外傷歯の治療について(シリーズ2)
2022年9月24日
外傷歯の治療について(シリーズ2)
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。
今回も外傷シリーズで行こうと思います。
以前にお話ししたのは1歳ぐらいのかなり小さなお子さんでしたが、今回は小学校~中学生くらいの時期によく起こる外傷についてお話していきます。
小学生から中学生の間によく起こる外傷例
Bくんは、11歳半の男の子。
友達とスポーツ少年団でハンドボールを頑張っています。
試合形式の練習中に友達と激突し、前歯付近を打ちました。
上唇と上の前歯の歯茎から出血があり、前歯がぐらついているようです。
歯が欠けているかはよくわかりません。
1)スポーツでの外傷
小学~中学生の歯の外傷は、スポーツによるものが多くなります。
一般的に体の接触が多いスポーツでは、特にリスクが高い傾向にあります。
そのため、空手の組手競技などでは、スポーツ用マウスピースの使用が求められています。
球技でのケガも多いですが、競技の内容によって違いがあります。
歯のケガが少ないスポーツ
テニスなど
歯のケガが多く報告されているスポーツ
体の接触が多いラグビー、バスケットボール、ハンドボールなどでは多発しています。
(令和3年学校歯科医会会雑誌No2参照)
そのため、歯科医としては、スポーツ用マウスピースを「可能であれば」というより、「ぜひとも」つけていただきたいと考えています。
2)口を含む頭頚部のケガ
口を含む頭頚部のケガには、頭頚部の外傷(打撲、切り傷、歯のケガもここに含まれる)から、脳震盪、脊髄損傷など重篤なものもあります。
脳震盪など重篤なものの場合、動かさない方がよい場合も多いです。
まずは命に係わるものかどうかを判断しましょう。
歯科医院でも、けがした部位のみではなく、顎骨等のチェックも行っています。
実際、介在骨折というパターンで、打った部位ではない場所が骨折している(顎の下を打った、顎関節部が折れていた、など)ということがあります。
このような大きなけがの場合、大学病院などでの処置となります。
3)ぐらついている歯の処置
歯を打った場合、ほとんどすべての歯で振盪といわれる状態になっています。
歯は歯槽骨に、歯根膜といわれる血管、繊維で繋がっています。
揺れている場合は、その歯根膜のどこかに亀裂、断裂が起きています(これが振盪)。
その断裂部位が歯根の先端部分であれば、歯の歯髄が壊死して後日変色が起きます。
見ただけでは断裂部位は判断できません。
歯髄の活性によっては歯髄壊死が起きない場合もあるので、歯が揺れている場合は、まず固定して安静にしておくのが重要です。
4)歯が欠けた場合
前回にも少し記載していますが、大きく3パターンに分けられます。
・軽度の歯冠破折(しかんはせつ:歯の表面が欠けた)
ほんの少し欠けただけなら、様子見することもあります。
歯科用プラスチックで、欠けたところを埋めることもあります。
・歯冠破折(しかんはせつ:歯が欠けた~割れた)
神経が出てしまうほどの割れ方をしてしまった場合は、根っこの治療をします。
・歯根破折(しこんはせつ:歯の根っこが割れた)
歯の根っこが割れてしまうと、残念ながら抜歯するしかないこともあります
ただ、12歳ぐらいの若い歯髄は生命力、治癒力が強く、こちらの想像を超える治り方をする場合があります。
歯髄壊死をしている部分を取り除いてやれば、結果としては歯や歯根の長さはだいぶ短くなったりしますが、なんとか歯として残せることもあります。
まとめ
・まずは怪我の内容、体の状態を広い視野で確認しましょう。唾液等で出血は大きく見える場合もあります。
・ぐらぐらしている歯の場合は、まずは固定して安静にすることが重要です。
歯の破折はその折れた部位によって治療方法や予後が異なります。
若い永久歯の場合は、歯根破折など厳しい状態でも残す努力と歯髄の生命反応の結果、残せることもあります。
・外傷は年齢、歯の受傷具合で方針が大きく異なります。
12歳ぐらいのお子さんの場合、受傷状況を教えていただけると治療の参考になる場合が多いです。
また、1度治ったところでも、2度目のダメージは強く出る傾向にあります。
何度もぶつけないように気を付けましょう。
いかがでしたか?
