)で根管内を洗浄後
緑の円の中央に、根管と根管が連絡している部分があります。
ここは、スチールファイルであろうと、ニッケルチタンファイルであろうと、器具で触ることはできません。
しかし、レーザー洗浄によって、この連絡部分の汚れを除去することに成功しています。
7.貼薬(ちょうやく)
綺麗に根管内を洗浄したら、次回来院までに根管内を消毒する薬液を入れます。
これを貼薬といいます。
この薬剤は、ほとんどの場合「カルシペックス」と呼ばれる、アルカリ性の薬を用います。
これは、保険診療でも自由診療でも共通です。
8.緊密な仮封
薬剤を入れたら、次は仮の蓋です。水硬性セメントと言われる、水で固まる粘土のような材料で封をします。
この水硬性セメントは、厚み3㎜をキープしなければ、しっかりと封ができないと言われています。
柔らかい材料なので、次回来院時に削れてしまうことも多く、私は5㎜程度の厚みで仮封するようにしています。仮封の厚みまで計算して隔壁を作れば、さほど難しくありません。
では、この仮封はどのくらいの期間、しっかりと封をしてくれるのでしょうか!?
・仮封の厚みが2㎜以下の場合で1週間は持たない(なので、3㎜以上の厚みが必要です)
・仮封の厚みが3㎜程度の場合、2週間程度で再充填することが好ましい
・仮封の厚みが3㎜以上ある場合の最長許容ラインは4週間
・長期間あける場合はプラスチック材料などで二重仮封を行うべき
とされています。
封鎖性が低下してしまうと、唾液が根管内に入ってしまい、せっかく行ってきた根管治療=根管内の細菌を減らす処置が、台無しになってしまうからです。
9.やることをやるためには、時間がかかる
いかがですか?
実はまだまだ、根管治療については書くべきこともあったのですが、長文になってしまったため今回は割愛します。
根管治療は、虫歯を削って型を採って…という治療より、やることが本当に多いのです。
そして、時間がかかるのです…。
「歯医者、長い」
「歯医者、時間かかる、たくさん通わせる」
と言われる原因になりがちな根管治療。
しかし、論文やレビューなどで治療成績が良いとされる方法を、一つずつ、省略せずに行うことが高い治療成績につながります。
10.まとめ
いかがでしたか?
・CTは根尖病巣の診断力を大幅に高めます。
・ラバーダムで唾液が根管内に入らないようにすることは、とても大切です。
・拡大視野で虫歯の取り残しを無くし、未処置の根管を残さないようにすることで、治療成績があがります。
・根管洗浄には様々な方法があります。レーザー洗浄は特に有効です。
・根管治療は、治療成績が良いとされる方法を省略せず行うことで、治療成績を高くすることができます。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
インビザライン矯正、抜歯する?抜歯しない?
2025年5月10日
こんにちは、医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井です。
今日は、インビザラインの抜歯症例と、非抜歯症例の違いについてのお話です。
1.そもそもどうして矯正治療で抜歯が必要になるの?
口腔内にスペースがないことが原因で、歯並びがガタガタになったり、出っ歯になったりします。
顎骨が成長中のお子さんの場合は、小さい顎を大きく成長させるという手段を使うことができます(小児矯正)。
しかし顎の成長が終わっている成人の場合は、顎を大きくすることは困難です。
すると、歯並びが綺麗に並ぶためのスペースをつくる必要があるのです。
特に、前歯が突出している場合や、顎の大きさに対して歯のサイズが大きい場合(7~8mmのスペース不足がある場合)に抜歯が選ばれることが多くなります。

(治療前)顎のサイズが、横方向に特に小さく、歯のサイズが大きい症例です。
このくらいのスペース不足になると、抜歯して治療する他ありません。

(治療後)前から4番目の歯を抜歯して、歯並びを治療しました。
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主訴:歯のガタガタを綺麗にしたい
治療期間:1年半
治療回数:14回
治療費用:88万円(税込)
リスク・副作用:
・マウスピースを使用する時間が不足した場合は治療が長期化する可能性がある
・適切な口腔衛生管理ができないと虫歯のリスクがある
・歯茎部の歯肉のラインは左右対称にできないことがある
治療内容:マウスピース矯正(インビザライン)による歯列・咬合治療
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2.抜歯せずに治療する場合とは?
歯並びを綺麗に整えるために必要なスペースが7~8mm以下の場合は、抜歯せずに治療することが多いです。
インビザラインは奥歯を、より奥に移動させることができます。
この移動量は、2mm程度までが確実であると言われています。
左右の奥歯を後ろに移動させれば、4mmのスペースを獲得できます。
また、インビザラインではIPR(Inter Proximal Reduction)という、歯と歯の間にあるエナメル質を少し削る処置を行うことが多いです。
隣接する歯の側面を0.1mmから0.5mm程度削ることで、歯が並ぶためのスペースを確保するのです。
歯は片方の顎で合計14本ありますから、IPRの最大量は0.5mm×13か所=6.5mmとなります。
奥歯を後ろに移動させて得る4mmと、IPRで得る6.5mmの合計で10.5mmが、非抜歯で得られるスペースの最大量となります。
しかし、実際は正中を合わせたり、歯根が顎骨からはみ出ない範囲での移動に抑えたりなどの制限がかかります。
以上により当院では、スペース不足が7~8mm以下で、前歯をひっこめる量が4mm以下の症例を非抜歯で治療することが多いです。

