MFT特集 その9 「下唇を噛む癖」咬唇癖ついて考える
2024年11月25日
MFT特集 その9 「下唇を噛む癖」咬唇癖ついて考える
こんにちは。岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村剛です。
MFT関連の第9回である今回は、「咬唇癖」について考えてみようと思います。
これは第8回で触れました深いかみ合わせ(deep bite)に随伴する症状です。
日本人は顔の構造の特徴から、Deep biteな上顎前突の顔の人が増加しているようです。
*画像は同意を得て掲載しています*
MTF特集1~7はこちら(クリックすると、ページに移動します)
1.咬唇癖とは?
口唇癖は上顎前歯の裏に下口唇を咬む癖で、挟み込まれた下口唇が上顎前歯を唇側に押すため、上顎前歯がさらに前突していきます。
出っ歯だから唇を咬み、唇を咬むから出っ歯が悪化するという、悪循環です。
2.咬唇癖を予防するには「3歳未満で止めること」が重要
乳歯列期に唇にあとが残るほど「下唇を吸う」子供がいますが、乳歯の指吸い癖と一緒で、3歳ぐらいまでにやめれれば歯列への影響は少ないとされています。
これらの癖は授乳などと同じような『吸う感覚』を味わうためにするといわれており、3歳以降も続けるようであれば、癖として定着してしまいます。
癖として定着している場合、自力での改善は意識してもなかなか難しいです。
口唇癖はほぼ無意識でする行動で、ストレスがかかったり、緊張するととくに唇を咬む傾向にあります。
指吸い癖もそうですが、『吸う感覚』が心地よい、と感じている場合は辞める動機がなかなかありません。
3.咬唇癖を治す方法
3-1)噛みたいときには別のことをさせる
唇を咬む癖が良くないことであることを本人に説明した上で、噛みたい時には他のこと、お気に入りの玩具で遊ぶなどといった、他の事をさせるよう誘導するという方法があります。
ただ、前述のとおり、いったん癖として定着してしまっていると、これだけで完全に癖を治すことは難しいことが多いです。
3-2)矯正により口腔の形の改善する+口腔機能の発達を促す
顔が丸く、頬の筋肉が強い場合、下顎が奥に押し込まれています。
(詳しくはこちらの記事もご覧ください:MFT特集その8「笑ったときに下顎の前歯が見えない」ディープバイト(Deep Bite)について考える)
こうした場合、マウスピースなどで前歯のかみ合わせを「浅くする」ことにより、下顎の成長を促すことができます。また、上の前歯を矯正によって引っ込め、上下の前歯の間に下口唇を入らないようにすることが有効です。
また、口腔機能の発達不全が背景にある(唇の力が弱い・咬合力が未発達・舌を上に持ち上げる力が弱い、など)ことが多いため、MFT(筋機能訓練)により改善を試みることが重要です。
4.咬唇癖は放置すると悪化する
口の習癖は、様子を見ていても、咬合と筋肉の悪循環の作用により徐々に症状が悪化していく事が多いです。口唇癖はその典型です。
正常な発育を阻害する因子は、なるべく早めに矯正やMFTなどを組み合わせて実施して、形の修正・癖の修正を両面から支援することが重要だと考えます。
まとめ
いかがでしたか?
- ・上顎前突、Deep biteでは、唇を咬む癖(咬唇癖)が出やすいです。
- ・唇と咬むから出っ歯が悪化し、出っ歯だから唇を咬む…という悪循環が発生し、咬合と筋肉の作用により悪化していく症例が多く存在します。
- ・咬む行為が本人にとって心地よい場合、自然にはなかなかやめられません。矯正などによる口腔の形の修正と、MFTなどのトレーニング、本人の発達と理解、を通じて正常な発育を阻害する因子を修正してあげることが重要です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
MFT特集 第8回 – 「笑ったときに下顎の前歯が見えない」ディープバイト(Deep Bite)について考える
2024年10月25日
MFT特集 第8回 – 「笑ったときに下顎の前歯が見えない」ディープバイト(Deep Bite)について考える
こんにちは。岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村剛です。
今回はMFT(口腔筋機能療法)に関連した第8回の特集として、最近よく見られる深いかみ合わせ(deep bite)についてお話します。
MTF特集1~7はこちら(クリックすると、ページに移動します)
MFT特集その1 筋肉量を増やして小児口腔機能発達不全症を治そう
MFT特集その2 「正しい姿勢・咀嚼と嚥下・呼吸」を得るために大事なこと
MFT特集その3 お口の機能発達は10歳までが勝負!