けが予防のためにも、スポーツ用のマウスピースはできればつけていただきたいと考えます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
歯の怪我:外傷歯の治療について(シリーズ1)
2022年8月26日
歯の怪我:外傷歯の治療について(シリーズ1)
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。
歯の怪我(外傷)…どんなイメージを持っていますか?
怪我はある日突然、起こります。
当院では小中学校が近いこともあり、「急に歯や口を怪我してしまった!」と受診されるケースも多いです。
歯の外傷にもいろいろなパターンがあり、一度にすべては書けません。
そこで外傷シリーズとして、よくある歯の外傷のパターンを解説させていただこうと思います。
歯の外傷の種類
1-1)歯が割れた
・軽度の歯冠破折(しかんはせつ:歯の表面が欠けた)
ほんの少し欠けただけなら、様子見することもありますし
歯科用プラスチックで欠けたところを埋めることもあります。
・歯冠破折(しかんはせつ:歯が欠けた~割れた)
神経が出てしまうほどの割れ方をしてしまった場合は、根っこの治療をします。
・歯根破折(しこんはせつ:歯の根っこが割れた)
歯の根っこが割れてしまうと、残念ながら抜歯するしかないこともあります。
1-2)歯がぐらぐらする・抜けた
・歯の亜脱臼(あだっきゅう:軽い打撲のような状態)
歯を打ってしまったけれど、様子見で大丈夫な状態です。
・歯の脱臼(強い打撲のような状態~歯が抜けかけた状態)
歯を打って、ぐらぐらしてしまっている状態です。
歯が植わっている歯槽骨(しそうこつ)にダメージを受けています。
従って、動揺している歯では固定が必要です。
ワイヤーで添え木を行って固定します。
それでも歯の神経や血管がダメージを受けており、後で歯の変色が起きる場合も。
変色が起きたら根の治療が必要となる場合が多いです。
・歯の嵌入(かんにゅう:歯が歯茎にめり込んでしまった)
大人ではほぼ起きません。子どもの外傷でよく見られます。
子どもであっても、嵌入(かんにゅう)した歯が永久歯の場合は、とても予後が悪いです。
乳歯の場合は、ふたたび生えてくることを期待して様子見することが多いです。
・歯の脱落(歯が抜けた)
再植(さいしょく:抜けた歯をもとの歯茎に戻すこと)が可能な場合もあります。
歯の保護液(学校の保健室にあることがあります)や、牛乳、お口の中(唾液)に漬けた状態でなるべく早く歯科医院に受診してください。
抜けた歯を水道水で洗ってしまうと、歯の根っこの表面の細胞が死んでしまうことで、歯を戻せなくなってしまいます。
歯の外傷の予後と考え方(文化や国などによる)の違い
歯の予後について
生えたばかりの歯の怪我は、乳歯でも永久歯でも、予後はあまりよくありません。
生えかけの歯の根の先は未完成で、「歯になっていく組織」がそこに存在しています。
歯になっていく組織は出血しやすく、多めに出血すればその歯の予後は悪化しやすい傾向にあります。
小さなお子さんの怪我は突然起こってします。
怪我をしたら、治療は待ったなしです。
まずトレーニングして、歯科医院に慣れてから歯科治療する、といったことはできません。
お子さんが号泣する中、出血を伴う治療をがんばってもらうしかないケースも、少なくありません。
予後に対する国ごとの考え方の違い
契約社会のアメリカでは、予後が不安定な乳歯では、抜歯となることが多いようです。
一方日本では、なるべく残す方向で、まず考えてみることが多いです。
医学的にはどちらも間違っていない判断だと思います。
次に、低年齢のお子さんの怪我のよくパターンについて、お話していきます。
1~2歳児の歯の外傷の代表的パターン:歯の嵌入(かんにゅう)
Aくんは、1歳半の男の子。
まだ歩きは覚束なく、公園で遊具に顔から激突してしまいました。
上唇と上の前歯の歯茎から出血があり、生えたばかりの乳前歯が2本、歯茎にめり込んでしまいました。
この年齢の外傷の、かなり代表的なパターンです。
歯が歯茎にめり込んだ状態(陥入:かんにゅう)は、その歯の周囲骨の広い範囲に骨折が起きている状態です。
永久歯の嵌入(かんにゅう)
