歯の怪我:外傷歯の治療について(シリーズ1)
2022年8月26日
歯の怪我:外傷歯の治療について(シリーズ1)
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。
歯の怪我(外傷)…どんなイメージを持っていますか?
怪我はある日突然、起こります。
当院では小中学校が近いこともあり、「急に歯や口を怪我してしまった!」と受診されるケースも多いです。
歯の外傷にもいろいろなパターンがあり、一度にすべては書けません。
そこで外傷シリーズとして、よくある歯の外傷のパターンを解説させていただこうと思います。
歯の外傷の種類
1-1)歯が割れた
・軽度の歯冠破折(しかんはせつ:歯の表面が欠けた)
ほんの少し欠けただけなら、様子見することもありますし
歯科用プラスチックで欠けたところを埋めることもあります。
・歯冠破折(しかんはせつ:歯が欠けた~割れた)
神経が出てしまうほどの割れ方をしてしまった場合は、根っこの治療をします。
・歯根破折(しこんはせつ:歯の根っこが割れた)
歯の根っこが割れてしまうと、残念ながら抜歯するしかないこともあります。
1-2)歯がぐらぐらする・抜けた
・歯の亜脱臼(あだっきゅう:軽い打撲のような状態)
歯を打ってしまったけれど、様子見で大丈夫な状態です。
・歯の脱臼(強い打撲のような状態~歯が抜けかけた状態)
歯を打って、ぐらぐらしてしまっている状態です。
歯が植わっている歯槽骨(しそうこつ)にダメージを受けています。
従って、動揺している歯では固定が必要です。
ワイヤーで添え木を行って固定します。
それでも歯の神経や血管がダメージを受けており、後で歯の変色が起きる場合も。
変色が起きたら根の治療が必要となる場合が多いです。
・歯の嵌入(かんにゅう:歯が歯茎にめり込んでしまった)
大人ではほぼ起きません。子どもの外傷でよく見られます。
子どもであっても、嵌入(かんにゅう)した歯が永久歯の場合は、とても予後が悪いです。
乳歯の場合は、ふたたび生えてくることを期待して様子見することが多いです。
・歯の脱落(歯が抜けた)
再植(さいしょく:抜けた歯をもとの歯茎に戻すこと)が可能な場合もあります。
歯の保護液(学校の保健室にあることがあります)や、牛乳、お口の中(唾液)に漬けた状態でなるべく早く歯科医院に受診してください。
抜けた歯を水道水で洗ってしまうと、歯の根っこの表面の細胞が死んでしまうことで、歯を戻せなくなってしまいます。
歯の外傷の予後と考え方(文化や国などによる)の違い
歯の予後について
生えたばかりの歯の怪我は、乳歯でも永久歯でも、予後はあまりよくありません。
生えかけの歯の根の先は未完成で、「歯になっていく組織」がそこに存在しています。
歯になっていく組織は出血しやすく、多めに出血すればその歯の予後は悪化しやすい傾向にあります。
小さなお子さんの怪我は突然起こってします。
怪我をしたら、治療は待ったなしです。
まずトレーニングして、歯科医院に慣れてから歯科治療する、といったことはできません。
お子さんが号泣する中、出血を伴う治療をがんばってもらうしかないケースも、少なくありません。
予後に対する国ごとの考え方の違い
契約社会のアメリカでは、予後が不安定な乳歯では、抜歯となることが多いようです。
一方日本では、なるべく残す方向で、まず考えてみることが多いです。
医学的にはどちらも間違っていない判断だと思います。
次に、低年齢のお子さんの怪我のよくパターンについて、お話していきます。
1~2歳児の歯の外傷の代表的パターン:歯の嵌入(かんにゅう)
Aくんは、1歳半の男の子。
まだ歩きは覚束なく、公園で遊具に顔から激突してしまいました。
上唇と上の前歯の歯茎から出血があり、生えたばかりの乳前歯が2本、歯茎にめり込んでしまいました。
この年齢の外傷の、かなり代表的なパターンです。
歯が歯茎にめり込んだ状態(陥入:かんにゅう)は、その歯の周囲骨の広い範囲に骨折が起きている状態です。
永久歯の嵌入(かんにゅう)
永久歯では、上にも書きましたが、最も予後が悪いとされています。
永久歯の治療は、めり込んでいる歯を定位置まで引っ張り出し、歯の根の治療をして、歯の定着を待ちます。
乳歯の嵌入(Aくんのケース)
乳歯では少し状況が異なります。
幼児の骨は柔らかく、生えた直後ぐらいの歯であれば、80%くらいの歯が、自然に生え直してくるようです。
ただし、生え直してきた歯にも、なんらかの症状がみられることが多いです。
50%くらいは、無症状か、神経の部分が歯の質に置き換わってしまう歯髄狭窄(しずいきょうさく)という状態(治癒の1パターンとも考えられます)になります。
残りの50%くらいは、根っこの治療が必要となります。
乳歯の場合は、めり込むぐらい骨にダメージがあった割には、良い治り方をすることが多いんですね。
まとめ
・動揺している歯では、歯の周囲の歯槽骨にダメージがあります。
治療は、ワイヤーで添え木を行って固定します。
それでも歯髄につながる神経、血管がダメージを受けて、後日歯の変色が起きる場合があります。
その場合、根の治療が必要になります。
・小さなお子さんの場合、けがは突然起こります。
出血や根の完成度により予後は異なります。
日本ではなるべく残す努力をしますが、海外では不安を残さないため抜歯をすることもあります。
文化や国により考え方が異なります。
・歯の陥入(かんにゅう・めりこむこと)は広範囲に歯槽骨の骨折が起きています。
永久歯では最も予後が悪いとされています。
乳歯では少し状況が異なり、再萌出(さいほうしゅつ・また生えてくること)する場合があります。
歯の外傷は、年齢、歯の受傷具合で方針が大きく異なります。
早く治療することで、その後の予後が変わることもあります。
まずはお電話で、できるだけ早くご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。