MFT特集その4 お口ポカンの影響と直し方について
MTF特集その5 口呼吸とアレルギー、アデノイド
MFT特集その6 矯正手法とMFTについて
MFT特集その7 舌癖と歯列不正のメカニズムについて
筋肉は、歯並びやかみ合わせに大きな影響を与えます。
第5回でも軽く触れましたが、日本人は丸顔が多く、幼い印象を持たれる顔が多い傾向があります。
骨や筋肉の視点から見ると、下あごの発達が悪く、咬筋が優位になりやすい顔の作りです。
実はこの特徴が、深いかみ合わせの症状と一致しています。
つまり、日本人は深いかみ合わせになりやすい顔の作りであると言えます。
1 ディープバイトの原因と影響
ディープバイトは奥歯をぎゅっと噛みしめてしまう「クレンチング」が原因です。
歯の高さである「咬合高径」は、噛む力と萌出する力のバランスで決まります。
噛む力が強ければ、萌出力が負けてしまい、歯の高さが低くなります。
このディープバイトの問題点は、時間が経つにつれてさらに深くなり(悪化する)可能性が高いことです。
2 下あごの成長とディープバイトの関係
下あごの成長は上あごに比べて遅く、思春期前後にピークを迎えます。
しかし、この時期に咬筋が強すぎると、下あごの発達が阻害され、上顎前突の傾向が強まります。
そのため、思春期前後までにバイトアップやマウスピース矯正など、下あごの発達を促す介入を行うことが有効です。
また、広島大学の研究でも、ディープバイトは自然には改善せず、むしろ悪化することが多いとされています。
3 家庭でできるディープバイト対策
家庭でできる対策としては「クレンチング(噛みしめ癖)予防」が挙げられます。
人間は集中すると癖が出やすく、奥歯を無意識に上下の歯を接触させてしまう癖がつくことがあります(歯牙接触癖:tooth contacting habit)。
これが進行すると、歯を常に噛んでいる状態となり、さらに問題が悪化することがあります。
また、ストレスがかかると歯ぎしりなど、奥歯を強くかみしめる症状が出る人もいます。
人は安静時、「上下の歯が当たっていない状態」が正常です。
上下の歯が接触するのは、食事時間も入れて1日約17分と言われています。
以上より、普段から上下の歯を当てない・噛みっぱなしにしないように意識することが大事です。
4 下あごに負担をかける癖に注意
頬杖やうつぶせ寝など、下あごに負担をかける癖も良くありません。
これらの癖は姿勢に関連しており、自分がどのような状況で下あごに力をかけているかを把握することが重要です。
例えば、ゲームをする時も、口を開けている人もいれば、奥歯をかみしめている子供も多くいます。
最近のお子さんの生活習慣の傾向として、ゲームやスマホなどを長時間するケースが多くみられます。
そうした生活習慣の中で、奥歯をかみしめるにしろ、開けているにしろ、お口の癖が強く影響するようになったと臨床家として感じています。
お子さんの生活の癖や姿勢の癖、お口の癖などを親御さんがしっかりチェックしてあげることが重要です。
まとめ
生活習慣や癖が歯並びに影響することを意識し、「お口の悪い癖」「口腔機能発達不全」を見逃さないことが重要です。良く分からない場合は、お近くの歯医者さんでチェックしてもらってくださいね。
生活習慣の悪化を防ぐためにも、早めの対策がおススメです。
いかがでしたか?
・日本人は丸顔で、ディープバイトになりやすい顔の作りです。
・クレンチングによって下あごが押し込まれ、悪化しやすい傾向があります。
・ゲームなどの集中による癖もディープバイトに影響するため、生活習慣を見直すことが重要です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
歯並びが治れば滑舌が改善する!?~滑舌と歯並びの関係~
2024年9月19日
歯並びと滑舌の関係
1. はじめに
こんにちは、つぼい歯科クリニックの院長 坪井です。
お子さんの滑舌が悪いことで悩んでいるお母さま方へ、今回は歯並びと滑舌の関係についてお話しします。
現代のお子さんの多くが、口唇や舌を正しく使えていないと言われています。
一般的に3割程度のお子さんが、舌や口唇を上手に動かすことが苦手な「口腔機能発達不全症」と言われていますが、小児歯科の臨床に携わる歯科医師の体感としては3割どころではなく、5~7割と感じています。
- 滑舌が悪い
- 舌の可動域が小さい
- 舌を挙上するのが苦手
- 風船を膨らますことができない
- 蝋燭を吹き消せない
- 普段から口が開いている
- 食事がとても時間がかかる
今回は、こうした「小児口腔機能発達不全症」の症状のうち、滑舌と歯並びの関係に焦点を当ててお話しようと思います。
2. 子供の滑舌と歯並び
歯並びが滑舌に与える影響は非常に大きいです。
歯の位置がずれていると、舌が正しい位置に動かず、発音が難しくなります。
例えば、歯並びの横幅が狭く、口蓋(上顎のお椀のような形態)が深い場合、舌を上に持ち上げて上顎に触れさせることが難しくなることがあります。すると「タ行」の発音が難しくなることがあります。
また、上の前歯が前に出っ歯となっていて、下の前歯との距離が大きく空いている場合、舌を上の前歯に擦って音を出す「サ行」が言いにくくなることもあります。
滑舌が悪いと、友達とのコミュニケーションに支障をきたしたり、コンプレックスになったりすることがあるため、可能ならば低年齢のうちに改善したいところです。
3. 歯列矯正の効果
横幅が狭く出っ歯型の歯並びと、正常な歯並びを見比べてみましょう。
横幅が狭く、出っ歯型の歯並び
正常な歯並び
横幅が狭くなってしまった場合、上顎が深くなってしまい、舌を当てるのが難しくなってしまいます。
こうして舌を正常に動かすことが難しい場合、ちょっと籠ったような発音になることが多いです(口蓋化構音)。
歯列矯正治療では前歯を引っ込めたり、(10歳以下の小児の場合は)急速拡大装置と呼ばれる、上顎の横幅をしっかり広げる治療などで、構音が難しくなってしまう原因を治療することができます。
急速拡大装置
4. MFTや言語聴覚士によるトレーニングの併用
歯列矯正だけでなく、筋機能療法(MFT)や言語聴覚士によるトレーニングも有効です。
当院は、口腔機能発達不全症のお子様が矯正治療を行う場合、ほぼMFTも併用しています。
*ただし、お子様の年齢が10歳以上の場合で治療効果が薄いと判断した場合は、ご自宅での簡単なトレーニングの指導のみとさせていただいています。
MFTについては、こちらの記事もご覧ください。
参考リンク:お口の機能発達は10歳までが勝負!
参考リンク:当院のMFTの様子(インスタグラム)
*インスタグラムは音がでますのでご注意ください
5. まとめ
いかがでしたか?
・滑舌と悪い歯並びには関係があり、歯並びを治すことで滑舌が改善することがあります。
・特に「タ行」「サ行」で特に改善が見られます。
・MFTや言語聴覚士によるトレーニングを併用した方が効果的です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
矯正治療は何歳から始めるのが一番良い?
2024年9月3日
矯正治療は何歳から始めるのが一番良い?