(治療前)前歯のガタガタが大きいですが、上の歯だけが前に突出しているわけではなく、糸切り歯(前から3番目の歯)付近の顎の横幅が狭いことが分かります。

(治療後)糸切り歯と、小臼歯(前から4~5番目の歯)を少し傾斜させることで歯並びの横幅を大きくし、さらにIPRと奥歯の移動を合わせて、抜歯せずに歯並びを整えました。
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主訴:反対に噛んでいる前歯を治したい。
歯のガタガタを治したい。
治療期間:1年
治療回数:17回
治療費用:88万円(税込)
リスク・副作用:
・マウスピースを使用する時間が不足した場合は治療が長期化する可能性がある
・適切なこう口腔衛生管理ができないと虫歯のリスクがある
・歯茎部の歯肉のラインは左右対称にできないことがある
治療内容:マウスピース矯正(インビザライン)による歯列・咬合治療
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3.抜歯症例と非抜歯症例で、治療期間に差はあるの?
抜歯か非抜歯かで治療期間が変わるというより、歯の移動量によって治療期間が変わります。
「歯が並ぶスペースが10mm不足しているので抜歯が必要」という場合でも、
「抜歯で歯並びのガタガタを取る」場合、歯の移動量はさほど大きくなりません(左写真)。
一方で「抜歯で前歯をひっこめる」場合は、歯の移動量は大きくなることが多いです(右写真)。

他にも、非抜歯であっても上下の歯の正中を合わせる場合や、奥歯が手前に倒れ込んでいる場合、八重歯の移動量が大きい場合など、時間がかかることが多いケースはたくさんあります。
一般的に、インビザライン治療は約1年から2年程度かかりますが、歯並びの治療プランによって差があるため、抜歯だから長い、非抜歯だから短いということにはなりません。
治療計画ができあがった段階で、個別に担当医にご確認いただくのが一番確実です。
4.抜歯か非抜歯かで、治療費用は変わるの?
矯正治療のための抜歯は、保険が効きません。
当院は抜歯矯正の場合の抜歯料金は無料(当院での矯正治療のみ。
他院で矯正治療される場合は、便宜抜歯費用を申し受けております)。
ですが、医院によっては別途料金が発生する場合があります。
また、矯正で歯を動かす量が小さい症例(前歯の小さな隙間を閉じたい、前歯の小さなガタガタを取りたい、など)の場合はインビザラインGOなどの少ないアライナー枚数で治療する代わりに費用を抑えたプランを選べることがあります。
インビザラインGOでの治療例(治療前)

インビザラインGOでの治療例(治療後)

このように、歯を動かす量が小さい症例では、治療期間が短くなるだけでなく、費用も安くなります。
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主訴:前歯のスキマを閉じたい
治療期間:半年
治療回数:6回
治療費用:44万円(税込)
リスク・副作用:
・マウスピースを使用する時間が不足した場合は治療が長期化する可能性がある。
・アライン社の規定により追加アライナーは1セットに限定されるため、アライナーの使用時間が不足した場合は、最終仕上げがブラケットになることがある。
・適切なこう口腔衛生管理ができないと虫歯のリスクがある。
・歯茎部の歯肉のラインは左右対称にできないことがある。
治療内容:マウスピース矯正(インビザライン)による歯列・咬合治療
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5.まとめ
いかがでしたか?
・矯正において、顎のスペースが足りない量が大きい場合に抜歯が選択されます。
・7~8mm以下のスペース不足の場合は、非抜歯で治療することが多いです。
・治療期間は、抜歯か非抜歯かよりも、歯の移動量で決まります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
歯の神経の治療(根管治療・歯内療法)をしたのに、また腫れてしまった! どうして?
2025年5月7日
こんにちは、つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井です。
今日は「歯の神経(根っこ)の治療=根管治療」のお話です。
歯の神経の治療は、何度も通院しなければなりませんし、治療中にあまりウガイできなかったりして、大変ですよね。
そんな大変な思いをしたのに、治療してしばらく経ったら、また腫れてきた…という経験をされた方も多いのではないでしょうか?
これって失敗なの?どうして再発してしまうの?という疑問に、今日はお答えしようと思います。
1)そもそも歯の神経(歯髄)って何?
歯の中心部には「歯髄(しずい)」と呼ばれる神経や血管をたくさん含んだ組織があります。
歯科外来では俗に「歯の神経」と言われる部分です。
歯の神経(歯髄)の入っている管状のスペースは「根管」と言われます。

