歯科用CTで出来ること ~根管治療でCTって必要なの?~
2024年6月6日
歯科用CTで出来ること
~根管治療でCTって必要なの?~
こんにちは、医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井です。
唐突ですが、歯科医院で使用するX線検査に関するクイズです!
CTが100とすると
デンタルレントゲンが55
パノラマレントゲンが28
さて、これは何を比較した数字でしょうか!?
答えは「歯の根尖病巣の検出力」
歯の根っこの先に、膿が溜まったりしてできる根尖病巣ですが、X線撮影の種類で検出力に大きな差があるんです。
根尖病巣や根管治療に関しては、こちらの記事をご参考になさってください。
参考リンク:歯医者が「回数がかかる」と言われるワケ ~根管治療の種類~
さてさて、最近は歯医者さんでも、ときどき目にする「CT(コンピュータ断層撮影)」
歯科医院においての普及率(導入率)は10~20%と言われています。
CTという単語はご存じでも、
・実際に撮影を経験したことは無い
・医科では撮影したことあるけれど歯科では撮影したことが無い、
という方が多いのではないでしょうか?
今は歯科領域でも根管治療(歯の根っこの治療)や親知らずの抜歯、小児の歯の萌出不全、矯正治療、インプラント治療など、幅広い分野で活用されています。
今回は聞いたことはあるけれど撮影する機会はそれほどない、歯科用CTのお話です。
1)CTは何がすごいの?
CTはX線を使用して体の断層画像を撮影し、コンピューターを使ってそれらの画像を合成して立体的な画像を作成します。
CT画像は、骨や歯、血管や膿瘍などの内部構造を非常に詳細に観察することができます。
従来のレントゲンは3D(立体)のものを2D(平面)で見る、いわば影絵です。
CTは3Dのものを3Dで見ることができるため、病巣の位置や大きさなどを正確に把握することができるのです。
だからCTは
小さなフィルムで歯を数本単位で撮影するデンタルレントゲンの約2倍、
顎全体を検査して全体を把握するのに用いるパノラマレントゲンの約3倍もの
診断能力を持つんですね。
2)CTとレントゲンの、実際の見え方の違い
まず、パノラマレントゲンでの見え方です。
黄色で囲った部分と、青で囲った部分に注目してください。
黄色の方は、歯医者の目で見ても「もしかして根っこの先に根尖病巣があるかも…でも良く分からないな?」という感じ。青の方は、「問題無さそう」に見えます。
ではCTではどのように見えるでしょうか?
写真は本人の使用許可を頂いています
黄色も青も、どちらにも根尖に透過像(骨の密度が薄くなっている、もしくは骨が無くなっている像)が確認できます。
特に青の方は、病巣が歯の裏側(舌側側)に重なって存在しているため、パノラマレントゲンではまったく分からない、CTでないと検出できない病巣になります。
3)どうしてCTは他のレントゲンより詳細に分かるの?
CT以外のレントゲンは、いわば「影絵」。
被写体の厚みや詳細な形は分からないんです。
歯科医師は、歯の解剖学的な形が頭に入っているので、2Dのレントゲンを見たら「こういう像が写っているということは、きっとこんな感じになっていると思う」という感じで、経験則と統計データをもとに、本来の形を想像しながら治療をしていきます。
しかし影絵は影絵です。
たとえば、下記のような影絵を見た場合はどうでしょうか?
影絵だけを見た場合、
「シルエットからして、テディ・ベアかな?首に何かつけているようだな。テディ・ベアの首についている飾りだから、経験的にチョーカーかリボンかもしれないとは思うけれど。」
くらいは言えるでしょう。
しかし、リボンが蝶々結びされている、と見えているわけではありません。
まさにこれが、CTと他のレントゲンとの「見え方の差」なんです。
4)CT、デンタルレントゲン、パノラマレントゲンの違い
では、歯科領域のどんな病気もCTで撮影すべきか!?…というと、そんなことはありません。
それぞれの良い点、悪い点があり、歯科医師は症例によって使い分けています。
4-1)被ばく量とリスク
- 歯科用CT: 歯科用CTは、一般的なX線撮影よりも被ばく量が高くなります。とはいえ、医科用CTの被ばく量の1/10程度の0.04mSv程度。1年間に自然放射線で受ける被ばく量(平均2.4mSv)の数百分の1の線量になります。
- パノラマレントゲン: パノラマレントゲンの被ばく線量は、約0.005~0.03mSv程度。
- デンタルレントゲン: デンタルレントゲンの被ばく線量は、約0.005~0.01μSv(0.000005~0.00001mSv)程度です。非常に低い被ばく量です。
4-2)情報の正確さや情報量
- 歯科用CT: 歯や顎の詳細な構造を観察することができます。骨の密度や厚さ、歯の位置関係、根尖病巣の詳細は状態、歯にヒビや割れが無いかなど、より詳細な情報を得ることができます。
- パノラマレントゲン: パノラマレントゲンは全体の歯や口腔の構造を一度に撮影するため、全体像を把握することに適していますが、詳細な情報は得られません。根尖病変もある程度大きさが無いと判定できません。
- デンタルレントゲン: デンタルレントゲンは特定の歯や歯周組織を詳しく見ることができますが、X線の影絵である以上、CTよりは得られる情報は少ないです。
4-3)被写体の範囲
- 歯科用CT: 歯を数本だけ、顎骨全体、頭部や咽頭部までと、撮影したい範囲を選ぶことができます。
- パノラマレントゲン: パノラマレントゲンは口腔内全体~顎骨~顎関節までを撮影することができます。
- デンタルレントゲン: デンタルレントゲンは特定の歯や歯周組織を対象としており、口腔内の局所的な領域を撮影します。
4-4)保険診療で使用可能かどうか
- 歯科用CT: 保険診療では「3根管以上の複雑な根管を持つ歯」にCTを撮影して良いとされています。前歯の根っこの治療の場合、基本的には保険でCTを撮影することはできません。
- パノラマレントゲン:3部位以上の撮影部位があるときに撮影します。
- デンタルレントゲン:根管治療時に、もっとも一般的に使用されます。
パノラマレントゲンで顎の骨の状態や、虫歯や根尖病巣が無いかを全体的に確認して、
虫歯や根尖病巣を見つけたら、その部分だけデンタルレントゲンで再確認して、
デンタルレントゲンでも分かりにくい3根管の奥歯では必要に応じてCTを撮影する、
というパターンが多いです。
保険診療では、パノラマレントゲンやデンタルレントゲンで分からない場合にCTを撮影するので、最初からCTのみを撮影する、というやり方は認められていません。
5)CT、マイクロスコープ、Ni-Tiファイルは「根管治療の三種の神器」
*私が勝手にそう言っているだけです
影絵を経験則で補いながら治療するのと、実際に「見える」のでは、診断力に差がでます。
最近は、CT、マイクロスコープ、Ni-Tiファイルなどの先進機器が保険診療でも導入され、治療成績を上げてきています。
その他にもバイオセラミックスセメントにバイオアクティブガラス配合シーラーにと(日本で保険診療では使用できないものも含めて)どんどん技術・材料が進歩しています。
次回は根管治療とマイクロスコープについて、解説していこうと思います。
6)まとめ
いかがでしたか?
- CTは他のレントゲンに比べて、根尖病巣の検出精度が高いです。
- CTは被ばく量が他のレントゲンと比較すると多いです。
- 歯科用CTは医科用CTの1/10程度の被ばく量です。
- CT、パノラマレントゲン、デンタルレントゲンは症例に応じて歯科医師が使い分けています。
最後までお読みいただきありがとうございました。