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MFT特集 その11 リハビリの考え方でアプローチするMFTの実践方法

2025年1月21日

MFT特集 その11 リハビリの考え方でアプローチするMFTの実践方法

こんにちは、つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 小児歯科専門医の吉村です。

今回はMFT特集その11 MFTの実際とその考え方をまとめです。

MFT(筋機能療法)や、小児口腔機能発達不全症について詳しく知りたい方は、ぜひ過去の記事もご覧ください。

MTF特集1~10はこちら(クリックすると、ページに移動します)

1.MFTはリハビリの考え方と似ている

リハビリでは、体の機能がうまく働かなくなったとき、ただ障害された部分を治すだけではなく、他の部分を使って障害された機能を補うことを考えます。

たとえば、私自身の話ですが、よく背中が痛くなることがありました。

症状ケース1

  • ・症状 背中が痛い
  • ・原因 軽度ヘルニア+姿勢や背中の筋肉と腹筋のバランスが悪い
  • ・トレーニング 首の牽引、懸垂運動、背中の筋を意識しながらの運動、腹筋運動などのリハビリ

このように、具体的な動き(トレーニング)を通して体を改善していくのがリハビリの基本です。

リハビリは英語でrehabilitationと言います。

Re(再び)+ habilitate(適応させる、能力を与える)+ion(~すること)で、元は持っていた機能を回復させること、という意味です。

一方でMFTは「ハビリテーションhabilitation」、まだ獲得されていない機能を新たに習得させます。

MFTとリハビリの対比

元あった機能か、まだ獲得されていない機能かの違いで、トレーニングの基本的な考え方は似ているんです。

2.滑舌の問題もリハビリと同じアプローチで

実は、滑舌の問題もリハビリと似た考え方で改善できます。たとえば、「カ行がうまく言えない」という悩みはよくあります。

症状ケース2

  • ・症状 カ行の発音が難しい
  • ・原因 舌の奥を持ち上げる力が弱い
  • ・トレーニング MFT:口腔筋機能療法(舌挙上トレーニング)

トレーニング例

  • ・霧吹きで水を口に含ませて飲み込む練習(サッキングスワロー)

    口を開けたまま水を飲むことで、舌の奥を使う感覚を身につけます。最初はむせてしまうこともありますが、少しずつ慣れていきます。

  • ・ガムを口の中で動かして、上あごに押し広げる練習

    ガムを使うことで、楽しく舌を動かすトレーニングができます。ガムを食べれるので、お子さんにも人気の方法です。

こうした練習を通して、舌の動きを改善し、滑舌を良くしていきます。ただ「舌の奥を鍛えましょう」と言われても難しいですが、具体的な方法を取り入れることで、自然とできるようになるのです。

3.リハビリとMFTの共通点

リハビリの基本は次の5つです:

リハビリの基本

  1. ・できないことをできるまで練習する
  2. ・方法を変えて反復練習する
  3. ・環境を整える
  4. ・補助具を使う
  5. ・できない部分を他の人や道具で補う

これらはMFTにも当てはまります。

たとえば、1~3はMFTの練習そのものですし、4や5は矯正装置を使って歯列を整えることが該当します。

4.MFTの明るい未来

MFTがリハビリよりも希望を感じられるのは、練習を頑張れば、できるようになるお子さんが多いことです。神経や脳の障害で動かなくなった部分を改善するリハビリに比べると、MFTは「コツ」をつかむことが重要です。そのコツさえ伝われば、あとは一気にできるようになることが多いのです。

ただし、お子さんの場合、その「コツ」を伝えるのが少し大変だったりします。

私たちクリニックを挙げて取り組んでいますので、みんなで一緒に頑張っていきましょう!

5.まとめ

いかがでしたか?

  • ・MFTはリハビリの考え方と同じ方法を用います。
  • ・ただ「ここが問題です」と指摘されるだけでは、誰もすぐに改善できるわけではありません。トレーニングを通じて、少しずつ正しい機能を身につけていきます。
  • ・トレーニングを繰り返し行いながら、歯並びを整える矯正治療を組み合わせることで、後戻りが少なく、機能がしっかり整った歯科矯正を実現することができます。

今回でMFT特集は完結です!

長い間お付き合いありがとうございました。

低年齢の受け口治療 ~目立たない装置で、短期間で改善する!~

2025年1月9日

低年齢の受け口治療 ~目立たない装置で、短期間で改善する~

こんにちは、岩国のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井です。

下の写真は、同一人物の口腔内です。

実は矯正装置を装着しています。どこにあるか、分かりますか?

答えは上顎の内側でした!

この患者さんは固定式の矯正装置で前歯の受け口を治療しました。

写真の症例について

  • 治療期間: 11カ月
  • 通院頻度: 月に1回
  • 治療方法: SLAの装着
  • 治療費用: 26万9500円(税込)
  • リスク・副作用: 特に無し

以前、マウスピース(ムーシールド)で反対咬合を治療した記事を投稿しました。

ムーシールドの治療期間は半年です。

参考リンク:インスタグラム

https://www.instagram.com/p/C7lcuIAPfgq/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

「受け口の治療って結構、短期間で終わるんだな」と思われませんか?

これが早期治療のすごさです!

今日は、受け口の早期治療のことを、詳しくお話させていただこうと思います。

1. 低年齢児の受け口治療

3~5歳くらいまでの低年齢児の矯正治療がおススメな症例と、そうでない症例があります。

詳しくは、こちらの記事をご参照ください。

参考リンク:矯正の早期治療(3歳~)がおススメな症例とは?

