子どもの発音、発声について
2021年6月5日
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。
最近診療時に、保護者の方から、お子さんの発音・発声などについて相談を受けることが多くなってきました。
発音、発声は「構音=目的の語音を出すためのメカニズム」によって可能になります。
今回は、お子さんの「構音」についてお話していきます。
どうして乳幼児の発音は舌足らずなの?それって問題ないの?
日本語の発音
日本語の発音は、母音(あいうえお)と、子音(カ行以降)の組み合わせで構成されます。
母音(あいうえお)の発音の舌の位置と、息をあてる位置
画像出典:https://field-music.com/vocal/2019-10-05
母音は舌の位置(前か後)によって、発音しています。
子音の発音
子音は声道に様々な強い狭めや閉鎖などの構音様式を母音と組み合わせて作られます。
画像出典: https://www.onecareer.jp/articles/2428
これらの構音様式の獲得の順序はおおよそ決まっています。
構音様式の獲得の順番
母音に近い音から習得していきます。
サ行・ザ行、タ行の中ではツ、ヅなどは発音が難しく、4歳以降に習得します。
それまではサ行などは近い別の音で発声します。
例えば、『ウサギ』が『ウタギ』などに聞こえます。
舌足らずに聞こえますが、発達の順番が正常であれば問題ありません。
3~4歳になると、しりとりゲームなどの言葉遊びによって自分で発音の違いに気づき、正しい発音に置き換えていきます。
発達障害か、口腔機能発達不全症か
発音の発達に問題があるのか、言語能力やコミュニケーション能力に問題があるのか
発音を気にする前に、言葉やモノに対する興味やコミュニケーション能力が正常な発達しているかが重要なポイントになります。
そのため、歯科以外の専門家にも、よく相談する必要があります。
コミュニケーション能力に問題が無く、お口の機能だけに問題があるお子さんの場合、口腔機能発達不全症である可能性があります。
その名の通り、口腔の機能が十分に発達していなかったり、発達が遅れていたりする状態です。
口腔機能発達不全症の場合に、よく見るべき3つの項目
1.口唇閉鎖不全(唇をしっかり閉じることが難しい状態)
口唇閉鎖不全には
- なんとなく、口がぽか~んと開いている場合(習慣性のもの)
- 上の歯並びが出っ歯さんで、唇が閉じにくいのが原因の場合(歯列不正によるもの)
- 鼻づまりで口呼吸をすることが原因の場合(鼻閉によるもの)
の3パターンがあります。
口唇閉鎖不全があると、起きること
- パ、バ、マの音が不明瞭になる
- 習慣性や鼻閉による口唇閉鎖不全でも、歯列不正につながりやすい
- ウィルス性疾患などにかかりやすい
口唇閉鎖不全の治療
- 歯並びを治す(唇を閉じれる位置まで前歯を移動させる。歯列矯正する。)
- 口回りの筋肉が正常に動くように、筋トレする(筋機能訓練:MFTを行う)
*MFTの最も簡単なものに「あいうべ体操」があります。
参考リンク:あいうべ体操
2.舌小帯の異常
舌小帯短縮症 (舌小帯が短い)
舌が自由に動ける範囲が小さくなり、タ、ダ、ナ、サ、ザ、ラなどの音が不明確になります。
ただ、舌は大きな筋肉であるため、代償的な発達がよくおこります。
そのため舌小帯に問題があっても、発音に問題がない場合もあります。
3.口腔悪習癖
口の悪い癖のことです。中でも、構音に特に関係あるのは舌突出癖です。
全体的に舌が前に出るために、構音の不明瞭さや審美的な問題が起きる場合があります。
口唇閉鎖不全、舌小帯異常、口腔悪習癖の3つは相互に関係している
人によって割合が異なりますが、上記の3つはお互いに関係していることが多いです。
治療法は、
- 矯正治療や舌小帯延長術で「原因を取り除く」
- 筋機能訓練で「正しい機能を得る」
正しい機能を得るための訓練は、発達段階にある10代前半までが獲得しやすいと言われています。
Withコロナ時代のマスク事情と口腔機能発達不全症
新型コロナ感染症予防のために、幼い頃からマスクをしている今時のちびっ子達。
マスクをしていると、より口呼吸になりやすいと言われています。
新潟大学の行った大規模な全国疫学調査があります。
日本人の子どもたち(3~12歳)のお口ぽかん率は30.7%であったという論文が、2021年1月に発表されました。
ひと昔前より、お口をぽか~んと開けてしまう子どもたちが増えたと言われています。
これらの症状は、成長とともに自然と改善することは少ないです。
気になることがありましたら、お気軽ご相談ください。
まとめ
いかがでしたか?
- 日本語は舌の位置と口唇などで構成される母音と、様々な閉鎖部を作ること(構音)によって音が決まる子音を組み合わせることにより構成されます。その発達の順序はおおむね決まっています。
- 構音の問題がお口にある場合、その原因として指摘されるのは口唇閉鎖不全、舌小帯の異常、口腔悪習癖などです。これらは相互に関係している場合が多く、正しい構音の獲得のためには、形の獲得(歯科矯正など)とともに、機能の獲得(トレーニング)が重要になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。