こんにちは、岩国市のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井文です。
今日は「矯正治療は何歳から始めるのが一番良い?」という話題です。
当院には、2~3歳のお子様から、60代くらいまでの方が矯正治療に通院されています。
大人になってからでも、多くの場合は治療可能です。
しかし、悪い歯並びは子供のうちに治してしまう方がメリットが大きいのも、事実です。
1)小児矯正の重要性
まず、小児矯正についてお話ししましょう。
10歳前後までの時期が対象の小児矯正を行う理由は、成長期を利用して顎の骨を正しい位置に導くことができるからです。
この時期に矯正を行うことで、将来的に抜歯を避けることができる場合もあります。
小児矯正の詳細については、別の記事で詳しく書いていますので、ご興味がある方はぜひ読んでみてくださいね。
★参考リンク★
成長を利用して治す小児矯正で「非抜歯矯正」!
2)小児矯正のデメリット
一方で、小児矯正にはデメリットも存在します。
例えば、治療期間が長くなることや、装置の管理が難しいことがあります。
また、子供自身が治療に対して積極的でない場合、治療がうまく進まないこともあります。
3)12~13歳以上の矯正治療
では、小児矯正の時期を逃してしまった12~13歳以上の方の場合はどうでしょうか?
人間の頭蓋は10歳前後で成長をほぼ終えるので、「矯正治療で顎を育てることができる」時期は終わっています。
しかし実は、「顎を育てる時期が終わっている12~13歳」でも、早めに治療した方が良い理由があるんです。
今回は、その理由を5つご紹介します。
4)早めに歯列矯正を行うことのメリット
4-1)治療期間が短い・歯が良く動く
思春期の成長期にある12~13歳の段階では、骨や歯が柔らかく、治療に対する反応が良いです。
この時期に矯正治療を開始することで、治療期間を短縮し、歯の動きを促進することが期待できます。
4-2)痛み・違和感が少ない
若い時期に治療を始めると、歯や口腔の状態がまだ柔らかいため、痛みや違和感が少なく、患者が治療に対して快適に適応できます。
4-3)社会生活への影響が小さい
思春期は学業や友情など、社会的な関係が形成される時期です。
この時期に治療を始めると、社会生活への影響が少なく、同世代との交流や自己表現がしやすくなります。
成人後に治療を始めると、仕事や社会生活において制約を受ける可能性があります。
特に飲食業や営業など、外見や口元が重要な職業に従事する場合、治療が難しくなることがあります。
4-4)加速矯正を行える
近年では加速矯正技術が進歩しており、治療期間をより短縮することが可能です。
思春期に始めることで、このような新しい技術を駆使し、より迅速かつ効果的な治療が行えます。
4-5)高校デビュー・大学デビュー・社会人デビューの時には綺麗な歯並びでいられる
思春期に治療を終えると、高校や大学、社会人としての新たなステージに綺麗な歯並びで臨むことができます。
「失った時間は取り戻せない」ため、思春期に治療を受けることで、将来の自分に自信を持って臨むことができます。
5)私の体験談:思春期の思い出を変える矯正治療
5-1)私の生まれつきの歯並びの問題
私は生まれつき、上の2番目の前歯が2本生えていました。
本来1本のところに2本生えているため、その部分の歯並びが乱れていました。
小学生2年生のころ、母に連れられて矯正相談に行ったことを覚えています。
母は矯正治療が保険適用外であることから、治療を受けさせるべきかどうか、非常に悩んでいました。
母は私に「文ちゃん、歯並び、気になる?治したい?」と尋ねました。
当時の私は小学2年生で、外見や歯並びについて何も気にしていない年齢でしたので、
「全然!このままでいいよ!」と答えました。
母が、ホッとした表情をしたのを、よく覚えています。
5-2)思春期の変化
しかし、思春期に入ると外見がそれなりに気になるようになりました。
笑ったときに上の前歯の歯並びが乱れていることがコンプレックスとなって、口元を隠すことが増えました。
小学生のころは、歯を見せて笑っている写真が多く残っていますが、中学生~高校生の頃の写真では、歯を見せて笑っている写真はほとんどありません。
5-3)矯正治療の決断
大学生になった私は矯正治療を受けたいと、強く思うようになりました。
毎日鏡で自分の顔を見るたび、歯並びが気になる…と思うのを辛く感じるようになっていましたし、
歯磨きを頑張っても、歯並びが乱れて歯が重なっている部分には虫歯ができてしまいました。
両親も私の気持ちを汲んで、
「もっと早くに矯正させてあげたら良かった」
と言ってくれて、晴れて歯並びを治療を受けることが出来ました。
5-4)もっと早くにしておけば良かった
治療が終わったとき、私は自分の笑顔に自信を持てるようになりました。
ただ、矯正治療をする前に虫歯になってしまった歯は元には戻りませんし、
口元を隠して過ごした思春期の時間も戻りません。
矯正治療は何歳からでもできますが、どうせやるなら、確かに早めが良かったなと個人的には思っています。
6)矯正治療を考えている方へ
矯正治療は何歳からでも始められます。
しかし、矯正をされる方の多くが、子供か、若い方です。
「どうせやるなら早いうちに始める方が、メリットが大きい」からです。
小児期から始めれば、抜歯を回避できる可能性が高くなり、
思春期から始めれば、治療期間を短縮し、痛みや違和感を軽減することができます。
大学時代から始めれば、社会生活への影響も少なく、将来の自分に自信を持つことができます。
迷っていらっしゃる方は、当院でも無料矯正相談会を毎月開催しておりますので、よろしければ一度相談に知らしてくださいね。
まとめ
いかがでしたか?
