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歯科医院のお仕事 ~医療事務編~

2025年3月5日

こんにちは、岩国の医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井です。

今回は歯科医院のお仕事シリーズの第3弾、「医療事務」編です!

医療事務スタッフの仕事内容や、どんな人がなるのか、どういう人に向いた仕事なのかなどについて、ご紹介していきます。

 

過去のお仕事シリーズはこちら

歯科医師と歯科衛生士の業務範囲って、どうちがうの?

https://tsuboidental.com/blogs/archives/6895

歯科助手のお仕事とその魅力~コンプライアンスを守って、安心安全な医療を。
~患者さんへも自分たちにも〜

https://tsuboidental.com/blogs/archives/6922

はじめに

現代の歯科医院では、チーム医療が重要視され、多職種が協力しながら業務を遂行しています。

それにより、それぞれの専門職が自身のスキルを最大限に活かしながら、質の高い医療を提供することが可能になります。

ここでは、歯科以外の病院医療事務まで範囲を広げず、歯科医院での医療事務というテーマでお話しします。

医療事務風の女性

1 医療事務の仕事内容

一般的には、医療事務は歯科保険制度や保険請求に関する専門知識を持ち、歯科医師をサポートする役割を担っています。

医療事務には国家資格がないので、業務内容に明確な定義はありません。

そのため、業務内容や求められるスキルも、各病院・診療所によって、同じではありません。

ある医院では、一般事務と区別する目的で、受付担当者を医療事務と呼んでいたり、

またあるクリニックでは、保険算定に関する専門家的な位置づけで、ドクターや院内の保険診療に係る人に注意やアドバイスを行っている人を医療事務と定義していることもあります。

受付業務をしている女性スタッフと、スタッフにレクチャーしている医療事務

 

保険のルールのおおまかな流れ

日本の医療保険の流れは、ざっくり言うと次のとおりです。

保険のルールに従って算定を行った場合

o 治療当日、患者さん本人から負担割合分の費用を窓口で支払ってもらう

o 約2ヶ月後に、残り7割から10割の金額を、各保険者(国保や支払基金など)が医療機関に振り込む

 

3割負担の人の場合

 

 

保険のルールに従った算定ができない場合(算定に誤りがある場合や保険証番号が違う場合など)

o 保険者から支払いを拒否される

o 結果として、歯科医院でかかった材料代や人件費、技工代が赤字になる可能性がある

とても難解な日本の保険制度

日本の歯科保険制度は「療養担当規則(りょうようたんとうきそく)」に従って運用されています。

しかし、この規則を読むだけでは、具体的にどのように保険算定を行うのか、歯科医師でも理解が難しいです。

例えば、歯周ポケットが4mm未満の患者さんに対しての歯周病治療は以下のようなことを行います。

• お口の状態を確認する

• 歯ぐきが悪くなっていないかを検査する

• バイオフィルムを除去する

• 歯石がついていないか検査する

• 必要に応じて歯石を除去する

これらは一般的に「歯周病の重症化予防治療」と呼ばれます。

この治療は、療養担当規則ではどのように記載されているのでしょうか?

療養担当規則の抜粋

「歯科点数表の解釈」より

 

な、長ぁい!!!

 

実際には2ページにわたって、保険算定可能な条件や、費用請求はどうするかなどが、詳細に文章で説明されています。

療養担当規則

「わ、わかりにくい!」

 

多くの歯科学生が国家資格を取得して歯科医師になった後、保険診療を行うために教本を読んで、最初に抱く感想です。

保険のルールは4年ごとに大きな改定があるので、常に最新の情報が必要

保険のルールは4年に1回、とても大きな変更があり、小さな変更はもっと短いスパンでも行われることがあります。

新しいルールに対応していかなければ、保険者(国保連合や支払基金)からの支払いを拒否されて、治療しても7割から10割の金額が医院に支払われない結果になります。

医療事務は歯科医師の時間を作り、治療精度の向上や、患者さんの待ち時間の短縮にも貢献している

歯科医師は、診療と患者さんへの対応、日々進化する歯科診療技術を学ぶことでかなり忙しいです。

さらに院長になると、経営の勉強、仕入れや取引先の工夫によるコスト削減、スタッフ教育、求人採用、ホームページなどの広報活動、新メニューの開発、歯科医師会等の出務も加わり、激務になります。

激務で集中して仕事ができない歯科医師

 