歯の構造
2)歯の根っこの治療が必要になる理由、「歯髄炎」と「根尖性歯周炎」
虫歯や外傷で歯髄に細菌が入り込むと、炎症や激痛が起こります。
虫歯が痛い時、歯髄はまだ生きています。
虫歯菌によって歯の神経が死にかけているときが一番痛いです。
この痛い時の状態が「歯髄炎」です。
その激痛が治まったら、既に歯髄は死んでしまった状態になります。
痛くなくなるので「痛みが通り過ぎた」とホッとするのも束の間、虫歯菌や歯周病菌が根管を通って、歯の根っこの尖端に向かって侵入してきます。
根管を通して歯の根の先にある骨に炎症が起きてしまった状態を「根尖性歯周炎」といいます。

3)根尖性歯周炎(歯の根っこ病気)を放置してはいけない理由は?
この時、体は細菌を全身に波及させまいと、顎骨の中で免疫細胞が応戦しています。
細菌の数が少なければ免疫細胞で抑え込んでしまうことができるのですが、根管の中という広い空間が細菌繁殖の根城になってしまっていて、そこには血管がもうないため、免疫細胞は入っていくことができません。
結果的に、免疫細胞は顎骨の中で「いくらでも細菌が入ってくる」という不利な戦いを強いられる中で、炎症性サイトカインという物質によって歯の周りの骨を溶かすという「犠牲的防御」をとり始めます。

歯の根っこの先の骨を吸収し、排膿路(免疫細胞と細菌の死骸である膿を骨の外に排出させる経路)を作ったり、最終的には感染した歯の周囲の骨をすべて溶かして、感染した歯をまるごと排出したりといった戦略をとります。つまり、最終的には歯が抜けてしまうということです。
4)歯が抜けないように行うのが「根管治療(歯内療法)」
歯髄や根管に細菌感染が起きてしまった後、放置すればいずれ歯が抜けてしまいます。
それを防止するために行うのが「根管治療」です。歯内療法とも言います。
歯の神経がまだ生きている(部分的に細菌感染している)場合は、残った神経を取り除き、根管の内側を無菌に近い状態に整えて薬で封鎖します。
根管に既に細菌が繁殖してしまっている場合は、残った神経の残骸や、前の治療で入れた細菌に汚染されてしまった材料、細菌が侵入した歯の質などを取り除き、根管の内側の菌を「免疫力で抑え込める程度に減らし」て、薬で封鎖します。

ちなみに、根尖性歯周炎になってしまった歯の根管内を治療によって無菌にするというのは歯医者の夢ですが、現在のところそれは「不可能」とされています。
5)根尖性歯周炎になったら根管内部を無菌にできない!?
根管内を無菌にしたい!というのは歯医者の夢で、何十年も「どうしたら無菌にできるか」という研究がされてきました。しかし現在では「根管の無菌化は不可能」とされています。
根管の無菌化ができない理由に、以下があります。
5-1)解剖学的ハードル
レントゲンで見る根管は、太い根っこの中央に1本だけ存在するように見えます。
しかし現実には、植物に根っこのように毛細血管状の細かな根管が網の目のように広がっています。
また、根管の形も複雑で、細い部分や曲がっている部分も非常に多いのです。

そのすべてに根管治療の器具を当てることは不可能で、30~35%の根管壁には治療器具が当たらず、処置できないまま残ることが知られています。
5-2)器具・薬剤の限界
根管内の菌を減らすため、つまようじのような形のヤスリで根管内を清掃します。この時、ヤスリで削られてできた非常に細かな切削片が、ヤスリでで届かない部位に押し出されてしまうことがあります。
5-3)根尖外感染(根管の外の細菌)の問題
根尖性歯周炎が重症化したり、歯周病と合併して根尖・歯周と連続した炎症となっていたりする場合は、根管内の細菌数が減っても根の外にある細菌バイオフィルムから細菌が供給され続けます。
この場合は、治療が難しくなります。
6)根管内は無菌化できない、それでは根管治療の治癒ってどうなっているの?
根管内は無菌にできなくとも、根管治療を行えば症状は軽減・消失します。
・残存細菌が宿主免疫の処理能力以下になれば炎症が起きない
・緊密な根管充填+被せ物による密閉により細菌の栄養供給を断ち、細菌を「休眠状態」にする
・菌が休眠/免疫力によって処理されるようになると、歯の周りの骨が再生する
といったメカニズムが働くためと言われています。
無菌が無理でも、症状が出る「限界以下」の状態に菌を押し込める戦略がとられているわけです。