2. 3歳前後に開始するのがおススメな症例

  1. 受け口
  2. 交差咬合(斜めに噛んでる)
  3. 下の前歯が上の前歯に完全に隠れて見えない(過蓋咬合)
  4. 歯が並ぶスペースが足りないのは明白という症例

この中でも、特に①②は、そのまま放置してしまうと顎がゆがんで発育してしまうケースが非常に多いため、早期治療がおススメです。

3. 受け口の自然治癒率

受け口は自然と治るケースもあります。

その確率は6~12%と、報告によってまちまちですが、いずれも低い確率である思われます。

自然治癒するケースは、

  • ・受け口の程度が軽いもの
  • ・反対に噛んでいる歯が4歯未満であること
  • ・家族に同様の症状を持つ人がいないこと

などの特徴があるそうです。

つまり「ごく軽度の受け口」で「遺伝要因が無い」場合以外は、だいたい自然には治癒しないということなのです。

4. 受け口を早期治療するメリット

1. 成人の受け口治療と比較して、治療期間が短い

  • ・多くの場合、成長期の半年~1年程度で治療効果が現れます。
  • ・ただし、成長に伴う後戻りの可能性があるため、経過観察が必要です。

2. 顎の成長をガイドできる

成長期の顎の発達を適切な方向へ導くことができます。

3. 将来的な下顎骨の変形、上顎骨の劣成長を予防できる

  • ・顎の成長が適切にガイドされることにより、骨格的な受け口を予防することができます。(遺伝性の場合は、この限りではありません)
  • ・将来的に手術で受け口を治さなければいけないリスクを低くすることができます。

4. 口腔機能の適切な発達を促せる

受け口の場合、多くは低位舌を伴うことが多く、その場合は舌を挙上する動きが苦手であることが多いです。早期に矯正治療を行うことで口腔機能の発達不全を改善することができます。

5. バランスのとれた顔立ちになりやすい

口腔機能の発達不全や、骨格的な問題を予防することにより、バランスの取れた顔立ちになりやすい。

6. 心理的負担の軽減

思春期や成人になってから見た目のことで悩んだり、目立つ矯正器具を使わずに済む、という利点があります。

5. 受け口を早期治療するデメリット

1. 後戻りのリスク

ご家族・ご親族に受け口の方がいる場合は、遺伝性の可能性が高く、思春期成長の時期に後戻りすることが多いです。

2. 遺伝性の場合は追加治療の必要性がある

後戻りした場合でも、小児矯正をしないよりは軽症となることが多いですが、成人治療を追加で受けなくてはいけないケースが多いです。

3. お子様が嫌がることがある

本人は歯並びや容貌について、特に何も感じない時期なので、目的意識を持ちにくい側面があります。マウスピース型矯正の場合、モチベーションを維持できずに使用時間を守れないと、矯正の効果が発揮されないことがあります。

*ページ上部の写真のように、固定式装置で治療するなどの対策もあるので、マウスピース矯正は性格に合わない場合でも、対策は可能です。

6. まとめ

いかがでしたか?

  • ・3~5歳児の受け口の早期治療は、短期間で効果が現れやすく、将来的な複雑な治療を回避できる可能性が高いです。
  • ・大人になってからの受け口の治療は、長期化や外科的処置が必要になることがあるなど、大変です。
  • ・10歳以上になると、小児矯正の治療効果が十分に期待できなくなるため、成人矯正のみで治療することをおススメすることも多いです。

お子様の成長期は、心も体も大きく変化しています。その中で、歯並びや顎の成長を正しくサポートすることは、健康な口腔環境・適切な口腔機能の発達、そして自信に満ちた笑顔や生活の質にもつながります。

「うちの子は、受け口っぽいけど大丈夫かな?」

「この程度はほっておいても、自然になおるかな?」

「治療が必要かどうかが分からない」

など、お子様の歯列について疑問がございましたら、お気軽にご相談ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

MFT特集 その10「かみ合わせのずれとその原因:正中のずれを考える

2025年1月2日

 

MFT特集 その10 「かみ合わせのずれとその原因:正中のずれを考える」

こんにちは!岩国市のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 小児歯科専門医の吉村です。
今回はMFT(口腔筋機能療法)関連の第10回として、「正中のずれ」について考察します。
かみ合わせのずれや偏咀嚼など、いわゆる「ずれ」の原因を探り、その対応方法について解説します。
正中のずれの原因は大きく分けて以下の2つに分類されます。

正中とは?

正中(せいちゅう)とは、歯科においては、主に上下の歯の中心を指し、特に前歯の中心線を意味します。

正中のずれの原因は?

1.構造の問題(萌出や顎の成長などの問題)

2.機能の問題(偏咀嚼や舌癖などの問題)

それぞれの原因に応じた対応方法も異なるため、まずは正中線のずれを確認し、次に上顎と下顎のどちらに問題があるのかを観察することが重要です。

1.構造の問題

1-1 交差咬合

乳犬歯や犬歯のかみ合わせがずれている場合、下顎が偏位することがあります。
上下顎のバランスが悪い場合に多く、特に下顎が大きい(下顎前突傾向)ケースで見られます。
このような場合、上顎を拡大する矯正治療を行うことで改善が期待できます。

交差咬合:上顎の拡大で改善します。

1-2 乳犬歯の早期喪失

顎が歯に対して小さく、歯が並ぶスペースが不足しているお子さんでは、前歯の生え変わりにともない、乳犬歯が早期に抜けてしまうことがあります。
顎が小さなお子さんの場合、下顎側切歯(前から2番目の歯)が生えるときに、本来ならば乳側切歯という、乳歯の前から2番目の歯とだけ入れ替わらなければならないところ、乳犬歯の根っこも同時に溶かしてしまうことが多いのです。
すると、下顎側切歯が生えてくる7歳前後に、乳犬歯を早期に失ってしまうのです。
乳犬歯が早期に抜けると、永久歯の犬歯が生えるスペースを失ってしまい、結果的に犬歯が八重歯になることがあります。