永久歯では、上にも書きましたが、最も予後が悪いとされています。
永久歯の治療は、めり込んでいる歯を定位置まで引っ張り出し、歯の根の治療をして、歯の定着を待ちます。
乳歯の嵌入(Aくんのケース)
乳歯では少し状況が異なります。
幼児の骨は柔らかく、生えた直後ぐらいの歯であれば、80%くらいの歯が、自然に生え直してくるようです。
ただし、生え直してきた歯にも、なんらかの症状がみられることが多いです。
50%くらいは、無症状か、神経の部分が歯の質に置き換わってしまう歯髄狭窄(しずいきょうさく)という状態(治癒の1パターンとも考えられます)になります。
残りの50%くらいは、根っこの治療が必要となります。
乳歯の場合は、めり込むぐらい骨にダメージがあった割には、良い治り方をすることが多いんですね。
まとめ
・動揺している歯では、歯の周囲の歯槽骨にダメージがあります。
治療は、ワイヤーで添え木を行って固定します。
それでも歯髄につながる神経、血管がダメージを受けて、後日歯の変色が起きる場合があります。
その場合、根の治療が必要になります。
・小さなお子さんの場合、けがは突然起こります。
出血や根の完成度により予後は異なります。
日本ではなるべく残す努力をしますが、海外では不安を残さないため抜歯をすることもあります。
文化や国により考え方が異なります。
・歯の陥入(かんにゅう・めりこむこと)は広範囲に歯槽骨の骨折が起きています。
永久歯では最も予後が悪いとされています。
乳歯では少し状況が異なり、再萌出(さいほうしゅつ・また生えてくること)する場合があります。
歯の外傷は、年齢、歯の受傷具合で方針が大きく異なります。
早く治療することで、その後の予後が変わることもあります。
まずはお電話で、できるだけ早くご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
歯科のレーザー治療ってどんなことをしているの?
2022年4月28日
歯科のレーザー治療ってどんなことをしているの?
~音が小さい、痛みが少ない、治癒が早い歯科治療を実現するレーザー治療とは~
こんにちは、つぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。
つぼい歯科クリニックではレーザー設備を導入しております。
お子さんの治療でも使うこともあるのですが、従来の治療法と比較して痛みが少なかったり、治癒が早いなど、良い特徴をたくさん持っています。
回は小児歯科範囲が中心ですが、レーザーを用いた治療について解説してみようと思います。
レーザー治療のメカニズム
レーザー治療とは、強い力を持った特殊な光を患部に照射して行う治療です。
組織に吸収された光が熱エネルギーに変化し、分子構造を破壊や変化して患部に作用し、治療効果をもたらします。
かなり強い力で照射した場合、レーザーはそれこそレーザービームとして、皮膚など組織切開や、時間はかかりますが虫歯部分の処置(切削ではなくて蒸散:散らして病原性をなくす)ことができます。
一方で、弱めの力で照射した場合や切開部位の周囲では、温熱・光線作用が働き、止血効果や、細胞の活性化、殺菌作用が期待できます。
人体に作用する治療法には、外科的な方法や、薬物などの内科的な方法だけでなく、温熱、光線などを用いた方法が昔から存在しました。
レーザー治療は温熱・光線療法の良いとこ取りしたような治療法であるといえます。
2)小児歯科でのレーザー治療
①小帯などの切除
小帯が歯並びの悪化の原因(空隙歯列など)の場合、上唇小帯や舌小帯などの筋を切った方がいい場合があります。
レーザーで切開すれば、出血や縫合する量が減らすことが可能で、通常の治療法よりも治癒も早くなります。
②歯を折ってしまった場合
転倒などの事故で歯を折ってしまった場合、神経が少し出てしまっている場合があります。
根が未完成の場合、神経の処置を大きく行うことは勧められません(状況によりますが)。
このような場合にレーザーを用いると、止血効果、殺菌効果、鎮静効果が期待できます。
③根未完成な歯の根の治療
外傷や虫歯の治療の結果、不幸にも、根が未完成にもかかわらず、痛めてしまう場合があります。