黄色矢印:根っこの尖端まで根管充填剤は入っておらず、根尖性歯周炎になっている
オレンジ矢印:根っこの先まで根管充填剤は入っていないが、根尖病巣は出来ていない
7)根管治療の成功率は?
残念ながら、日本の保険診療での根管治療の成功率は世界の平均と比べて、かなり低いと言われています。
・成功率の国際比較
各数値は主に過去5〜10年以内の研究報告やレビューに基づいたおおよその値です。細かな条件差があるので、おおよその傾向と思ってください。

それぞれ研究条件が異なるため単純比較は困難ですが、日本では平均的に低め、欧米は高めという傾向が読み取れます。
8)根管治療の成功に関与する因子
日本の保険診療の根管治療の成功率が低いことは、逆に言えば、日本の保険診療で一般的でなく、海外で一般的であることの差に注目すれば、治療成績を上げることができるということです。
日本の専門医による根管治療の成功率が海外並みであることからも、それが分かります。
では、日本の保険治療で一般的でない、根管治療の成功率を下げてしまう要因とは何でしょうか?
8-1)ラバーダム・マイクロスコープ・ニッケルチタンファイルの不使用
特に、ラバーダム防湿の不使用が大きな問題と言われています。
唾液の中には細菌が大量にいるので、根管治療中にしっかりと唾液が入らないように遮断する方が、治療が成功しやすくなります。
他にもいくつかの要因がありますが、根管治療の成功率を上げる器材や設備の普及が進んでいないことも背景にありそうです。

ただ、2022~2024年にかけて、保険診療におけるニッケルチタンファイルの使用料が上がった(150円→1500円)ために、ニッケルチタンファイルの普及は2025年現在、もっと上がっていると思います。
8-2)日本の保険制度による制限
上の表を見て「日本は遅れてる!」と単純に判断していただきたくないのは、保険診療の報酬と使用器材・設備や、治療時間が密接に関係しているからです。
例えば、上の「ニッケルチタンファイルの使用料が150円から1500円に上がった」という事実は、患者さんの負担額で言えば「3割の窓口負担が45円から450円に増えた」ことを意味します。
でも、1本7000~9000円ほどするのに数回使ったら廃棄しなければならないニッケルチタンファイルを、150円では使用できません。1500円であれば、ある程度使えます。
CTも、使えば診断力は格段にUPします。専門医は自費根管治療の際に必ずCTを撮影します。
参考リンク:歯科用CTで出来ること ~根管治療でCTって必要なの?~
しかし日本の保険診療では「3根管以上の歯で、複雑な形態であること」と制限があります。
前歯でも撮影した方が良いのに~というケースでも、保険診療ではできません。
日本の保険診療の根管治療は2000~8000円程度と、群を抜いた世界最安水準である一方、世界標準の治療を行いにくくなってしまうという副作用があるのです。
*海外との比較
アメリカ:保険加入で3~5万円程度・無保険で12~23万円程度
イギリス:保険で1.5万円程度、自費で10~19万円程度(保険は数カ月の順番待ちが必要)
ドイツ:保険外で3.2~16万円程度
さらに治療費用の安さは「説明にかける時間」「ラバーダムをする時間」「隔壁を作る時間」という、治療時間の確保を困難にしている側面もあると思われます。
世界レベルで圧倒的に安くて順番待ちも少ない日本の歯科保険制度は、その利便性と、治療の成功率をトレードしている側面があるのです。
9)自費の根管治療って、どのくらいの差が出るの?
透明模型での検証してみたのが、下の写真です。
左:治療前
真ん中:一般的な保険診療の道具(裸眼・スチールファイル、薬液洗浄)で根管内を清掃したところ
右:一般的な自費診療の道具(顕微鏡・ニッケルチタンファイル・レーザー洗浄)で根管内を清掃したところ

模型なので、天然の歯と同じではありませんが、赤色の塗料の除去状況に差が出ているのが分かります。
実際にはこれに
・ラバーダム防湿(私は保険診療でもなるべく使用しています)
・隔壁(仮封を3㎜厚にキープするために必要です)
・時間(60分枠と30分枠では、どうしても出来ることに差が出やすい)
などの差が加わります。
10)まとめ
いかがでしたか?
・根管治療が再発する原因は、根管内に残存する細菌です。無菌化は不可能ですが、菌数をコントロールすることで治癒が可能です。
・歯の根の病気(歯髄炎・根尖性歯周炎)を放置すると、いずれ歯が抜けてしまいます。
・日本の保険診療は、世界で圧倒的に安い代わりに、世界水準の器材や設備を使用できないという側面があります。
・日本の保険治療は最安ですが、成功率は低くなる傾向があります。
次回は、「先進的な根管治療の材料・器材・設備」の紹介と、それぞれがどのように治療成績をUPさせるかについて解説します。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!