・矯正治療は何歳からでも始めることができますが、早めに始めることで多くのメリットがあります。
・治療期間が短縮されます。
・痛みや違和感が軽減されます。
・社会生活への影響が少ないです。
・将来の自分に自信を持つことができます。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
MFT特集 その6 矯正手法とMFTについて
2024年8月15日
矯正手法とMFTについて
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科、小児歯科専門医の吉村です。
今回はMFT関連の第6回で、MFTと矯正方法の選択についてのお話です。
実は、歯並びやかみ合わせには、筋肉の働きが深く関係しているんです。
今回の記事では、その秘密を解き明かしつつ、どうして矯正治療とMFT(口腔筋機能訓練、マイオファンクショナルセラピー)が大切なのかをお話しします。
お子さんの歯並びが気になる保護者の方は、ぜひお読みください。
MTF特集1~5はこちら
MFT特集その1 筋肉量を増やして小児口腔機能発達不全症を治そう
MFT特集その2 「正しい姿勢・咀嚼と嚥下・呼吸」を得るために大事なこと
MFT特集その3 お口の機能発達は10歳までが勝負!
MFT特集その4 お口ポカンの影響と直し方について
MTF特集その5 口呼吸とアレルギー、アデノイド
第一章 なぜ筋肉が歯並びに影響するのか?
筋肉は、歯並びやかみ合わせに大きな影響を与えます。
特に、舌や唇の筋肉が正しく機能しないと、不正咬合が進行することがあります。
この問題を放置すると、後々の治療が難しくなる可能性があります。
- 舌小帯・上唇小帯の影響:筋肉がその付着点や起始点で異常に働くと、歯が引っ張られ、不正咬合が増悪することがあります。
例えば、舌小帯や上唇小帯という筋の付着点に問題がある場合、筋肉が正常に機能せず、歯並びが乱れる原因になります。
舌小帯
参照リンク 舌小帯・上唇小帯 | 歯科用語 (shika-yogojiten.jp)
上唇小帯参照リンク 舌小帯・上唇小帯 | 歯科用語 (shika-yogojiten.jp)
このようなケースでは、小帯切除術と呼ばれる簡単な外科処置で改善が見込まれます。
最近では、この処置を選ぶ患者さんが増えています。
- 口や鼻のサイズ:口が小さいと、鼻腔や気道も狭くなることがあります。
この場合、矯正治療によって上顎の拡大することで、呼吸や気道スペースが確保されます。
下顎は、上顎の拡大に伴って自然に成長することも多く、矯正による顎の大きさや位置の改善は、呼吸にも良い影響を与えることが報告されています。
第二章 MFTと矯正治療って何?
MFTは、筋肉の働きを改善するための治療法です。これを行うことで、矯正治療がより効果的になります。
- MFTの役割:MFTは、筋肉のバランスを整え、歯並びを正しく導くサポートをします。筋肉が正常に働くことで、歯が正しい位置に並びやすくなり、矯正治療の効果が高まります。
- 矯正治療との組み合わせ:矯正治療とMFTを併用することで、歯の動きがスムーズになり、理想的な歯並びが期待できます。これにより、将来的な歯並びの安定性も向上します。
第三章 どうやってMFTと矯正治療を行うのか?
それでは、具体的にどのように治療を進めるのでしょうか?
- 丸顔の特徴と治療:日本人に多い丸顔の特徴として、咀嚼筋(食べ物を噛む筋肉)が強いことが挙げられます。
丸顔で咀嚼筋が優位な場合、下顎を成長させる治療法やMFTが向いているとされています。
具体的には、咬合斜面板、咬合挙上板などの装置が用いられるほか、ある程度はマウスピース矯正でも治療が可能です。
- 面長の特徴と治療:一方、面長の特徴としては、咀嚼筋が弱く、低活動であることが多いです。
このような場合、まずは上唇小帯や舌小帯など、筋活動を阻害している因子を取り除くことが重要です。
その上で、硬いものを食べたりガムを噛んだりして、咀嚼筋を鍛えるMFTが効果的です。さらに、鼻が悪い場合も多いため、鼻呼吸の練習や必要に応じた耳鼻科治療が行われます。
直接的な影響は少ないとされていますが、上顎の拡大によって副産物的に鼻呼吸が改善されたという報告もあります。
臼歯部を圧下させる(かみ合わせを低くする)装置も効果的です。
複数の歯に大きな処置が必要な場合は、マルチブラケットやインビザライン矯正などの本格的な矯正が適しています。
第四章:他に考慮すべきことは?
MFTと矯正治療以外にも、いくつかの重要なポイントがあります。
- 鼻呼吸の促進:鼻呼吸ができるようにすることも重要です。
これには耳鼻科治療や鼻の通りを改善するための対策が必要になることがあります。
拡大によって鼻呼吸が改善することもありますが、専門的な治療が必要なケースも少なくありません。
- 骨格の改善:骨格的な問題を早期に改善することで、将来的な抜歯や手術が不要になることがあります。
子供時代に骨格的な不正を指摘し、小児矯正やMFTの結果、改善された場合、抜歯や手術並みの効果が得られることもあります。
まとめ
- 筋肉の働きは、歯並びに大きな影響を与えます。
- MFTと矯正治療を組み合わせることで、より効果的な治療が期待できます。
- 鼻呼吸や骨格の問題も併せて考えることが、より良い結果を生む鍵です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
MFTや矯正について、個別にご相談がある場合は、かかりつけの歯科医院でご相談してください。
当院では、矯正相談での受診や、矯正相談会なども定期的に行っていますので、ご興味がある方はお気軽にお申し込みください。
お口ポカンの影響と直し方について
2024年6月21日
お口ポカンの影響と直し方について
こんにちは!岩国市のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 小児歯科専門医の吉村剛です。
今回はMFT(マイオファンクショナルセラピー:口腔筋機能訓練)の第4回で、一番よくある症状である口唇閉鎖、つまりお口ぽかんについてお話しします。
あなたはお口ポカン(口唇閉鎖不全)について、聞いたことがあるでしょうか?
口唇閉鎖不全とは、日常的に口が開いている状態を指します。
2021年の調査では、3歳から12歳の子どもの約30.7%がこの状態でした。
近年非常に増加していて、社会問題になっています。
口唇閉鎖不全は口呼吸につながりやすいですが、必ずしも口唇閉鎖不全、イコール、口呼吸を意味するわけではありません。
今回は、口唇閉鎖不全の原因と改善方法についてお話しします。
お口ポカンはなぜ悪い?