一般的に根未完成の治療は直りが悪く、痛みが出やすいです。
その理由は悪い部分は取り除く必要があるが、取りすぎると根周囲の根を完成させる細胞にダメージを与え、そこに細菌が増殖しやすいためです。
お互いが関係しているため、なかなかバランスが取れません。
そこにレーザーを用いると、治癒力が期待できるため、あまり触りすぎずに治せる可能性があります。
④小さな虫歯やしみる部分の処置
乳歯や生えたての幼若永久歯は、完成した永久歯と違って、タンパク成分が多く含まれます。
そのため、歯の象牙細管内での変動が起きやすく、しみたりしやすいです。
また、歯が柔らかいため、虫歯の進行が早いという特徴があります。
そういう部分でタンパク成分を変性させて固定化し、治癒効果を向上させるためにもレーザーは向いています。
子どもにレーザー治療をすると、大人よりも痛みが強く出てしまうケースもある
お子さんの治癒力はかなり驚くべきものがありますが、体がその許容量を超えた場合、一般的に炎症や痛みは大人よりも強く出るという特徴があります。
そのため、炎症や痛みの対策は、可能な限りの工夫や処置が必要です。
レーザーは、通常の器具で虫歯を削るよりも時間がかかかることや、スムーズに削れるわけではないなど、欠点が無いわけではありません。
しかし、メリットも多いため、レーザーを使用した方が良い症例では積極的に取り入れています。
まとめ
- レーザーを用いた治療では、外科的な処置と光線・温熱療法を組み合わせたようなことが可能となり、止血効果、殺菌効果、鎮静効果などが期待できます。
- 小児歯科領域では、外科的な処置、根未完成な歯の処置など適応範囲が多いです。
- 時間がかかるとか、歯など硬組織には適応がやや難しく、なかなか削れないなどのデメリットもありますが、治療においてよい効果が期待できます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
歯が生えてこない?
2022年3月28日
歯が生えてこない?
こんにちは、つぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。
今回は歯の生え変わりをテーマにお話していきます。
つぼい歯科クリニックでは、必要に応じて顎全体を確認できるエックス線写真(パノラマエックス線写真)を撮影します。
X線写真では、虫歯や歯周病、そしてお子さまの場合は歯の生え方について。異常がないかどうかを確認しています。
お子さまの乳歯が抜けた後に、なかなか永久歯が生えてこない場合には、保護者の方も「どうなっているんだろう?」とご心配になりますよね。
乳歯が抜けた後、なかなか永久歯が生えてこない場合には、以下の2パターンがあります。
- 骨の中の永久歯は正常であるけれども、なかなか生えてこない場合
- 何らかの異常があり、問題があって処置が必要な場合
くわしくご説明していきます。
歯の生え変わりは歯によって時期が決まっている
歯の生え変わりの流れ
通常は6歳ごろ、下の前歯(A)から生え変わりはじめます。
次に、上の前歯が続き、第一大臼歯が生えます。
その後、しばらく停滞します(1年~2年)。
9~10歳ごろから乳犬歯、乳臼歯が一気に抜けていきます。
1)永久歯が生えてこなくても様子を見ていい場合
上の乳前歯は指しゃぶりしていたり、何回か打った(ケガをした)ことがあるような場合は早めに抜けてしまうことがあります。
傷は一度完全に治ってしまうと、皮膚や骨が固くなって、1年ぐらい生えてこないこともあります。
定期的なレントゲン検査で、順調に萌出にむかって育っているかはチェックしないといけませんが、経過観察のみの場合も多くあります。
2)スペース確保(=隙を保つ)のための装置が必要な場合
乳臼歯(奥歯の乳歯)が大きな虫歯になった場合、残念ながら早めに抜けてしまうことがあります。
6歳臼歯は隙間があれば前へ移動する性質があります。
つまり、本来あるべき乳歯が早く抜けることで、永久歯が生えてくるために必要なスペースがなくなってしまいます。
よって、早くに抜けてしまった乳歯のスペースに永久歯が生えてこれるように、スペースの確保の治療(保隙:ほげき)が必要になります。
保隙の治療は1本ぐらいの場合は保険が適応となる症例もあります。