医療事務は、保険請求業務をサポートし、歯科医師の保険請求における指南役を務めながら、請求に誤りがないかをチェックする役割も担っています。
正しい保険算定をサポートし、歯科医師の時間を作る重要な仕事です。

 

当院では、歯科医師がカルテ入力を行った後、医療事務がチェックを行い、ミスがあれば指摘・修正を求める体制をとっています。
この仕組みにより、歯科医師は1日により多くの患者さんの診療ができたり、患者さんごとの治療計画をきちんと立案する時間が取れるようになります。

 

落ち着いて精度の高い仕事ができている歯科医師

また、医療事務がカルテの代行入力を行う場合もあります。

歯科医師は治療後、レセプトコンピュータですみやかにカルテ入力を行います。

歯科医師でなければできない仕事に集中したい場合などは、医療事務がチームメンバーとして代行入力します。

歯科医師は、代行入力された内容を、会計前に確認して承認/修正し、カルテを会計に回します。

これによりカルテ入力時間を短縮し、患者さんの会計待ちの時間を短縮することができます。

 

歯科医院によっては、受付・歯科助手・歯科衛生士がこうした医療事務業務を兼任していることも多いです。

当院は、受付・歯科助手・歯科衛生士も自分の専門特化した領域を優先的に磨いて欲しいという思いから、医療事務業務は専任スタッフが担当しています。

2.医療事務の具体的業務内容

医療事務の業務はカルテ・レセプト作業を中心に多岐にわたります。

 

 

・日常診療のカルテのチェック(不備がないかの確認)とドクターへの申し送り

・レセプト業務(保険診療の請求業務)

・返戻業務(保険請求を拒否されたもの修正して再請求したり、ミスに気づいて自発的に取り下げてから修正再請求を行う業務のこと)

・自治体への検診料請求(妊婦検診・成人歯科検診など)

・ドクターが作成した紹介状の管理や投函

・お薬手帳や紹介状、検査値用紙のスキャン・管理

・レセプトコンピュータのメーカーとの連携

歯科医院内で唯一と言ってもよいかもしれない「ホワイトカラー職」ですが、その業務は専門性が高く、覚えるべき内容も非常に多いです。

歯科医療事務必携の書!4冊で2700ページほどあります。

3.どんな人が医療事務になる?

夢を抱いている医療事務の女性

医療事務には国家資格がないため、誰でも挑戦できる職種です。

しかし、歯科助手や受付から転身するケースが多いのが実情です。

歯科治療の流れを理解していないと、規則や教本を読んでも実務で活かしにくいためです。

逆に、歯科治療の理解が深い場合、リモートワークで就労可能な業務です。

実際、当院の医療事務メンバーのうちの1人に、育休後、リモートワークで復帰した女性歯科医師もいます。

ご自宅で幼いお子さまとの時間を大事にしながら、歯科の専門性を生かして、フルリモートで活躍しています。

(当院では患者情報の保護を徹底しながら、リモートでレセコンを操作できる設備を導入しています。)

リモートで稼働している専用レセプトコンピュータ

4.医療事務に向いている人はどんなタイプ?

・コツコツとした作業が得意な人

・ミスなく、スピードを意識できる人
(作業がゆっくりな人は、毎日残業になるか、残して帰ると雪だるまのように増えていき、月末に大変な思いをすることになります。)

・分からないことは、ある程度自分で調べて仕事を進めることができる人

・責任感が強い人(自分の責任範囲を完遂できる人)

・覚えることが多い仕事に忌避感がない人

医療事務がパソコン入力を行っている様子

5.保険のルールをどうやって覚える?

歯科医師は、診療をしながら「この処置はどう入力するのか?」と先輩に確認し、赤本(あんちょこ本)を参考にしながら学んでいきます。
研修医1年を終える頃には、基本的な入力ができるようになりますが、知識を深めるためには継続的な学習が必要です。

ほとんどの歯科医師は保険請求のWEBセミナーを受講したり、分からないことがあれば調べてくれる相手を確保したりして対応しています(歯科医師会にも、そうした役割を担当されている先生がいます)。

医療事務スタッフは、民間の保険請求セミナーやオンライン講座を活用して学ぶことが一般的です。

一度知識を得ても、それだけでは勉強は終わりません。

療養担当規則は毎年改正されます。

また、4年に1度は保険の大改正があるため、改正のたびに何がどう変わったのか、追いかけ続けなくてはなりません。

改正の度に説明会が歯科医師会/保険医協会/民間セミナーとあちこちで開催されるため、院長と手分けして改正内容を把握していく必要があります。

覚えることは大変多いですが、それこそが専門性が高い業務の証です。

当院の場合、院内の医療事務メンバーの他に、ニチイ学館のレセプトチェックサービスに1か月分まとめてダブルチェックもしてもらっています。

レセプトチェック業務は、50~60代の人がフリーランスで活躍しているケースも多いです。

国家資格はないものの、専門性が非常に高いゆえに、極めれば独立もできる、そんな夢のあるお仕事です。

まとめ

いかがでしたか?