八重歯(犬歯低位唇側傾斜):矯正治療で改善します。

この場合は、軽度であれば小児矯正によって顎を拡大して歯の生えるスペースを確保したり、重度であれば抜歯による成人歯列矯正による改善が必要になります。

2.機能の問題

2-1 偏咀嚼

歯の位置に問題がなくても、舌癖や歯の喪失が原因で偏咀嚼が起こることがあります。
また、歯の痛みや萌出時の早期接触も偏咀嚼の原因となります。
改善方法としては、以下のようなトレーニングが有効です。

  • 普段あまり噛んでいない側(非咀嚼側)での咀嚼トレーニング
  • 鏡を見ながら正中を合わせるトレーニング

これらを繰り返すことで、少しずつ癖を改善することが可能です。
チューイングガムを用いたトレーニングがおススメです。

2-2 普段の姿勢

頬杖やうつ伏せ寝など、日常の姿勢もかみ合わせのずれに影響を与えます。
特に、片側だけで頬杖をつくなどの悪習癖がある場合、かみ合わせだけでなく筋肉の付き方にも歪みが生じます。このような場合、以下の対応が重要です。

  • 悪い癖を治す
  • 周囲の筋肉を正しく鍛える
  • 体幹を鍛えるトレーニング

これにより、悪い状態に戻らないよう予防することができます。
MFT(筋機能療法)ではこうした姿勢の矯正なども行っていきます。

まとめ

いかがでしたか?

  • 正中のずれの原因は、構造の問題(交差咬合や乳犬歯の早期喪失)と機能の問題(偏咀嚼や姿勢の悪さ)に分けられます。
  • 交差咬合や乳犬歯の早期喪失など、構造の問題の場合はMFTよりも矯正治療がより有効です。
  • 舌癖や普段の姿勢など、機能の問題の場合はMFTのトレーニングや姿勢改善が効果的です。

偏咀嚼や姿勢の悪さが原因の場合、MFTのガムトレーニングや体幹を意識した筋肉トレーニングを取り入れることで改善が期待できます。

正中のずれを改善するためには、原因を正確に把握し、それに応じた適切な対応を行うことが大切です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

MFT特集 その9 「下唇を噛む癖」咬唇癖ついて考える

2024年11月25日

MFT特集 その9 「下唇を噛む癖」咬唇癖ついて考える

こんにちは。岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村剛です。
MFT関連の第9回である今回は、「咬唇癖」について考えてみようと思います。
これは第8回で触れました深いかみ合わせ(deep bite)に随伴する症状です。

日本人は顔の構造の特徴から、Deep biteな上顎前突の顔の人が増加しているようです。

岩国、歯医者、咬唇癖

 

*画像は同意を得て掲載しています*

MTF特集1~8はこちら(クリックすると、ページに移動します)

1.咬唇癖とは?

口唇癖は上顎前歯の裏に下口唇を咬む癖で、挟み込まれた下口唇が上顎前歯を唇側に押すため、上顎前歯がさらに前突していきます。

岩国、歯医者、上顎前突

出っ歯だから唇を咬み、唇を咬むから出っ歯が悪化するという、悪循環です。

2.咬唇癖を予防するには「3歳未満で止めること」が重要

乳歯列期に唇にあとが残るほど「下唇を吸う」子供がいますが、乳歯の指吸い癖と一緒で、3歳ぐらいまでにやめれれば歯列への影響は少ないとされています。

これらの癖は授乳などと同じような『吸う感覚』を味わうためにするといわれており、3歳以降も続けるようであれば、癖として定着してしまいます。
癖として定着している場合、自力での改善は意識してもなかなか難しいです。
口唇癖はほぼ無意識でする行動で、ストレスがかかったり、緊張するととくに唇を咬む傾向にあります。
指吸い癖もそうですが、『吸う感覚』が心地よい、と感じている場合は辞める動機がなかなかありません。

3.咬唇癖を治す方法

3-1)噛みたいときには別のことをさせる

唇を咬む癖が良くないことであることを本人に説明した上で、噛みたい時には他のこと、お気に入りの玩具で遊ぶなどといった、他の事をさせるよう誘導するという方法があります。
ただ、前述のとおり、いったん癖として定着してしまっていると、これだけで完全に癖を治すことは難しいことが多いです。

3-2)矯正により口腔の形の改善する+口腔機能の発達を促す

顔が丸く、頬の筋肉が強い場合、下顎が奥に押し込まれています。
(詳しくはこちらの記事もご覧ください:MFT特集その8「笑ったときに下顎の前歯が見えない」ディープバイト(Deep Bite)について考える)

こうした場合、マウスピースなどで前歯のかみ合わせを「浅くする」ことにより、下顎の成長を促すことができます。また、上の前歯を矯正によって引っ込め、上下の前歯の間に下口唇を入らないようにすることが有効です。
また、口腔機能の発達不全が背景にある(唇の力が弱い・咬合力が未発達・舌を上に持ち上げる力が弱い、など)ことが多いため、MFT(筋機能訓練)により改善を試みることが重要です。

4.咬唇癖は放置すると悪化する

口の習癖は、様子を見ていても、咬合と筋肉の悪循環の作用により徐々に症状が悪化していく事が多いです。口唇癖はその典型です。
正常な発育を阻害する因子は、なるべく早めに矯正やMFTなどを組み合わせて実施して、形の修正・癖の修正を両面から支援することが重要だと考えます。

まとめ

いかがでしたか?