口唇閉鎖不全(お口ポカン)とは、日常的に口が開いている状態を指します。
これが口呼吸に繋がることがあります。
お口ポカンの原因
・鼻呼吸ができていない・・・鼻閉やアデノイド肥大などの原因がある場合。
・お口周囲の筋肉の発達が十分でない
・嚥下や発音、呼吸に関連する筋肉の発達が十分でない場合。
以上より、お口ポカンを改善するには、下記の対策をしていくことになります。
口唇閉鎖不全(お口ポカン)を改善するには
・鼻呼吸ができているか確認する。
・鼻閉やアデノイド肥大などがあれば、耳鼻科での治療を受ける。
・お口周囲の筋肉を鍛えるためのトレーニング(MFT:口腔筋機能訓練)を行う。
お口ポカンに対して何もしなければどうなる?
もしこの問題を放置すると、成長期にさまざまな領域に悪影響を与える可能性があります。
例えば、歯並びが悪くなったり、口呼吸になり集中力が維持できなくなったり、スポーツを行う時にその子の本来のポテンシャルが発揮できなくなったり、睡眠障害が起こる原因となります。
よって、早期の対応が大切です。
以上のような対策を講じることで、口唇閉鎖不全を改善し、健康な発育を促すことができます。
何かご不明点があれば、いつでもご相談ください。
まとめ
いかがでしたか?
1 口唇閉鎖不全(お口ぽかん)は小児の約30%に見られ、鼻閉や筋肉の弱さが原因で起こります。
2 鼻閉やアデノイド肥大が原因の場合は耳鼻科での治療が必要です。
3 筋機能トレーニング(MFT)で口唇閉鎖不全の改善が可能で、早期対応が重要です
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
MFT(口腔筋機能訓練)特集その3 お口の機能発達は10歳までが勝負!
2024年4月25日
MFT(口腔筋機能訓練)特集その3
お口の機能発達は10歳までが勝負!
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 小児歯科専門医の吉村です。
MFT(マイオ ファンクショナル セラピー:筋機能訓練)の第3回です。
今回は「筋機能訓練は何歳までに始めたら良いの?また、何歳までがリミットなの?」というテーマのお話です。
1)筋機能訓練(MFT)は10歳までに終えたい
保険診療の小児口腔機能発達不全症は、18歳未満が対象です。
が、実際は10歳までが勝負と言われています。
筋機能訓練を10歳までに行わないと、効果が激減してしまうワケ
人間の咀嚼、嚥下、発音、呼吸などの口腔機能は、成長発育期に日常生活の中で学習して自然に獲得するものです。
口腔機能にとっての成長発育期が、10歳までなんです。
5,6歳から取り組んで(遅くとも8歳から始めて)、10歳までに終わるのが理想です。
2)筋機能訓練(MFT)では、何を訓練で改善するの?
MFTで改善するのは、呼吸と嚥下(えんげ)の機能です。
歯並びを悪くする原因でもある「呼吸」「嚥下」のうち、ここでは「嚥下」に焦点をあてて解説しますね。
「嚥下」がうまくできない状態(摂食嚥下障害)では、どんなことがおこっているのでしょうか。
嚥下とは、食べる・飲み込むという一連の動作です。
食べ物が実際にある体の「場所」と、食べ物をどう処理するかの「体の働き」がうまく嚙み合っていないと、嚥下はうまくできません。
詳しく説明していきます。
咀嚼嚥下(そしゃくえんげ:かんで飲み込むこと)は2つのとらえ方があります。
2-1)食べ物がどこにあるかで分ける「相(そう)」
相は「口腔相」「咽頭相」「食道相」に分けられますが、これは食べ物が体のどこにあるか、という分け方です。
2-2)認識や筋肉の動きで分ける「期(き)」
期は神経目線の考え方です。
「認知期」「準備期」「口腔期」「咽頭期」「食道期」という流れです。
認知期・・・「食べよう」と思うことにより無意識に食べる心構えをする段階
準備期・・・噛む段階
口腔期・・・飲み込む直前の段階
咽頭期(いんとうき)、食道期・・・食べ物がその場所に来たときに、体が無意識に、オートマチックに動く段階
2-3)咀嚼嚥下障害は、相と期が上手くかみ合っていない状態で発生する
MFTの訓練は「期」の中でのそれぞれの改善点をトレーニングする方法とされています。
舌の位置、動き、持久力、可動域、機能
口唇の動き、閉鎖力、可動域、機能
舌や口唇が正しい機能を発揮しやすくする姿勢
など、多岐にわたり、様々なトレーニング方法があります。
3)機能は一度獲得出来たら、後戻りはしない
通常、人間は食事するとき、舌の位置とか深く考えずにほぼ無意識に行います。
ですが、「食べよう」「食べ物を口に入れよう」「噛もう」というのは、意識して行います。
この「意識する部分」の訓練を繰り返せば、神経筋機能が刺激、発達して改善できる。これがMFTを行う理論的根拠とされています。
また、習得するのは難しいのですが、習得したら無意識レベルまでいくので、後戻りはしないとされる根拠でもあります。
4)どうして10歳までに終えたいの?
この記事の冒頭で、筋機能訓練は5,6歳から開始して、10歳までには終えるのが理想的だとお伝えしました。
10歳ごろまでは
・乳歯が生える/抜ける、永久歯が生えるなど変化が大きい時期
・顎の成長や口腔のボリューム(容積)の変化が大きい時期
・神経機能が発達しやすい時期
ということもあり、体が「変化を受け入れやすい」「機能獲得に有利な時期」なのです。
特に、脳をはじめとした神経系の成長は、10歳前後までに成人の95.6%にまで達します。
この時期は、さまざまな神経回路が形成されます。
よって、神経系の働きを高めるような運動や動作を行うと、発達を促す効果が高いんです。
それ以上の年齢では改善しないわけではありません。
しかし、癖を治すのに強い意志が必要となり、発達もゆっくりとなるので、大きなストレスを感じる人も多いです。
5)MFTで歯並びが綺麗になるって本当!?