・医療事務は、歯科医師やスタッフと連携しながら、歯科医院の運営を支える重要な職種です。

・医療事務は保険請求を正しく行う門番であり、スタッフへの指南役でもあります。

・保険請求に関する深い知識がある場合は、フルリモートワークも可能な職種です。

・いきなり医療事務になるよりも、歯科助手や歯科受付などを経て転身する人が多いです。

・医療事務は覚えることは非常に多いですし、納期を守ることが重要な仕事でもあります。

・専門性が高いため、極めればフリーランスとして独立もできる、夢のある仕事です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

CRの材料学とMI(ミニマルインターベンション)について

2025年3月3日

詰め物を歯にひっつける「接着」と、なるべく削らない歯科治療:MI(ミニマルインターベンション)

こんにちは、岩国のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 歯科医師の吉村剛です。

ここ20年~30年で日本の歯科材料は大きく発展しました。

今回から、歯科材料に焦点を当てて、お話していきます。

1)接着技術が登場する前の虫歯治療

大昔、歯にくっつく材料はないとされていました。

その時代は、金箔などを詰めていくのが最良の治療法とされていました。

その後、精密な印象(型取)をとれる技術が確立し、それを石膏に置き換え、そこで蝋(ろう)で形を作り、金や銀の合金で歯に詰める技術が確立しました。

それが、いわゆる銀歯です。

その頃の詰めやすい・外れにくい形を分類してまとめたのが、アメリカの歯科医師G.V.ブラック(グリーン・バーディマン・ブラック)が1884年に提唱した、虫歯治療における窩洞(かどう)の分類と形成の原則、ブラックの窩洞という分類です。

歯につめものを引っ付ける(接着)技術が発展した今となっては、ブラックの窩洞は「削りすぎ」と言われるようになりました。
しかし、接着技術が発展する前(ほんの20~30年前まで)は、削る量を最小にする方法とされていました。

僕が歯科医師になった20年ほど前は、リン酸亜鉛セメントなどで、歯と詰め物被せ物っをくっつけていました。

この『くっつけて』は、実は「接着」ではありません。

接着と区別して「合着」と言われています。

リン酸亜鉛セメントは、薄く固まる性質があります。

隙間を埋めて、機械的嵌合力(異なる材料や部品が物理的に結合する力)を発揮させていました。

2)接着技術の登場

1990年代からのプライマー、ボンディングの進化とレジンの発達により、材料と歯を科学的に引っ付けることができるようになりました。

「接着」の登場です。

たとえるならば、

・「合着」は木工用ボンド

・「接着」はアロンアルフアのような瞬間接着剤

みたいなものです。

3)歯科の「接着」の仕組み

では、「接着」は、どうして大きな力で歯と引っ付くことができるようになったのでしょうか?

