MFT(口腔筋機能訓練)特集その3 お口の機能発達は10歳までが勝負!
2024年4月25日
MFT(口腔筋機能訓練)特集その3
お口の機能発達は10歳までが勝負!
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 小児歯科専門医の吉村です。
MFT(マイオ ファンクショナル セラピー:筋機能訓練)の第3回です。
今回は「筋機能訓練は何歳までに始めたら良いの?また、何歳までがリミットなの?」というテーマのお話です。
1)筋機能訓練(MFT)は10歳までに終えたい
保険診療の小児口腔機能発達不全症は、18歳未満が対象です。
が、実際は10歳までが勝負と言われています。
筋機能訓練を10歳までに行わないと、効果が激減してしまうワケ
人間の咀嚼、嚥下、発音、呼吸などの口腔機能は、成長発育期に日常生活の中で学習して自然に獲得するものです。
口腔機能にとっての成長発育期が、10歳までなんです。
5,6歳から取り組んで(遅くとも8歳から始めて)、10歳までに終わるのが理想です。
2)筋機能訓練(MFT)では、何を訓練で改善するの?
MFTで改善するのは、呼吸と嚥下(えんげ)の機能です。
歯並びを悪くする原因でもある「呼吸」「嚥下」のうち、ここでは「嚥下」に焦点をあてて解説しますね。
「嚥下」がうまくできない状態(摂食嚥下障害)では、どんなことがおこっているのでしょうか。
嚥下とは、食べる・飲み込むという一連の動作です。
食べ物が実際にある体の「場所」と、食べ物をどう処理するかの「体の働き」がうまく嚙み合っていないと、嚥下はうまくできません。
詳しく説明していきます。
咀嚼嚥下(そしゃくえんげ:かんで飲み込むこと)は2つのとらえ方があります。
2-1)食べ物がどこにあるかで分ける「相(そう)」
相は「口腔相」「咽頭相」「食道相」に分けられますが、これは食べ物が体のどこにあるか、という分け方です。
2-2)認識や筋肉の動きで分ける「期(き)」
期は神経目線の考え方です。
「認知期」「準備期」「口腔期」「咽頭期」「食道期」という流れです。
認知期・・・「食べよう」と思うことにより無意識に食べる心構えをする段階
準備期・・・噛む段階
口腔期・・・飲み込む直前の段階
咽頭期(いんとうき)、食道期・・・食べ物がその場所に来たときに、体が無意識に、オートマチックに動く段階
2-3)咀嚼嚥下障害は、相と期が上手くかみ合っていない状態で発生する
MFTの訓練は「期」の中でのそれぞれの改善点をトレーニングする方法とされています。
舌の位置、動き、持久力、可動域、機能
口唇の動き、閉鎖力、可動域、機能
舌や口唇が正しい機能を発揮しやすくする姿勢
など、多岐にわたり、様々なトレーニング方法があります。
3)機能は一度獲得出来たら、後戻りはしない
通常、人間は食事するとき、舌の位置とか深く考えずにほぼ無意識に行います。
ですが、「食べよう」「食べ物を口に入れよう」「噛もう」というのは、意識して行います。
この「意識する部分」の訓練を繰り返せば、神経筋機能が刺激、発達して改善できる。これがMFTを行う理論的根拠とされています。
また、習得するのは難しいのですが、習得したら無意識レベルまでいくので、後戻りはしないとされる根拠でもあります。
4)どうして10歳までに終えたいの?
この記事の冒頭で、筋機能訓練は5,6歳から開始して、10歳までには終えるのが理想的だとお伝えしました。
10歳ごろまでは
・乳歯が生える/抜ける、永久歯が生えるなど変化が大きい時期
・顎の成長や口腔のボリューム(容積)の変化が大きい時期
・神経機能が発達しやすい時期
ということもあり、体が「変化を受け入れやすい」「機能獲得に有利な時期」なのです。
特に、脳をはじめとした神経系の成長は、10歳前後までに成人の95.6%にまで達します。
この時期は、さまざまな神経回路が形成されます。
よって、神経系の働きを高めるような運動や動作を行うと、発達を促す効果が高いんです。
それ以上の年齢では改善しないわけではありません。
しかし、癖を治すのに強い意志が必要となり、発達もゆっくりとなるので、大きなストレスを感じる人も多いです。
5)MFTで歯並びが綺麗になるって本当!?
5-1)口腔の機能発達不全が歯並びを悪くする
口呼吸や低位舌(ていいぜつ)、舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)などの口腔機能の発達不全は、出っ歯や歯のガタガタ、受け口の原因になることが知られています。
そのため、歯列矯正と併用して行うケースも多いです。
矯正治療で歯並び治療をする時に、歯並びを悪くする癖があれば治療効果が低下します。
そして、せっかく歯並びを治療しても、歯並びを悪くする癖があれば、またすぐに歯並びは悪く戻ってしまうことも多いです。
5-2)MFTをすれば全員歯並びが良くなるわけではない
歯並びの悪さの原因が、何かによります。
口腔機能の発達不全が歯並びを悪くしている原因の場合、口腔機能が改善したら歯並びが良くなることもあります。
ただ、それは神経筋機構が改善した結果です。MFTによって、歯並びが直接改善するわけではありません。
年齢や歯並びや骨の状態によっては、MFTだけでは歯並びを改善できないこともあります。
その場合は、矯正治療との併用してMFTを行うことも多いです。
6)10歳までに機能獲得をするために、8歳までにMFTを始めたい
MFTは2年間くらいトレーニングを行います。
獲得しなければいけない機能不全が、どの程度かによって、期間は前後します。
10歳未満の方であれば、2年のMFT期間で、ほとんどの場合大幅な機能改善が期待できます。
MFT期間の目安は2年間ですが、
- ・症例の重度・軽度
- ・どのくらいご自宅でトレーニング時間を作れるか
- ・トレーニングのための通院頻度
などによっても必要とされる期間は変わります。
絶対に8歳までに始めなければいけない、ということではありません。
しかし、8歳くらいまでに始めると、「安心」ではあります。
7)まとめ
いかがでしたか?
- ・MFTの訓練は「期」の中でのそれぞれの改善点をトレーニングする方法とされ、様々なステップに分けられています。
- ・口腔機能をMFTによって習得するのは難しいのですが、習得したら一生抜けない技術です。
- ・ただし、受け入れやすい年齢は上限が決まっており(10歳)、その後では強い意志が必要となります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。