また、6歳臼歯が生える方向に問題がある場合、乳歯が悪影響をうけて、乳歯も早めに抜けてしまうことがあります。
後継永久歯がなかなか生えてこない場合、奥歯であれば周囲の歯が動いてしまうので、スペース確保が必要です。
3)永久歯が生えてくるように積極的な処置が必要な場合
永久歯の歯根は、完成するまでは萌出する(ほうしゅつ:歯が生えてくること)力があります。
しかし、歯根が完成してしまうと、萌出する力はなくなります。
宇宙ロケット発射ブースターみたいなイメージですね。
永久歯の萌出はかなり繊細なメカニズムです。
ほんの少しの邪魔がある場合も、なかなか生えないと言われています。
永久歯の萌出する道筋に邪魔がある場合(具体的には異常な乳歯や歯牙種、過剰歯など)や、歯根が完成してしまったけれども、生えてこない場合は、治療が必要となります。
治療は具体的には、
- 邪魔をしている乳歯や過剰歯などの抜歯
- 生えてこない永久歯の上の部分の骨や歯肉に穴をあける(開窓処置)
- 生えてこない永久歯にボタンをつけて、口の中にむけて引っ張ったる(牽引)
などを行います。
いずれにしても、レントゲン検査で1)~3)のどれになるか判定を行います。
「あれ?永久歯が生えてこないな?」と思われる方は、お気軽にご相談ください。
まとめ
- 乳歯では、歯の萌出には正しい時期と順番があります。
レントゲンの診査によって、経過を見守るのみの場合、スペースを保って様子を見る場合、積極的な処置が必要な場合に分けられます。
- 奥歯の乳歯の早期脱落の場合、なかなか次の永久歯が生えてこないので、スペース確保するための保隙装置が必要な場合があります。
- 永久歯の萌出は、歯根が完成するまでがリミットであり、処置できる時期が限られます。
萌出を邪魔する異常な乳歯、歯牙種、過剰歯などがあった場合、積極的な抜歯や小手術が必要です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
固いものを食べたら顎が発達するというのはホント?子どもの発達と食べ物の固さについて
2022年2月27日
固いものを食べたら顎が発達するというのはホント?子どもの発達と食べ物の固さについて
こんにちは、岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。
最近、小さなお子さんの保護者の方から、よく食事のことなど質問されます。
特に「うちの子、固いものを食べないんです」といった質問が多いです。
食べることは生きることに直結しており、特に子どもでは、発達が摂食嚥下に大きくかかわります。
そこで今回は歯から「食」、特に固いものについてお話していきます。
1)小児の発達と食の形態について
一般的に、離乳食のはじまる時期は生後5-6か月です。
そのころの離乳食は、おかゆ的な、流し込むようなものが多いです。
舌も前後にしか動きません。
離乳中期と言われる、生後7-8か月では、歯茎で押しつぶせる程度の固さが良いとされています。
舌も上下でも動くようになります。
1歳半程度までくると、第一乳臼歯(D)まで生えてきます。
このころになると、赤ちゃんの空間認識能力が進み、上手にスプーンを向かい入れるようになります。
そのため、ある程度の食感があるものが望ましいとされています。
離乳が終わると手づかみ食べの時期となり、一般食となります。
成長に合わせた食形態で食べられないと・・・
これらの時期に適切に食べられてないとどうなるでしょうか?
結果は、詰め込み、丸呑みとなってしまいます。
時期によっては喉に詰まって窒息しそうになる場合もあります。
離乳期の赤ちゃんが丸呑みしてしまう原因
離乳期の赤ちゃんが丸呑みしてしまう原因には、
- お腹が空いていない、または、お腹が空きすぎている
- 食事形態が適切でない
などが考えられています。
常に失敗してしまう場合は、焦らずに離乳にむけての食形態を一段階前に戻すことも大事です。
食事の形態を考え、本人の発達を待ちましょう。
また、子どもは他人の観察で学習します。
大人や兄弟などと一緒に食事をする経験や、いろんな食材を食べる経験が大事です。
2)固いものを食べると顎(あご)が発達するというのはホント?