  • ・上顎前突、Deep biteでは、唇を咬む癖(咬唇癖)が出やすいです。
  • ・唇と咬むから出っ歯が悪化し、出っ歯だから唇を咬む…という悪循環が発生し、咬合と筋肉の作用により悪化していく症例が多く存在します。
  • ・咬む行為が本人にとって心地よい場合、自然にはなかなかやめられません。矯正などによる口腔の形の修正と、MFTなどのトレーニング、本人の発達と理解、を通じて正常な発育を阻害する因子を修正してあげることが重要です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

MFT特集 第8回 – 「笑ったときに下顎の前歯が見えない」ディープバイト(Deep Bite)について考える

2024年10月25日

MFT特集 第8回 – 「笑ったときに下顎の前歯が見えない」ディープバイト(Deep Bite)について考える

こんにちは。岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村剛です。
今回はMFT(口腔筋機能療法)に関連した第8回の特集として、最近よく見られる深いかみ合わせ(deep bite)についてお話します。

岩国市、歯医者、過蓋咬合

MTF特集1~7はこちら(クリックすると、ページに移動します)

 

MFT特集その1 筋肉量を増やして小児口腔機能発達不全症を治そう
MFT特集その2 「正しい姿勢・咀嚼と嚥下・呼吸」を得るために大事なこと
MFT特集その3 お口の機能発達は10歳までが勝負!
MFT特集その4 お口ポカンの影響と直し方について
MTF特集その5 口呼吸とアレルギー、アデノイド
MFT特集その6 矯正手法とMFTについて
MFT特集その7 舌癖と歯列不正のメカニズムについて

 

筋肉は、歯並びやかみ合わせに大きな影響を与えます。

第5回でも軽く触れましたが、日本人は丸顔が多く、幼い印象を持たれる顔が多い傾向があります。
骨や筋肉の視点から見ると、下あごの発達が悪く、咬筋が優位になりやすい顔の作りです。
実はこの特徴が、深いかみ合わせの症状と一致しています。
つまり、日本人は深いかみ合わせになりやすい顔の作りであると言えます。

 

1 ディープバイトの原因と影響

ディープバイトは奥歯をぎゅっと噛みしめてしまう「クレンチング」が原因です。
歯の高さである「咬合高径」は、噛む力と萌出する力のバランスで決まります。
噛む力が強ければ、萌出力が負けてしまい、歯の高さが低くなります。
このディープバイトの問題点は、時間が経つにつれてさらに深くなり(悪化する)可能性が高いことです。

 

2 下あごの成長とディープバイトの関係

下あごの成長は上あごに比べて遅く、思春期前後にピークを迎えます。
しかし、この時期に咬筋が強すぎると、下あごの発達が阻害され、上顎前突の傾向が強まります。
そのため、思春期前後までにバイトアップやマウスピース矯正など、下あごの発達を促す介入を行うことが有効です。
また、広島大学の研究でも、ディープバイトは自然には改善せず、むしろ悪化することが多いとされています。

 

3 家庭でできるディープバイト対策

家庭でできる対策としては「クレンチング(噛みしめ癖)予防」が挙げられます。
人間は集中すると癖が出やすく、奥歯を無意識に上下の歯を接触させてしまう癖がつくことがあります(歯牙接触癖:tooth contacting habit)。
これが進行すると、歯を常に噛んでいる状態となり、さらに問題が悪化することがあります。
また、ストレスがかかると歯ぎしりなど、奥歯を強くかみしめる症状が出る人もいます。

人は安静時、「上下の歯が当たっていない状態」が正常です。
上下の歯が接触するのは、食事時間も入れて1日約17分と言われています。
以上より、普段から上下の歯を当てない・噛みっぱなしにしないように意識することが大事です。

 

4 下あごに負担をかける癖に注意

頬杖やうつぶせ寝など、下あごに負担をかける癖も良くありません。
これらの癖は姿勢に関連しており、自分がどのような状況で下あごに力をかけているかを把握することが重要です。

例えば、ゲームをする時も、口を開けている人もいれば、奥歯をかみしめている子供も多くいます。
最近のお子さんの生活習慣の傾向として、ゲームやスマホなどを長時間するケースが多くみられます。
そうした生活習慣の中で、奥歯をかみしめるにしろ、開けているにしろ、お口の癖が強く影響するようになったと臨床家として感じています。
お子さんの生活の癖や姿勢の癖、お口の癖などを親御さんがしっかりチェックしてあげることが重要です。

 

まとめ

生活習慣や癖が歯並びに影響することを意識し、「お口の悪い癖」「口腔機能発達不全」を見逃さないことが重要です。良く分からない場合は、お近くの歯医者さんでチェックしてもらってくださいね。
生活習慣の悪化を防ぐためにも、早めの対策がおススメです。

いかがでしたか?