5-1)口腔の機能発達不全が歯並びを悪くする
口呼吸や低位舌(ていいぜつ)、舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)などの口腔機能の発達不全は、出っ歯や歯のガタガタ、受け口の原因になることが知られています。
そのため、歯列矯正と併用して行うケースも多いです。
矯正治療で歯並び治療をする時に、歯並びを悪くする癖があれば治療効果が低下します。
そして、せっかく歯並びを治療しても、歯並びを悪くする癖があれば、またすぐに歯並びは悪く戻ってしまうことも多いです。
5-2)MFTをすれば全員歯並びが良くなるわけではない
歯並びの悪さの原因が、何かによります。
口腔機能の発達不全が歯並びを悪くしている原因の場合、口腔機能が改善したら歯並びが良くなることもあります。
ただ、それは神経筋機構が改善した結果です。MFTによって、歯並びが直接改善するわけではありません。
年齢や歯並びや骨の状態によっては、MFTだけでは歯並びを改善できないこともあります。
その場合は、矯正治療との併用してMFTを行うことも多いです。
6)10歳までに機能獲得をするために、8歳までにMFTを始めたい
MFTは2年間くらいトレーニングを行います。
獲得しなければいけない機能不全が、どの程度かによって、期間は前後します。
10歳未満の方であれば、2年のMFT期間で、ほとんどの場合大幅な機能改善が期待できます。
MFT期間の目安は2年間ですが、
- ・症例の重度・軽度
- ・どのくらいご自宅でトレーニング時間を作れるか
- ・トレーニングのための通院頻度
などによっても必要とされる期間は変わります。
絶対に8歳までに始めなければいけない、ということではありません。
しかし、8歳くらいまでに始めると、「安心」ではあります。
7)まとめ
いかがでしたか?
- ・MFTの訓練は「期」の中でのそれぞれの改善点をトレーニングする方法とされ、様々なステップに分けられています。
- ・口腔機能をMFTによって習得するのは難しいのですが、習得したら一生抜けない技術です。
- ・ただし、受け入れやすい年齢は上限が決まっており(10歳)、その後では強い意志が必要となります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
インビザラインのアライナー(マウスピース)の交換頻度は「7日」が基本
2024年3月5日
インビザラインのアライナー(マウスピース)の交換頻度は「7日」が基本
~4日・5日・7日・10日のバリエーションと、その理由~
インビザライン(Invisalign)は、歯列矯正を行う際に用いられる透明なマウスピース型の装置です。
従来の矯正装置であるブラケットやワイヤーと比べて目立たず、日常生活に支障をきたしにくいという利点があります。
インビザライン矯正の特徴については、こちらの記事もぜひお読みください。
参考リンク:マウスピース型矯正とワイヤー矯正の違いとは?
参考リンク:インビザライン矯正の魅力 便宜抜歯を回避できる
アライナー(マウスピース)を使用した矯正治療は、患者さんにとって利便性が高いため、とても人気です。
アライナーを効果的に使用するためには、適切な頻度でアライナーを交換することが重要です。
今回は、インビザライン矯正に関する「よくある疑問」として、アライナーの交換頻度について解説します。
1)アライナー(マウスピース)の交換頻度の基本は7日
一般的に、アライナーの交換頻度は7日間を基準としています。
7日交換の場合、4日間使用して歯を動かし、その後3日間は装着したまま歯を安定させるための期間として機能します。このサイクルを繰り返すことで、徐々に歯並びを整えていきます。
2)加速装置を用いて4~5日交換にできることも!
矯正加速装置は、アライナーを使用する際に歯をより速く動かすための装置です。
症例によっては、この装置を用いて4~5日で交換できることもあります。
矯正加速装置は元はインプラントが顎骨と早く結合させるために開発された機械で、骨のリモデリング(吸収と再生)を特殊な光や振動で活性化させます。
この装置を用いて4日交換で40代の方の矯正治療ができたという症例報告もあります。
ただし、若年者と比べて、30代以上の方はやはり歯が動く速度が遅くなる傾向があり、当院では30歳以上の方にはあまりおススメしておりません。
*30歳以上の方でも、7日交換で使用していただくことは良くあります。
*4日交換できなくても、加速装置を用いることでアライナーの浮き上がりなどが減った結果、トータルの治療期間が短くなることは多いです。
3)症例によっては10日交換となることもある
症例によっては歯をゆっくりと動かした方が良い場合もあります。
そのような場合は、アライナーの交換頻度を10日間に1回に設定することもあります。
以下は、10日交換となる可能性が高い症例の特徴です。
3-1)大きな歯の移動が必要な場合
歯並びを大幅に変える必要がある場合、ゆっくりとした動きが歯を過度に負担から守る必要があることがあります。
3-2)歯の傾きや回転が多い場合
特に、歯肉退縮しやすい症例(前歯をわずかに唇側に拡大しなければならない症例など)で、歯の元の傾きが大きい場合はゆっくり歯を動かす必要があることがあります。
3-3)歯茎や歯槽骨の健康状態が悪い場合
歯茎や歯槽骨の状態が良くない場合、ゆっくりとした動きをすることで、歯を健康に保ちながら歯列を改善することがあります。
これはあくまで当院の話ではありますが、10代~30代の方で10日交換をすることはほぼありません。
4)それ以外に交換頻度が変わることはある?
