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CRの材料学とMI(ミニマルインターベンション)について

2025年3月3日

詰め物を歯にひっつける「接着」と、なるべく削らない歯科治療:MI(ミニマルインターベンション)

こんにちは、岩国のつぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 歯科医師の吉村剛です。

ここ20年~30年で日本の歯科材料は大きく発展しました。

今回から、歯科材料に焦点を当てて、お話していきます。

1)接着技術が登場する前の虫歯治療

大昔、歯にくっつく材料はないとされていました。

その時代は、金箔などを詰めていくのが最良の治療法とされていました。

その後、精密な印象(型取)をとれる技術が確立し、それを石膏に置き換え、そこで蝋(ろう)で形を作り、金や銀の合金で歯に詰める技術が確立しました。

それが、いわゆる銀歯です。

その頃の詰めやすい・外れにくい形を分類してまとめたのが、アメリカの歯科医師G.V.ブラック(グリーン・バーディマン・ブラック)が1884年に提唱した、虫歯治療における窩洞(かどう)の分類と形成の原則、ブラックの窩洞という分類です。

歯につめものを引っ付ける(接着)技術が発展した今となっては、ブラックの窩洞は「削りすぎ」と言われるようになりました。
しかし、接着技術が発展する前(ほんの20~30年前まで)は、削る量を最小にする方法とされていました。

僕が歯科医師になった20年ほど前は、リン酸亜鉛セメントなどで、歯と詰め物被せ物っをくっつけていました。

この『くっつけて』は、実は「接着」ではありません。

接着と区別して「合着」と言われています。

リン酸亜鉛セメントは、薄く固まる性質があります。

隙間を埋めて、機械的嵌合力(異なる材料や部品が物理的に結合する力)を発揮させていました。

2)接着技術の登場

1990年代からのプライマー、ボンディングの進化とレジンの発達により、材料と歯を科学的に引っ付けることができるようになりました。

「接着」の登場です。

たとえるならば、

・「合着」は木工用ボンド

・「接着」はアロンアルフアのような瞬間接着剤

みたいなものです。

3)歯科の「接着」の仕組み

では、「接着」は、どうして大きな力で歯と引っ付くことができるようになったのでしょうか?

歯の少し内側の構造(象牙質)は、コラーゲン繊維とカルシウム(正確には、ハイドロキシアパタイト)で出来ています。

歯の内部構造の図

詰め物を入れるために歯を削った後、削った部分の表面を酸処理すると、象牙質のカルシウムが溶けてコラーゲンの繊維がむき出しになります。

削った面にコラーゲン繊維が絨毯のようにフサフサと広がっているところに、前処理剤(プライマー)を流し込み、コラーゲン繊維と樹脂が混ざり合った層を作ります。

この、樹脂を含んだコラーゲン繊維の層が間に入ることで、材料が歯と科学的に「接着」するのです。

そうは言っても、歯に詰め物や被せ物をくっつけても、外れてしまったということを経験されたり、見聞きされた経験がある、という方もいらっしゃるかもしれません。

次に、接着したのに外れてしまう原因についてもご説明します。

4)接着したのに詰め物が外れてしまう原因

4-1)詰め物や歯が割れた/歯と詰め物の間に虫歯が出来た

レジンは圧縮には強いのですが、引っ張る力に弱い特徴があります。

よって、噛む力のかかり方によっては、歯とレジンの境目などに大きな力がかかってしまい、詰め物や歯が割れてしまうことがあります。

また、目に見えない小さなヒビが原因で虫歯になってしまうこともあります。

この場合はいくら接着がしっかりできていても、詰め物は外れてしまいます。

その他にも、残っている歯の質が少なすぎて、外れてしまうケースもあります。

そのような場合の解決法として、歯の土台や、詰め物のデザインを変更することで、外れにくくできることがあります。

4-2)接着強度が不足した

基本的に、大手歯科材料メーカーの接着セメント(歯科用の糊)は非常に強度があります。
しかし、選ぶ詰め物によっては、接着強度が出にくいものがあります。

代表的なものが保険の被せ物のPEEK冠です。

これは接着が非常に難しい材料で、丁寧に接着しても、他の素材の被せ物と比較すると接着強度が低くなってしまう傾向があります。

対策として、土台の形の工夫で取れにくくする、PEEK冠専用の接着セメントを用いるなどを行います。

PEEK冠

4-3)接着を阻害する因子があった場合

接着を阻害する因子は、何だと思われますか?

答えは、「水」と「空気」です。

歯科用の接着剤は、人体に反応する水溶性の部分(水に溶ける性質の部分)と、樹脂と反応する脂溶性の部分(油に溶ける性質の部分)を持っています。

ボンディング材はアルコールの配合量などで、厳密に水溶性と脂溶性の配合割合を調整しています。

唾液や呼気の水分などにより、水分比率などが少しでもおかしくなると、接着力が下がってしまいます。

そして、空気は樹脂の「硬化阻害因子」であり、しっかり固まるのを邪魔してしまいます。
歯科用接着性セメントを使用する場合は、当院では「オキシガード」という空気を遮断するジェルを使うなどして、接着力をUPさせるようにしています。

*スーパーボンドと言う、空気が接着阻害因子にならない歯科用セメントも存在します。

4-4)TCH(歯牙接触癖)や歯ぎしりなどの、詰め物が取れやすい習慣がある

どれほど接着力が強力でも、それを上回る強い外力が日常的にかかってしまうと、外れてしまうことはあります。

実際の臨床では、これが最も多いかもしれません。

このようなケースでは、接着の力も借りつつ、伝統的なブラックの窩洞で詰め物を作る場合もあります。

5)接着がもたらしたMI(ミニマムインターベーション)歯科

接着剤の進化によって、歯と詰め物・被せ物を、直接くっつけることができるようになり、歯の削り方が変わりました。

より歯を削る量を少なくすることができるようになりました。

それがミニマムインターベンション(最小の侵襲・できるだけ歯を削らない治療)といわれる概念です。

1884年に提唱されたブラックの窩洞は、合着セメントしか世の中にない前提で、取れないようにするための削り方が必要でした。

しかし今は、接着の力を借りて、「取れない削り方」をする必要性が小さくなったためです。

接着と合着の対比図

接着と合着の対比についての概念図

6)技術革新が推し進める歯科治療の未来

歯科の進歩や流れは、材料の特徴や進化が大きく影響しています。

これはスマートフォンの普及・進化や、AIの進化とともに、私たちのライフスタイルそのものが変化していくことと、よく似ています。

技術の進化により概念が変わってきています。

今回は詰め物・被せ物を歯にひっつける接着性セメントのお話でした。

詰め物・被せ物の材料なども、ここ10年で新しいものがどんどん登場してきました。

もちろん、いわゆる保険の銀歯(金銀パラジウム合金)や、最古の歯科材料である金も、まだまだ現役です。

歯科医院に行くと、いろいろ説明されるけれど、あまりピンと来ないという方も多い、「歯科の材料学」。

次回は接着性とについてと、現在よく使われる材料の材料学などを、深掘りしてお話していく予定です。
ぜひご覧ください。

7)まとめ

いかがでしたか?

・昔は歯に接着する材料がなく、機械的嵌合力で詰め物を歯に付けていました。

・歯のコラーゲンと樹脂を含有する層が作れるようになったボンディング剤の進化により、歯と詰め物が科学的に「接着」できるようになりました。
ここ30年ぐらいの歯科材料の進化です。

・材料の進化に伴い、最小の侵襲で歯科治療するというミニマムインターベンションが可能になりました。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!

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