 

・日本人は丸顔で、ディープバイトになりやすい顔の作りです。

 

・クレンチングによって下あごが押し込まれ、悪化しやすい傾向があります。

 

・ゲームなどの集中による癖もディープバイトに影響するため、生活習慣を見直すことが重要です。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

歯並びが治れば滑舌が改善する!?~滑舌と歯並びの関係~

2024年9月19日

歯並びと滑舌の関係

1. はじめに

こんにちは、つぼい歯科クリニックの院長 坪井です。

お子さんの滑舌が悪いことで悩んでいるお母さま方へ、今回は歯並びと滑舌の関係についてお話しします。

 

現代のお子さんの多くが、口唇や舌を正しく使えていないと言われています。

一般的に3割程度のお子さんが、舌や口唇を上手に動かすことが苦手な「口腔機能発達不全症」と言われていますが、小児歯科の臨床に携わる歯科医師の体感としては3割どころではなく、5~7割と感じています。

 

  • 滑舌が悪い
  • 舌の可動域が小さい
  • 舌を挙上するのが苦手
  • 風船を膨らますことができない
  • 蝋燭を吹き消せない
  • 普段から口が開いている
  • 食事がとても時間がかかる

 

今回は、こうした「小児口腔機能発達不全症」の症状のうち、滑舌と歯並びの関係に焦点を当ててお話しようと思います。

 

2. 子供の滑舌と歯並び

歯並びが滑舌に与える影響は非常に大きいです。

歯の位置がずれていると、舌が正しい位置に動かず、発音が難しくなります。

 

例えば、歯並びの横幅が狭く、口蓋(上顎のお椀のような形態)が深い場合、舌を上に持ち上げて上顎に触れさせることが難しくなることがあります。すると「タ行」の発音が難しくなることがあります。

 

また、上の前歯が前に出っ歯となっていて、下の前歯との距離が大きく空いている場合、舌を上の前歯に擦って音を出す「サ行」が言いにくくなることもあります。

 

滑舌が悪いと、友達とのコミュニケーションに支障をきたしたり、コンプレックスになったりすることがあるため、可能ならば低年齢のうちに改善したいところです。

 

3. 歯列矯正の効果

横幅が狭く出っ歯型の歯並びと、正常な歯並びを見比べてみましょう。

 

岩国、歯医者、矯正

横幅が狭く、出っ歯型の歯並び

岩国、歯医者、矯正

正常な歯並び

横幅が狭くなってしまった場合、上顎が深くなってしまい、舌を当てるのが難しくなってしまいます。

こうして舌を正常に動かすことが難しい場合、ちょっと籠ったような発音になることが多いです(口蓋化構音)。

 

歯列矯正治療では前歯を引っ込めたり、(10歳以下の小児の場合は)急速拡大装置と呼ばれる、上顎の横幅をしっかり広げる治療などで、構音が難しくなってしまう原因を治療することができます。

 

岩国、歯医者、小児矯正

急速拡大装置

 

4. MFTや言語聴覚士によるトレーニングの併用

歯列矯正だけでなく、筋機能療法(MFT)や言語聴覚士によるトレーニングも有効です。

当院は、口腔機能発達不全症のお子様が矯正治療を行う場合、ほぼMFTも併用しています。

*ただし、お子様の年齢が10歳以上の場合で治療効果が薄いと判断した場合は、ご自宅での簡単なトレーニングの指導のみとさせていただいています。

 

MFTについては、こちらの記事もご覧ください。

 

参考リンク:お口の機能発達は10歳までが勝負!

 

参考リンク:当院のMFTの様子(インスタグラム)

*インスタグラムは音がでますのでご注意ください

 

5. まとめ

いかがでしたか?

 

・滑舌と悪い歯並びには関係があり、歯並びを治すことで滑舌が改善することがあります。

・特に「タ行」「サ行」で特に改善が見られます。

・MFTや言語聴覚士によるトレーニングを併用した方が効果的です。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

矯正治療は何歳から始めるのが一番良い?

2024年9月3日

矯正治療は何歳から始めるのが一番良い?

中学生

こんにちは、岩国市のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井文です。

今日は「矯正治療は何歳から始めるのが一番良い?」という話題です。

 

当院には、2~3歳のお子様から、60代くらいまでの方が矯正治療に通院されています。

大人になってからでも、多くの場合は治療可能です。

しかし、悪い歯並びは子供のうちに治してしまう方がメリットが大きいのも、事実です。

1)小児矯正の重要性

まず、小児矯正についてお話ししましょう。

10歳前後までの時期が対象の小児矯正を行う理由は、成長期を利用して顎の骨を正しい位置に導くことができるからです。

この時期に矯正を行うことで、将来的に抜歯を避けることができる場合もあります。

小児矯正の詳細については、別の記事で詳しく書いていますので、ご興味がある方はぜひ読んでみてくださいね。

 

★参考リンク★

成長を利用して治す小児矯正で「非抜歯矯正」!

2)小児矯正のデメリット

一方で、小児矯正にはデメリットも存在します。

例えば、治療期間が長くなることや、装置の管理が難しいことがあります。

また、子供自身が治療に対して積極的でない場合、治療がうまく進まないこともあります。

3)12~13歳以上の矯正治療

では、小児矯正の時期を逃してしまった12~13歳以上の方の場合はどうでしょうか?

人間の頭蓋は10歳前後で成長をほぼ終えるので、「矯正治療で顎を育てることができる」時期は終わっています。

しかし実は、「顎を育てる時期が終わっている12~13歳」でも、早めに治療した方が良い理由があるんです。

今回は、その理由を5つご紹介します。

4)早めに歯列矯正を行うことのメリット

4-1)治療期間が短い・歯が良く動く

思春期の成長期にある12~13歳の段階では、骨や歯が柔らかく、治療に対する反応が良いです。
この時期に矯正治療を開始することで、治療期間を短縮し、歯の動きを促進することが期待できます。

4-2)痛み・違和感が少ない

若い時期に治療を始めると、歯や口腔の状態がまだ柔らかいため、痛みや違和感が少なく、患者が治療に対して快適に適応できます。

4-3)社会生活への影響が小さい

思春期は学業や友情など、社会的な関係が形成される時期です。
この時期に治療を始めると、社会生活への影響が少なく、同世代との交流や自己表現がしやすくなります。
成人後に治療を始めると、仕事や社会生活において制約を受ける可能性があります。
特に飲食業や営業など、外見や口元が重要な職業に従事する場合、治療が難しくなることがあります。

