自費の根管治療(歯内療法)って、保険とどう違うの?
2025年5月16日
こんにちは、つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井です。
今日は「歯の神経(根っこ)の治療=根管治療」のお話の2回目です。
前回お話した「安い保険治療と高い成功率は両立しにくい」という根管治療の現実を踏まえ、
今回は「自費診療で使われる根管治療の最新器材と設備が、どのように治療の成功率を高めるのか」をわかりやすく解説します。
参考リンク:歯の神経の治療(根管治療・歯内療法)をしたのに、また腫れてしまった!どうして?
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7214
1.根管治療に入る前に「診断」精度を高めるCT撮影
参考リンク:歯科用CTで出来ること ~根管治療でCTって必要なの?~
「歯の根尖病巣の検出力」は
CTが100とすると
デンタルレントゲンが55
パノラマレントゲンが28
と言われています。
ですから、CTで診断した方が、診断力は2~3倍も高くなります。
しかし、保険診療でCT撮影が認められるのは「根っこが3本以上ある奥歯で、根管形態が複雑なものに限る」という制限があります。
細い根管の見逃しは、根管治療の成功率を下げる大きな要因になるため、画像診断の精度は重要です。
2.「隔壁」を作る
根管治療をしなくてはならないほどの虫歯がある場合、歯の質を大きく失っています。
歯質の壁を失ってしまうと、治療中に唾液が根管の中に入り込んでしまうため、プラスチックで壁(隔壁といいます)を作ります。
そうすることで、治療中に細菌を含んだ唾液が歯の中に入らないようにできますし、仮の蓋をした時にも唾液が歯の中に侵入することを防ぐことができます。
3.ラバーダムで唾液を遮断する
ラバーダムという、ニトリル製のシート(昔はラバー=ゴム製のものを使用していましたが、現在はゴムアレルギーの方への配慮のため、アレルギーを起こしにくいニトリル製のものが主流になってきています)を、クランプという金具で歯に固定します。
どうしても苦手、という方が一定数いらっしゃる処置です。
歯がキュッ!と掴まれる感じがするので、苦手な方には麻酔を用いて装着することもあります。
このラバーダムも、根管治療の成功率を大きく左右する因子になります。
4.拡大視野で虫歯を取り切り、根管を探す
次は、歯をズームにして、細かい部分を観察しながら治療します。根管治療の成功率を左右する因子の一つに、「冠部齲蝕の取り残し」というのがあります。根っこの見逃しの前に、歯の神経が入っていた部分の虫歯をわずかに見逃してしまう…ということがあると、いつまでも治癒しません。
虫歯の染め出し液を使用して、取り残しが無いか、念入りに確認します。
そして、CTで事前に確認した根管の中を細い針金のような器具を、根っこの尖端まで通していきます。
根っこの中には、一部感染してしまった神経、既に死んでしまった神経の残骸、もしくは前の治療で根管内に充填された材料(ガッタパーチャ)などが入っています。細い針金で根管を確認してから、根管内の感染性の物質を除去していくのです。
5.根管内の感染性の物質を拡大視野で除去する
歯の中の感染性物質(死んだ神経の残骸や、古い充填物など)を針金状のヤスリ(ファイル)で削りおとしていきます。
歯の根っこが曲がっていると、従来型のスチールファイルでは、根っこの先に到達できなかったり、根っこの湾曲の形を変えてしまったりといった現象が起こることがあります。
そこで、Ni-Tiファイルという形状記憶合金で出来たファイルを用いると、根っこの湾曲にファイルが追従してくれるので、歯に優しく、曲がった根っこも処置することができます。
このNi-Tiファイルは非常に柔らかく、強い力をかけたりしてしまうと歯の中で折れてしまいやすいというデメリットがあります。そのため、当院ではファイルにかかる力や回転数をコンピューター制御してくれる機械を用いて、強い力がかかってしまったら自動的に逆回転をかけて力を解放するなど、さまざまな安全対策を講じて使用しています。
6.とにかくしっかりと洗う!根管洗浄
歯の中をファイルで削れば、削りカスが発生します。
この削りカスは、感染性の物質を含んでいるので洗い流さなければなりません。
「水流で洗い流す」というのが基本戦略になるのですが、問題は根管という「針のように細い、行き止まりの通路」にどうやって水の流れを作るか…ということです。
ここに、細長いガラス管の画像があります。細すぎて、食器用スポンジやペットボトル用のブラシなどは入りません。この管の中を洗うと考えてください。
中に水や消毒薬・洗剤を入れることはできますが、振ったり、上下にひっくり返したりはできません。
強力な消毒剤を数分入れることは可能ですが、「一晩漬け置き」などもできません。
さて、どうすれば管の中を綺麗に洗うことができるでしょうか?
根管洗浄は、この「細い管をなんとかして洗う」という作業なのです。
最近では、
・シリンジによる薬液洗浄
・超音波洗浄
・音波洗浄
・レーザー洗浄
などが、よく選択されています。
6-1)マイクロシリンジによる薬液洗浄
現在、最も一般的に使用されている根管洗浄法です。2018年の全国29歯科大学34講座のアンケートで、93%がこの洗浄方法を選択していたそうです。
このような、根管治療用の注射器(注射針の代わりに、消毒薬を根管に入れるための鈍針を先端につけています)を用いて、根管内に薬液を入れる洗浄法です。
細い管の中にフレッシュな薬液の水流を作りたい!→注射器で水流を作ってしまおう!