インビザラインなどのアライナー矯正では、IPR(歯と歯の間をわずかにトリミングすること)を行うタイミングが決まっています。
また、アタッチメントという、歯と同じ色の装置を歯に接着して歯を動かすのですが、何枚目でこのアタッチメントを新たに付ける、というタイミングも最初から決まっています。
この「タイミング」は「アライナー●枚目に交換する前」というタイミングです。
*何枚目でIPRやアタッチメント装着するかは、症例により異なります。
ただ、そのタイミングきっちりに歯医者さんに受診できるかというと…
・通院できるのは土曜だけ
・平日は18時以降しか通院できない
となると、IPRやアタッチメント装着のタイミングの前でアライナー交換が出来ずに、結果として交換頻度が下がってしまうことがあります。
ただ、アライナー矯正は始めた日から全日程が決まっている治療でもあります。
数回先の予定を確認して、複数回の予約をとったり、受診予定日のスケジュール管理をしっかりすることで、7日交換を維持することが出来ます。
IPRの頻度が多い症例の場合、こうした「受診スケジュールの管理」が治療期間を大きく左右することもあるんです。
アライナー矯正は「スケジュール管理」で結果的に治療期間を短くすることができるんです。
5)まとめ
いかがでしたか?
・アライナーの交換頻度は7日が基本です。
・加速装置を用いることで4~5日交換に出来ることもあります。
・症例によっては10日交換となることもあります。
・スケジュール管理をしっかり行うことで、矯正治療を早く終えることができます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
インビザライン矯正のよくある「後悔」と、そのリカバー法
2024年2月20日
インビザライン矯正のよくある「後悔」と、そのリカバー法
こんにちは、岩国のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井です。
今日は「インビザライン矯正をやってみて後悔したこと」をご紹介しようと思います。
よくある後悔と、それに対する対策もありますから、ぜひ最後までお読みくださいね!
1)インビザライン(Invisalign)矯正の特徴
透明なプラスチック製のマウスピース(アライナー)を使って歯並びを調整する方法です。
従来の矯正治療と異なり、歯に金属のワイヤーや複雑な形態の装置が付かない、
食事と歯磨きの際はマウスピースを外せることが特徴です。
インビザラインの利点(長所)
・治療中の見た目が良い
・矯正していることを気づかれないことも多い
・装置が外れたなどで急患受診しなければいけないことが少ない
・マウスピースを外して歯磨きできるので、衛生的
・マウスピースを外して食事ができるので、食事制限が無い
・奥歯を動かすので、抜歯を回避できることも多い
マウスピース矯正とワイヤー矯正の違いについては
こちらでも解説しています。
マウスピース型矯正とワイヤー矯正の違いとは?
ぜひお読みくださいね✨
しかし、インビザラインがすべての面でワイヤー矯正より優れているというわけではありません。
マウスピース矯正特有の、課題・短所もあります。
以下では、よくある後悔について詳しく説明します。
2)インビザライン矯正の「よくある後悔」
2-1) マウスピースの使用時間が長い
インビザライン矯正において、マウスピースの使用時間は「1日20~22時間」。
使用時間が長いというより、食事と歯磨き中だけ外せるって感じです。
使っていない時間は、歯が動かない時間ではなく「歯が後戻りする時間」です。
それもそのはず、従来のワイヤー矯正は「そもそも自分では外せない」のですから、
外せない、装置が付いている状態が「矯正中の標準の状態」なんです。
それを「食事中と歯磨き中だけは外せるようになった、画期的な矯正法」がインビザラインです。
食事中と歯磨きの時に外せる=「装置が取れにくい」「食事制限が無い」「歯磨きがしやすい」
ですから、矯正中の不快感は非常に少なくなりますし、
装置が外れたことによって急患来院しなくてはいけない回数もかなり減らすことができました。
一方で「装置をサボることが出来てしまう」という欠点も生まれました。
「寝る時だけつけてれば良いんでしょ?」
「1日の半分以上使っていれば十分長い時間頑張ってると思う」
みたいな感じで使ってしまうと、歯は動きません。
インビザラインのよくある失敗談に「装着時間が足りない」というパターンがあります。
お仕事でお料理の味見や、会食の機会が多い方に、この失敗パターンが多い印象があります。
当院でも、料理人の方にはワイヤー矯正の方をおススメしたりしています。
★対処方法
・お仕事で味見などが多い職種の場合は、最初からワイヤー矯正にする。
・外食や会食の機会が多い場合も、何時間もだらだら食事せずに、出来る範囲で食べる時間をコンパクトにする。
・矯正加速装置を併用することで、治療期間そのものを短くする。
★矯正加速装置とは?
歯に振動や光を与えることで、歯の周囲の骨のリモデリング(骨の吸収と再生)を活発化させる装置です。
元はインプラントが骨に結合するのを加速させる目的で開発されました。
若年者の場合は、7日交換のマウスピースを、4日交換にできるほど、矯正が加速されます。
この装置を使えば、1日のマウスピースの使用時間が短くなるわけではありません。
しかし、治療期間を短くすることができますから、「この期間だけは頑張ろう」と予定を立てやすくなります。
2-2) 前歯が思うほど下がらなかった
インビザライン矯正は、前歯を傾斜移動させることで歯並びを整えるため、前歯を後ろに引っ込める量には限界があります。
とはいえ、4㎜程度(条件があえばもっと)は前歯を下げることが可能です。
また、下顎のかみ合わせを前に動かすことで、上下の前歯の差を減らすことで、7~8㎜前歯が引っ込んだように見えます。
ただ、それでもワイヤー矯正よりは歯の移動の自由度が低いというのも事実です。
ですから、インビザライン矯正を行う場合は事前に前歯を引っ込める量をシュミレーションで確認していただいてから、治療を開始することとなります。
当院でもシミュレーションを見た上で「もっと、前歯が下がりませんか?」とおっしゃる患者さんには、便宜抜歯(矯正治療のために歯を抜く)をしたり、より自由度が高いワイヤー矯正に切り替えたりして、患者さんが最終的に目指したいゴールへ到達できる治療方法を選択していただいています。
しかし、PCでシミュレーションを見たときは「こんなに前歯が引っ込むなんて、素敵!」と思ったのに、いざ、治療が進むと「もうちょっと前歯を下げたかった」と後悔してしまう方も稀にいます。
「シュミレーションを見たときは、このくらい治るなら、見た目の悪いワイヤー矯正より目立たないマウスピースが良いと思ったけれど、やっぱり、もっと前歯が下がるプランにしておけばよかった」
せっかく頑張ってきたのだから、後悔は無いようにしたいですよね。
大丈夫です。
対処方法はありますので安心してください。
★対処方法
・ワイヤー矯正(便宜抜歯あり)に切り替える
当院ではこうした場合、目指したいゴール(前歯をどれだけ下げたいか、など)について改めて相談の場を設け、ご希望があれば便宜抜歯(横の歯を間引いく)ありのワイヤー矯正への切り替えをさせていただいております。
3)まとめ
いかがでしたか?