4-4)加速矯正を行える

近年では加速矯正技術が進歩しており、治療期間をより短縮することが可能です。
思春期に始めることで、このような新しい技術を駆使し、より迅速かつ効果的な治療が行えます。

4-5)高校デビュー・大学デビュー・社会人デビューの時には綺麗な歯並びでいられる

思春期に治療を終えると、高校や大学、社会人としての新たなステージに綺麗な歯並びで臨むことができます。
「失った時間は取り戻せない」ため、思春期に治療を受けることで、将来の自分に自信を持って臨むことができます。

5)私の体験談:思春期の思い出を変える矯正治療

5-1)私の生まれつきの歯並びの問題

私は生まれつき、上の2番目の前歯が2本生えていました。

本来1本のところに2本生えているため、その部分の歯並びが乱れていました。

小学生2年生のころ、母に連れられて矯正相談に行ったことを覚えています。

 

母は矯正治療が保険適用外であることから、治療を受けさせるべきかどうか、非常に悩んでいました。

母は私に「文ちゃん、歯並び、気になる?治したい?」と尋ねました。

当時の私は小学2年生で、外見や歯並びについて何も気にしていない年齢でしたので、

「全然!このままでいいよ!」と答えました。

母が、ホッとした表情をしたのを、よく覚えています。

5-2)思春期の変化

しかし、思春期に入ると外見がそれなりに気になるようになりました。

笑ったときに上の前歯の歯並びが乱れていることがコンプレックスとなって、口元を隠すことが増えました。

小学生のころは、歯を見せて笑っている写真が多く残っていますが、中学生~高校生の頃の写真では、歯を見せて笑っている写真はほとんどありません。

5-3)矯正治療の決断

大学生になった私は矯正治療を受けたいと、強く思うようになりました。

毎日鏡で自分の顔を見るたび、歯並びが気になる…と思うのを辛く感じるようになっていましたし、

歯磨きを頑張っても、歯並びが乱れて歯が重なっている部分には虫歯ができてしまいました。

 

両親も私の気持ちを汲んで、

「もっと早くに矯正させてあげたら良かった」

と言ってくれて、晴れて歯並びを治療を受けることが出来ました。

5-4)もっと早くにしておけば良かった

治療が終わったとき、私は自分の笑顔に自信を持てるようになりました。

ただ、矯正治療をする前に虫歯になってしまった歯は元には戻りませんし、

口元を隠して過ごした思春期の時間も戻りません。

矯正治療は何歳からでもできますが、どうせやるなら、確かに早めが良かったなと個人的には思っています。

6)矯正治療を考えている方へ

矯正治療は何歳からでも始められます。

しかし、矯正をされる方の多くが、子供か、若い方です。

 

「どうせやるなら早いうちに始める方が、メリットが大きい」からです。

小児期から始めれば、抜歯を回避できる可能性が高くなり、

思春期から始めれば、治療期間を短縮し、痛みや違和感を軽減することができます。

大学時代から始めれば、社会生活への影響も少なく、将来の自分に自信を持つことができます。

迷っていらっしゃる方は、当院でも無料矯正相談会を毎月開催しておりますので、よろしければ一度相談に知らしてくださいね。

まとめ

いかがでしたか?

 

・矯正治療は何歳からでも始めることができますが、早めに始めることで多くのメリットがあります。

・治療期間が短縮されます。
・痛みや違和感が軽減されます。
・社会生活への影響が少ないです。
・将来の自分に自信を持つことができます。

 

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

MFT特集 その6 矯正手法とMFTについて

2024年8月15日

矯正手法とMFTについて

こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科、小児歯科専門医の吉村です。
今回はMFT関連の第6回で、MFTと矯正方法の選択についてのお話です。

 

実は、歯並びやかみ合わせには、筋肉の働きが深く関係しているんです。
今回の記事では、その秘密を解き明かしつつ、どうして矯正治療とMFT(口腔筋機能訓練、マイオファンクショナルセラピー)が大切なのかをお話しします。
お子さんの歯並びが気になる保護者の方は、ぜひお読みください。

 

MTF特集1~5はこちら

MFT特集その1 筋肉量を増やして小児口腔機能発達不全症を治そう

MFT特集その2 「正しい姿勢・咀嚼と嚥下・呼吸」を得るために大事なこと

MFT特集その3 お口の機能発達は10歳までが勝負!

MFT特集その4 お口ポカンの影響と直し方について

MTF特集その5 口呼吸とアレルギー、アデノイド

第一章 なぜ筋肉が歯並びに影響するのか?

筋肉は、歯並びやかみ合わせに大きな影響を与えます。

特に、舌や唇の筋肉が正しく機能しないと、不正咬合が進行することがあります。

この問題を放置すると、後々の治療が難しくなる可能性があります。

  • 舌小帯・上唇小帯の影響:筋肉がその付着点や起始点で異常に働くと、歯が引っ張られ、不正咬合が増悪することがあります。
    例えば、舌小帯や上唇小帯という筋の付着点に問題がある場合、筋肉が正常に機能せず、歯並びが乱れる原因になります。
    舌小帯
    参照リンク 舌小帯・上唇小帯 | 歯科用語 (shika-yogojiten.jp)
    上唇小帯参照リンク 舌小帯・上唇小帯 | 歯科用語 (shika-yogojiten.jp)
    このようなケースでは、小帯切除術と呼ばれる簡単な外科処置で改善が見込まれます。
    最近では、この処置を選ぶ患者さんが増えています。
  • 口や鼻のサイズ:口が小さいと、鼻腔や気道も狭くなることがあります。
    この場合、矯正治療によって上顎の拡大することで、呼吸や気道スペースが確保されます。
    下顎は、上顎の拡大に伴って自然に成長することも多く、矯正による顎の大きさや位置の改善は、呼吸にも良い影響を与えることが報告されています。

第二章 MFTと矯正治療って何?