という作戦です。
ただし、薬液を勢いよく押し出して洗浄できるわけではありません。
水流を作りたいけれども、勢いがありすぎると根っこの先から、骨の方に薬液が漏れてしまうからです。
薬液が漏れてしまうと、腫れや炎症の原因になってしまいます。
ですから、シリンジから押し出される薬液の水流は、チョロチョロ…という勢いです。
水流だけでなく、消毒剤の薬効もあるのですが、それでもちょっと洗浄力が頼りなく感じられますね。
そこで、多くの歯科医師はこのマイクロシリンジによる薬液洗浄に、他の洗浄法を併用して、根管内の洗浄効果を高める作戦をとっています。
6-2)超音波洗浄
マイクロシリンジによる薬液洗浄に次いで2番目に多く使用される洗浄方法です。
マイクロシリンジと超音波の併用による根管洗浄は、保険診療でも一般的な洗浄方法と言えます。
根管内に入れた細い金属製のチップを超音波で振動させることで、マイクロシリンジ洗浄の5~10倍の流速を得ることができます。毎秒2万回の振動で高速の渦流がチップの周囲に生じ、さらにキャビテーションという細かな泡が発生したり潰れたりする現象が起きます。この泡が潰れるときに生まれる衝撃波が、削りカスを攪拌したり、破壊したり、薬液を活性化したりします。
金属チップが根管壁に触れると段差を作ってしまうというデメリットもあるので、根管の細い部分には使わないよう、触れさせないよう使用する必要があります。
6-3)音波洗浄
普及率は10%程度で、精密根管治療で採用している先生も多いかもしれません。
超音波より周波数の低い、音波の振動数で根管内に入れたシリコンチップを振動させることで削りカスを洗い流したり、薬液を器具が直接触れない部分に届けたりします。
超音波洗浄のようにキャビテーションは発生させないので、汚れを根管壁から剥がす力は超音波洗浄に劣りますが、チップが根管壁に触れても根管壁を傷つけないため、根管の細く深い部分にも使用することができます。
単独で使用せず、マイクロシリンジ+超音波洗浄にさらにプラスして使用されることが多いと思います。
6-4)レーザー洗浄
ここからは、精密根管治療で用いられる洗浄方法になります。
保険診療でほとんど使用されない理由は「高価であるため」。
日本の保険制度では「根管洗浄」は根管治療に含まれるとされていて、安価なマイクロシリンジ洗浄であっても、高価なレーザー洗浄であっても、診療報酬は同じです。
レーザーは設置コストが500~800万円かかる上に、根管内に挿入するチップ(8000円~1万7000円程度)は高価な上に非常に繊細な光ファイバー(落とせば一撃で壊れる繊細さ)であることが、保険での使用制限につながっていると思われます。
しかし、その洗浄効果は非常に強力です。
Er:YAGレーザーのレーザー光は水へ超高吸収され、根管内で微細な蒸気爆発を起こし、強力なキャビテーション作用によって根管内の細い部分の削りカスまで除去することができます。
前回記事で掲載した透明模型のシミュレーションを、もう一度ご覧ください。
左:一般的な保険診療の道具(裸眼・スチールファイル、マイクロシリンジ薬液洗浄)で根管内を洗浄後
右:一般的な自費診療の道具(顕微鏡・ニッケルチタンファイル・レーザー洗浄)で根管内を洗浄後
緑の円の中央に、根管と根管が連絡している部分があります。
ここは、スチールファイルであろうと、ニッケルチタンファイルであろうと、器具で触ることはできません。
しかし、レーザー洗浄によって、この連絡部分の汚れを除去することに成功しています。
7.貼薬(ちょうやく)
綺麗に根管内を洗浄したら、次回来院までに根管内を消毒する薬液を入れます。
これを貼薬といいます。
この薬剤は、ほとんどの場合「カルシペックス」と呼ばれる、アルカリ性の薬を用います。
これは、保険診療でも自由診療でも共通です。
8.緊密な仮封
薬剤を入れたら、次は仮の蓋です。水硬性セメントと言われる、水で固まる粘土のような材料で封をします。
この水硬性セメントは、厚み3㎜をキープしなければ、しっかりと封ができないと言われています。
柔らかい材料なので、次回来院時に削れてしまうことも多く、私は5㎜程度の厚みで仮封するようにしています。仮封の厚みまで計算して隔壁を作れば、さほど難しくありません。
では、この仮封はどのくらいの期間、しっかりと封をしてくれるのでしょうか!?
・仮封の厚みが2㎜以下の場合で1週間は持たない(なので、3㎜以上の厚みが必要です)
・仮封の厚みが3㎜程度の場合、2週間程度で再充填することが好ましい
・仮封の厚みが3㎜以上ある場合の最長許容ラインは4週間
・長期間あける場合はプラスチック材料などで二重仮封を行うべき
とされています。
封鎖性が低下してしまうと、唾液が根管内に入ってしまい、せっかく行ってきた根管治療=根管内の細菌を減らす処置が、台無しになってしまうからです。
9.やることをやるためには、時間がかかる
いかがですか?
実はまだまだ、根管治療については書くべきこともあったのですが、長文になってしまったため今回は割愛します。
根管治療は、虫歯を削って型を採って…という治療より、やることが本当に多いのです。
そして、時間がかかるのです…。
「歯医者、長い」
「歯医者、時間かかる、たくさん通わせる」
と言われる原因になりがちな根管治療。
しかし、論文やレビューなどで治療成績が良いとされる方法を、一つずつ、省略せずに行うことが高い治療成績につながります。
10.まとめ
いかがでしたか?
・CTは根尖病巣の診断力を大幅に高めます。
・ラバーダムで唾液が根管内に入らないようにすることは、とても大切です。
・拡大視野で虫歯の取り残しを無くし、未処置の根管を残さないようにすることで、治療成績があがります。
・根管洗浄には様々な方法があります。レーザー洗浄は特に有効です。
・根管治療は、治療成績が良いとされる方法を省略せず行うことで、治療成績を高くすることができます。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!