触れることと咀嚼・嚥下~歯科的な見方から~
2020年6月13日
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。
皆さん、元気に過ごされていますか?
「4歳になるのに、子供が歯磨きをいつまでも嫌がる」
「特定の場所を触ると嫌がる」
「肌ざわりが悪いと猛烈に嫌がる」
「食感が苦手で食べないものがある」
これ、すべて「触覚過敏」によるものだって、ご存じでしたか?
今日は、幼児の発育と「触覚過敏」と、体のこわばりについてのお話です。
触覚過敏と体のこわばり
1) 体のこわばりと、感覚器
人間の体には、感覚をつかさどる感覚器と、運動機能をつかさどる筋肉があり、この2つがバランスを取って体の仕組みを作っています。
感覚が鈍くなると筋肉を動かすことが難しくなり、
また敏感すぎると筋肉がこわばってこれもまた動かなくなります。
この仕組みは体の発育と共に育っていきます。
感覚器である目、鼻、口が集中する中心部分の感覚が最も鋭敏です。
またその機能も中心から(末端に向けて)順番に発達していくなどの一定のルールがあります。
2)頸部の筋肉のこわばりと、嚥下とむせ
食事や飲み物を飲むとき、あるいは唾をむせたりすることがあります。
「むせ」というのは、液体が胃に向かう食道ではなく、肺に向かう気道の方に迷い込んでしまうことで起きます。
どうして迷い込んでしまうかというと、
高齢者については、
一般に「飲み込みに関する筋肉の衰え」が原因であると言われています。
ただ、小児や障碍者の「むせ」は筋肉の衰えより「過敏による筋肉のこわばり」が原因であることも多いようです。
したがって、体を均等に刺激して筋肉と感覚を整えることが重要です。
3)体のこわばりの原因となる「過敏」を取り除く方法
~系統的脱感作法~
体のこわばりの原因になる「感覚過敏」は、どうやったら取り除けるでしょうか?
すごくシンプルに言うと
「弱い刺激から与えて、慣れさせる」という方法が有効です。
専門用語でいえば「系統的脱感作法」と言います。
具体的には感覚の鈍い手足部分から体の中心(顔)に向けて、ゆっくりとさすっていきます。
さする力(圧)が一定でも、感覚が鈍い場所から、顔などの敏感な場所にむけて触ることで、刺激を「弱い→強い」と、変えることができるんです。
これは歯磨やきを行う前の準備体操としても有効です。
4)べろタッチ法、ガムラビング法
系統的脱感作法とは逆に、感覚器である口にある程度の刺激を与える方法です。
べろタッチ法
べろタッチは舌の横面と縦面に、歯ブラシなどで10秒程度軽くトントンと刺激する方法です。
嘔吐反射の激しいお子さんは、べろタッチを歯みがきの後に毎日行うことで、改善できるケースもあるようです。
ガムラビング法
ガムラビング法は歯茎部を中心に刺激を入れていく方法です。
小さなお子さんの、一口目のむせや誤嚥が減少する効果があります。
5)触れると出るハッピーホルモン
人間の体は触れあうことで、あるホルモンが出ます。
自律神経系に働き、脳に安らぎをもたらすので、ハッピーホルモンと言われるオキシトシンです。
「痛いの痛いの飛んでいけ~!」でお子さんが泣き止むのも、このオキシトシンが関係しているのかもしれませんね。
治りにくい痛みなどが、さすっただけで軽減するなどの効果もあるようで、歯科関連での記載は少なかったのですが、今回説明した方法は触れることで体の機能を整える方法です。
今回書いたような方法は、お父さんやお母さんがお子さんの体を触れることで、体の機能を整える方法です。
やった場合と、やらない場合の比較研究が難しい側面がありますが、多くのプラス効果が報告されています。
お子さんの仕上げ磨きは、歯が生えたらやっていただきたいことです。
家族のスキンシップとして、その際にでも発育を促す方法の一つとしてやってみましょう。
まとめ
いかがでしたか?
- 体の発達は、感覚と機能(筋肉)が両輪の輪として発達します。
その順番は、感覚器が多い体の中心から末端にむけてなど、ルールがあります。 - 食事において、問題となるのはむせや誤嚥です。
小児や障碍者では、過敏による筋肉のこわばりが原因であることも多いです。 - 体を均等に刺激して筋肉と感覚を整えることは、体の機能を最大限生かす基本的な戦略です。
系統的脱感作法、べろタッチ法、ガムラビング法などがあります。
今回ご紹介した方法は、他人が体を触れることで体の機能を整える方法です。
お子さんの仕上げ磨きの際にでも家族のスキンシップとして、ぜひやってみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。