MFTは、筋肉の働きを改善するための治療法です。これを行うことで、矯正治療がより効果的になります。

  • MFTの役割:MFTは、筋肉のバランスを整え、歯並びを正しく導くサポートをします。筋肉が正常に働くことで、歯が正しい位置に並びやすくなり、矯正治療の効果が高まります。
  • 矯正治療との組み合わせ:矯正治療とMFTを併用することで、歯の動きがスムーズになり、理想的な歯並びが期待できます。これにより、将来的な歯並びの安定性も向上します。

第三章 どうやってMFTと矯正治療を行うのか?

それでは、具体的にどのように治療を進めるのでしょうか?

  • 丸顔の特徴と治療:日本人に多い丸顔の特徴として、咀嚼筋(食べ物を噛む筋肉)が強いことが挙げられます。
    丸顔で咀嚼筋が優位な場合、下顎を成長させる治療法やMFTが向いているとされています。
    具体的には、咬合斜面板、咬合挙上板などの装置が用いられるほか、ある程度はマウスピース矯正でも治療が可能です。
  • 面長の特徴と治療:一方、面長の特徴としては、咀嚼筋が弱く、低活動であることが多いです。
    このような場合、まずは上唇小帯や舌小帯など、筋活動を阻害している因子を取り除くことが重要です。
    その上で、硬いものを食べたりガムを噛んだりして、咀嚼筋を鍛えるMFTが効果的です。さらに、鼻が悪い場合も多いため、鼻呼吸の練習や必要に応じた耳鼻科治療が行われます。
    直接的な影響は少ないとされていますが、上顎の拡大によって副産物的に鼻呼吸が改善されたという報告もあります。
    臼歯部を圧下させる(かみ合わせを低くする)装置も効果的です。
    複数の歯に大きな処置が必要な場合は、マルチブラケットやインビザライン矯正などの本格的な矯正が適しています。

第四章:他に考慮すべきことは?

MFTと矯正治療以外にも、いくつかの重要なポイントがあります。

  • 鼻呼吸の促進:鼻呼吸ができるようにすることも重要です。
    これには耳鼻科治療や鼻の通りを改善するための対策が必要になることがあります。
    拡大によって鼻呼吸が改善することもありますが、専門的な治療が必要なケースも少なくありません。
  • 骨格の改善:骨格的な問題を早期に改善することで、将来的な抜歯や手術が不要になることがあります。
    子供時代に骨格的な不正を指摘し、小児矯正やMFTの結果、改善された場合、抜歯や手術並みの効果が得られることもあります。

まとめ

  • 筋肉の働きは、歯並びに大きな影響を与えます。
  • MFTと矯正治療を組み合わせることで、より効果的な治療が期待できます。
  • 鼻呼吸や骨格の問題も併せて考えることが、より良い結果を生む鍵です。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
MFTや矯正について、個別にご相談がある場合は、かかりつけの歯科医院でご相談してください。
当院では、矯正相談での受診や、矯正相談会なども定期的に行っていますので、ご興味がある方はお気軽にお申し込みください。

MFT特集その5 口呼吸とアレルギー、アデノイド

2024年7月3日

口呼吸とアレルギー、アデノイド

 

こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。

今回はMFT(マイオファンクショナルセラピー)の第5回で、前回に引き続き口唇閉鎖に係わる要素、「鼻呼吸」について考えてみようと思います。

 

参考リンク

MFT特集その1 筋肉量を増やして小児口腔機能発達不全症を治そう

MFT特集その2 「正しい姿勢・咀嚼と嚥下・呼吸」を得るために大事なこと

MFT特集その3 お口の機能発達は10歳までが勝負!

MFT特集その4 お口ポカンの影響と直し方について

 

鼻呼吸について

突然ですが、みなさんは、飲み物を飲みながら鼻で息ができますか?

答えは「できない」。我々人類は、気道と食道が咽頭で交わる構造になっているので、呼吸と嚥下は同時に行うことはできません。気道と食道が交わるので、人間は鼻でも口でも呼吸ができてしまい、また、呼吸と嚥下を同時にはできなくなってしまったんです。

赤ちゃんの場合

では赤ちゃんはどうでしょうか?母乳を10分、15分と吸っている間、ずっと息を止めているのでしょうか?もちろん、ちゃんと呼吸しています。実は赤ちゃんは、気道と食道が完全に分離しているんです。生後6か月以降に喉頭が下降して、成人と同じように気道と食道が交わるようになるんです。つまり新生児のうちは、赤ちゃんは鼻呼吸のみで、呼吸と嚥下を同時に行うことができるんですね。

動物の場合

では、人間以外の動物はどうでしょうか?動物は気道と食道が完全に分

離しており、我々人類の近縁である類人猿ですらも鼻呼吸のみです。犬や猫が暑いときにハアハアやっているのは呼吸ではなく、血管が多い舌を冷やしている行為です。

人類の進化と口呼吸

人類は二足歩行になった結果、口、咽頭、喉頭が大きく広がり、言語を習得して色々な音が出せるようになりましたが、同時に口での呼吸も可能となりました。人間も、二足歩行がまだ出来ない赤ちゃんの頃は気道と食道が完全分離していて、1歳程度で言語を習得するようになると口、咽頭、喉頭あたりが大きくなって、口呼吸も可能になるんです。