歯の少し内側の構造(象牙質)は、コラーゲン繊維とカルシウム(正確には、ハイドロキシアパタイト)で出来ています。

歯の内部構造の図

詰め物を入れるために歯を削った後、削った部分の表面を酸処理すると、象牙質のカルシウムが溶けてコラーゲンの繊維がむき出しになります。

削った面にコラーゲン繊維が絨毯のようにフサフサと広がっているところに、前処理剤(プライマー)を流し込み、コラーゲン繊維と樹脂が混ざり合った層を作ります。

この、樹脂を含んだコラーゲン繊維の層が間に入ることで、材料が歯と科学的に「接着」するのです。

そうは言っても、歯に詰め物や被せ物をくっつけても、外れてしまったということを経験されたり、見聞きされた経験がある、という方もいらっしゃるかもしれません。

次に、接着したのに外れてしまう原因についてもご説明します。

4)接着したのに詰め物が外れてしまう原因

4-1)詰め物や歯が割れた/歯と詰め物の間に虫歯が出来た

レジンは圧縮には強いのですが、引っ張る力に弱い特徴があります。

よって、噛む力のかかり方によっては、歯とレジンの境目などに大きな力がかかってしまい、詰め物や歯が割れてしまうことがあります。

また、目に見えない小さなヒビが原因で虫歯になってしまうこともあります。

この場合はいくら接着がしっかりできていても、詰め物は外れてしまいます。

その他にも、残っている歯の質が少なすぎて、外れてしまうケースもあります。

そのような場合の解決法として、歯の土台や、詰め物のデザインを変更することで、外れにくくできることがあります。

4-2)接着強度が不足した

基本的に、大手歯科材料メーカーの接着セメント(歯科用の糊)は非常に強度があります。
しかし、選ぶ詰め物によっては、接着強度が出にくいものがあります。

代表的なものが保険の被せ物のPEEK冠です。

これは接着が非常に難しい材料で、丁寧に接着しても、他の素材の被せ物と比較すると接着強度が低くなってしまう傾向があります。

対策として、土台の形の工夫で取れにくくする、PEEK冠専用の接着セメントを用いるなどを行います。

PEEK冠

4-3)接着を阻害する因子があった場合

接着を阻害する因子は、何だと思われますか?

答えは、「水」と「空気」です。

歯科用の接着剤は、人体に反応する水溶性の部分(水に溶ける性質の部分)と、樹脂と反応する脂溶性の部分(油に溶ける性質の部分)を持っています。

ボンディング材はアルコールの配合量などで、厳密に水溶性と脂溶性の配合割合を調整しています。

唾液や呼気の水分などにより、水分比率などが少しでもおかしくなると、接着力が下がってしまいます。

そして、空気は樹脂の「硬化阻害因子」であり、しっかり固まるのを邪魔してしまいます。
歯科用接着性セメントを使用する場合は、当院では「オキシガード」という空気を遮断するジェルを使うなどして、接着力をUPさせるようにしています。

*スーパーボンドと言う、空気が接着阻害因子にならない歯科用セメントも存在します。

4-4)TCH(歯牙接触癖)や歯ぎしりなどの、詰め物が取れやすい習慣がある

どれほど接着力が強力でも、それを上回る強い外力が日常的にかかってしまうと、外れてしまうことはあります。

実際の臨床では、これが最も多いかもしれません。

このようなケースでは、接着の力も借りつつ、伝統的なブラックの窩洞で詰め物を作る場合もあります。

5)接着がもたらしたMI(ミニマムインターベーション)歯科

接着剤の進化によって、歯と詰め物・被せ物を、直接くっつけることができるようになり、歯の削り方が変わりました。

より歯を削る量を少なくすることができるようになりました。

それがミニマムインターベンション(最小の侵襲・できるだけ歯を削らない治療)といわれる概念です。

1884年に提唱されたブラックの窩洞は、合着セメントしか世の中にない前提で、取れないようにするための削り方が必要でした。

しかし今は、接着の力を借りて、「取れない削り方」をする必要性が小さくなったためです。

接着と合着の対比図

接着と合着の対比についての概念図

6)技術革新が推し進める歯科治療の未来

歯科の進歩や流れは、材料の特徴や進化が大きく影響しています。

これはスマートフォンの普及・進化や、AIの進化とともに、私たちのライフスタイルそのものが変化していくことと、よく似ています。

技術の進化により概念が変わってきています。

今回は詰め物・被せ物を歯にひっつける接着性セメントのお話でした。

詰め物・被せ物の材料なども、ここ10年で新しいものがどんどん登場してきました。

もちろん、いわゆる保険の銀歯(金銀パラジウム合金)や、最古の歯科材料である金も、まだまだ現役です。

歯科医院に行くと、いろいろ説明されるけれど、あまりピンと来ないという方も多い、「歯科の材料学」。

次回は接着性とについてと、現在よく使われる材料の材料学などを、深掘りしてお話していく予定です。
ぜひご覧ください。

7)まとめ

いかがでしたか?

・昔は歯に接着する材料がなく、機械的嵌合力で詰め物を歯に付けていました。

・歯のコラーゲンと樹脂を含有する層が作れるようになったボンディング剤の進化により、歯と詰め物が科学的に「接着」できるようになりました。
ここ30年ぐらいの歯科材料の進化です。

・材料の進化に伴い、最小の侵襲で歯科治療するというミニマムインターベンションが可能になりました。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!

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