インビザラインは沢山の長所がありますが、
・マウスピース装着時間が長い(20~22時間)こと
・前歯を引っ込めることができる量が、ワイヤー矯正と比べると小さい
という側面があります。
十分な説明やシミュレーションを見て検討した上で治療開始しても
「もっと●●なハズだった」という後悔してしまうことも、無いとは言い切れません。
最初から後悔が無い選択をすることが最も大事ではありますが、
もし「思っていたのと違う」と感じた場合は、当院ではワイヤー矯正への切り替えをおススメしています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
MFT 筋肉量を増やして小児口腔機能発達不全症を治そう
2024年1月25日
MFT特集その1
筋肉量を増やして小児口腔機能発達不全症を治そう
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。
今回から、歯科界でこの数年話題の、MFT(マイオ ファンクショナル セラピー:口腔筋機能訓練)について、何回かで解説していこうと思います。
MFTをお子さんの歯並びや口呼吸を改善するためのトレーニングとして、歯科医院で説明を受けたことがあるという人もおられるかもしれません。
また、ここ2~3年は、MFTをお子さんだけでなく、高齢の方や睡眠障害のある方にもオススメしている歯科医院も少しずつ増えてきています。
MFTとは「お口の筋トレ」
全身においても筋力量の維持は、健康のために大変重要と考えられています。
一定以上の筋肉が存在することが骨、内臓、その他血液を含め、肉体を守る鎧となるんです。
口腔も同じで、筋肉量があることや、筋肉を正しく動かすこと(口腔の機能を獲得すること)が重要と言われています。
サルコペニアとフレイル(高齢者の筋肉量減少による機能低下)
高齢者において、筋肉量が減り身体機能が低下した状態をサルコペニアと言います。
サルコペニアが進行して、要介護一歩手前になってしまった状態がフレイル(虚弱状態)です。
このフレイルは、要介護状態の前段階ではあるものの、「トレーニングによって回復可能な状態」とされています。
フレイルの状態がさらに進行してしまうと・・・
・身体の維持が難しくなる
・歩行困難になる
・寝たきり
・食べ物が嚥下できない
といった「要介護状態」になってしまうんですね。
では、「トレーニングによって回復可能な状態」であるフレイルの初発症状はどこにでるでしょうか?
フレイルの初発症状は口に出る「オーラルフレイル」
高齢になって筋肉量が衰えてくると、口腔機能低下症(オーラルフレイル)といって、もともと持っていた口の機能を十分に使うことが出来なくなってしまう状態になることが多いです。
そして、この「オーラルフレイル(口の虚弱状態)」は「全身のフレイル(虚弱状態)」に先駆けて現れることが多いです。
高齢者の口腔機能低下については、こちらの記事で解説していますので、ぜひお読みくださいね。
参考リンク:老いは口から始まる。歯医者が教える要介護にならないためのポイント!
オーラルフレイルの最初の症状
・滑舌が悪くなる
・食べこぼしやわずかなむせがでやすい
・噛めない食品の増加する
この3つは口腔顔面の筋機能に問題がある幼児の、食生活での問題点と完全に一致します。
子どもの発音、嚥下機能の発達がうまくいっていない状態を「小児口腔機能発達不全症」と言います。
小児口腔機能発達不全症と
口腔機能低下症
高齢者が、若いころはもっていた口腔機能が低下した状態が「口腔機能低下症」で
小児が、本来もつべき口腔機能を獲得できていない状態が「小児口腔発達不全症」です。
この2つは、対になる概念です。
乳幼児期・学齢期に口腔機能の獲得をしっかりできていれば、高齢になってからのフレイルはゆるやかに始まります。
一方で、小児期に十分な口腔機能を獲得できなかった場合は、フレイルがより若い段階で、急激に始まります。
逆に言えば、小児期に筋機能をしっかり獲得しておけば、発音や嚥下の問題点はあらかた解消します。
そしてその後も筋力量をある程度維持できれば、老年期のお口の衰えも予防することができる、ということを意味しています。
高齢になってからのオーラルフレイルが進行するとどうなる?
・嚥下が難しくなる。とろみ食や介護食でないと食べられなくなる。
・誤嚥しやすくなる。
・誤嚥のため、誤嚥性肺炎を起こしやすくなる
・食の問題からタンパク質が不足し、全身のフレイルへと進行する
高齢期のオーラルフレイルを、子供のうちからしっかりと予防したいですね。
口腔機能の獲得をしやすい年齢は10歳まで
お口の機能と筋力量の獲得を目的として行うトレーニングがMFTです。
口腔機能の獲得は、10歳以降はなかなか難易度が高いという特徴があります。
もちろん、何歳からはじめても意味はあるのですが、できれば効果が高い10歳までに獲得しておきたいものです。
当院でも小児口腔機能発達不全症のスクリーニング(保険適応)や、ご自宅で今日からできるトレーニング、口腔機能を伸ばす遊びの指導や、習い事としてのMFTスクールなども行っております。
気になる方は、一度ご相談ください。
まとめ
いかがでしたか?
・MFTとはマイオ ファンクショナル セラピーの略で、口腔機能訓練でお口に関する筋のトレーニングを意味します。
・口腔の機能と筋肉量をつけることができれば、嚥下・発音などの問題点を解消できるようになります。
・小児の口腔機能発達不全症を治療できなかった場合、高齢期にフレイルになりやすくなります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!