免疫系の発達と口呼吸

一方で、1歳前後で卒乳すると母乳由来の免疫が減少し、様々な病原体や物質に巡り合うことにより子供は自分自身での免疫を作るようになります。この時期の免疫系の発達はものすごく、10歳ごろには成人の200%ぐらいの免疫力を持つことになります。

免疫系の発達は生きていく上で非常に重要ですが、この時期に多くのアレルギー反応も生じます。現代社会ではアレルギー反応が強く出る子が多く、鼻詰まりやアデノイド(のどに存在する免疫系の重要な器官)の腫大が多くの子供に見られます。こうした鼻詰まりも口呼吸になってしまう一因となります。

岩国、歯医者、アデノイド

アデノイドと口呼吸

アデノイドの肥大や鼻詰まりが落ち着くのは、6歳頃です。免疫力のピークと、アデノイド発症のピークが一致しないのは、環境要因や生活習慣など複雑な要因が関係するためですが、問題は1~6歳の間、鼻が通りにくい状態にあることで口呼吸が癖になってしまうことです。この(アデノイドなどの)原因が無くなった後も継続する「癖になってしまった口呼吸」のことを「習慣性口呼吸」と言います。

口呼吸のデメリット

口呼吸のデメリットは、以下のように多岐にわたります。

  • 歯並びへの影響(出っ歯になりやすい)
  • 唾液が前歯に触れないことで唾液による再石灰化作用が弱くなり、虫歯になりやすくなる
  • 咽頭が乾燥する、鼻毛のろ過が行われないためにウィルス性疾患にかかりやすくなる
  • 鼻を呼吸で使わないことにより、鼻が横方向に成長せず、より鼻呼吸がしにくくなる

口呼吸の予防

口呼吸の予防には、以下の対策があります。

  • アデノイドなどがある場合は耳鼻科で処置する
  • アレルギー対策を行う
  • 口唇閉鎖しやすいような生活習慣を取り入れる

3歳までに形成された癖は自力で治すのは難しいです。大人では意識することである程度改善できますが、小さな子供に系統だった努力をさせるのは困難です。簡単な訓練でも、ステップを踏んで地道に習慣化していく必要があります。

 

参考リンク:楽しく筋機能訓練(インスタグラム)

 

まとめ

 

いかがでしたか?

 

1.新生児期の呼吸は鼻呼吸ですが、気道と食道が交差するようになる1歳ころから口呼吸が増え始めます。

2.1歳児からのアレルギーや習慣が原因で口呼吸になってしまう子供が多くいます。

3.アデノイドが落ち着くのは6歳ころからです。これらの症状は耳鼻科での治療が必要になります。

4.癖になった口呼吸は、なかなか自然での改善は望めません。習慣性口呼吸がある場合は筋機能訓練が有効です。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

お口ポカンの影響と直し方について

2024年6月21日

お口ポカンの影響と直し方について

こんにちは!岩国市のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 小児歯科専門医の吉村剛です。

今回はMFT(マイオファンクショナルセラピー:口腔筋機能訓練)の第4回で、一番よくある症状である口唇閉鎖、つまりお口ぽかんについてお話しします。

 

あなたはお口ポカン(口唇閉鎖不全)について、聞いたことがあるでしょうか?

 

口唇閉鎖不全とは、日常的に口が開いている状態を指します。

2021年の調査では、3歳から12歳の子どもの約30.7%がこの状態でした。

近年非常に増加していて、社会問題になっています。

 

口唇閉鎖不全は口呼吸につながりやすいですが、必ずしも口唇閉鎖不全、イコール、口呼吸を意味するわけではありません。

今回は、口唇閉鎖不全の原因と改善方法についてお話しします。

お口ポカンはなぜ悪い?

口唇閉鎖不全(お口ポカン)とは、日常的に口が開いている状態を指します。

これが口呼吸に繋がることがあります。

口唇閉鎖不全の子ども

お口ポカンの原因

・鼻呼吸ができていない・・・鼻閉やアデノイド肥大などの原因がある場合。

・お口周囲の筋肉の発達が十分でない

・嚥下や発音、呼吸に関連する筋肉の発達が十分でない場合。

 

以上より、お口ポカンを改善するには、下記の対策をしていくことになります。

口唇閉鎖不全(お口ポカン)を改善するには

・鼻呼吸ができているか確認する。

・鼻閉やアデノイド肥大などがあれば、耳鼻科での治療を受ける。

・お口周囲の筋肉を鍛えるためのトレーニング(MFT:口腔筋機能訓練)を行う。

 

お口ポカンに対して何もしなければどうなる?

もしこの問題を放置すると、成長期にさまざまな領域に悪影響を与える可能性があります。

 

例えば、歯並びが悪くなったり、口呼吸になり集中力が維持できなくなったり、スポーツを行う時にその子の本来のポテンシャルが発揮できなくなったり、睡眠障害が起こる原因となります。

 

眠そうな女の子

 

よって、早期の対応が大切です。

 

以上のような対策を講じることで、口唇閉鎖不全を改善し、健康な発育を促すことができます。

何かご不明点があれば、いつでもご相談ください。

 

まとめ

いかがでしたか?

1 口唇閉鎖不全(お口ぽかん)は小児の約30%に見られ、鼻閉や筋肉の弱さが原因で起こります。

2 鼻閉やアデノイド肥大が原因の場合は耳鼻科での治療が必要です。

3 筋機能トレーニング(MFT)で口唇閉鎖不全の改善が可能で、早期対応が重要です

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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