あごが小さなお子さんの場合に、「固いものを食べたら顎が大きくなりますか?」という質問がよくあります。
固いものを食べたら、ほんの少し大きくなる可能性はあるようですが、誤差の範囲と言われています。
歯列不正が解消されるまでに、顎が大きくなることは無いようです。
一方で、固いものを食べることで、顎の周囲の筋肉が発達し、咀嚼が上手になる効果があります。
異常嚥下や、それに伴う歯列不正(歯並びが悪くなること)は減少したり、改善したりする可能性があります。
3)食べ物の固さと食べ方について
咬む(かむ)というのは、大雑把にわけて2パターンに分けられます。
- チョッパータイプ・・・食材を噛んで(かんで)切り分けること
- グラインディングタイプ・・・食材をすり潰すこと
あまりにも固い食べ物は、前歯でなく奥歯で切り分けるという作業を無理やりやっている場合が多いです。
そのため、老年期では歯や歯周組織に対してダメージを与えてしまう場合があります。
大人でも咬み切れなかった食材は、丸のみせざるを得ず、これはよくありません。
4)食文化によって食べ方が変わる
口の構造や食べ方は人種や国の違いが出ます。
日本人が多めに食べてきた食材は、噛み応えがあると言っても、すり潰せる食材(穀物など植物性由来のもの)が多めです。
文化の違いや食べ方の違いも楽しみながら、孤食(こしょく:一人で食事をとること)を避けて、豊かな食生活を考えていきましょう。
まとめ
いかがでしたか?
- 小児においては、歯の萌出や発達と共に食事の形態は変える必要があります。
発達に合わせていかないと、食塊を上手に分解できず、丸呑みになってしまう可能性があります。
- 固いものを食べることにより、顎周囲の筋肉の発達や咀嚼運動の上達が期待できますが、顎が大きくなることは無いようです。
- 老年になるとあまりに固すぎるものは、奥歯で切り刻む動きを無理にするため、歯周組織にダメージを及ぼす場合があります。我々も文化の違いや食材の違いもふまえながら、適切な、豊かな食生活を考えましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
虫歯のなりやすさと体質について
2022年1月14日
岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村剛です。
現在、当院には虫歯予防に努力してくださっている方が多く通院してくださっています。
とてもうれしく思っています。
以前に作ってしまった、削るほどではない初期虫歯を管理するのも、我々歯科医師の重要な役目です。
参考リンク:削らなくても治る虫歯があるって本当?
削らなくても治る虫歯があるって本当?
しかし、残念ながら、虫歯ができてしまう方もおられます。
そこで今回は、お子さんの虫歯のなりやすさと体質を中心にお話していきます。
大人はまた少し違うので、またいつか解説します。
1)虫歯のなりやすさを左右する因子
キースの輪
歯科医師が大学で最初に習う、キースの輪と呼ばれる虫歯の原因因子同士の重なりを示すものがあります。
画像参照https://www.apagard.com/oralpedia/oralcare/details/Vcms4_00000101.html
細菌、歯質、糖分、時間の重なりで、多く重なるとリスクが高まります。
最近の統計学的なアプローチで検討している論文では、虫歯の原因因子の重要度ランキングでは
1位 唾液量
2位 乳歯う蝕の経験歯数
3位 菌の量
4位 プラーク(歯垢)量
5位 飲食回数
6位 フッ素使用頻度
という順でした。
個人的な感覚にはなりますが、この他に虫歯の重症度(大きさ)なども、重要だと考えています。
2)小児と唾液について
イグノーベル賞という、人々を笑わせ、考えさせられるユニークな研究などに贈られる賞があります。
2019年のイグノーベル賞に、小児の一日唾液量を研究した、という明海大の渡部教授の研究がありました。
専門外の方にとっては、『なぜ小児の一日の唾液量を知りたいと思ったのか』が笑いポイントなのでしょうが、歯科医師、特に小児歯科医師にとっては「知りたかった!」という重要な研究です。
それによると、小児(6歳児)の唾液量は500mlで、成人よりも若干少ないという結果でした。
大学病院勤務時代、小児がんなどのため、抗がん剤を投薬されていたお子さんたちの口腔内を診察する機会がありました。
唾液量や唾液の緩衝能(虫歯を防ぐ効果です)などが低く、虫歯リスクはどうやっても高いままでした。
抗がん剤ほどではありませんが、多くの薬で、唾液量の減少が見られることが知られています。
薬を常用している場合は注意が必要です。
3)歯質と虫歯リスクについて
学校健診などでは、細菌が原因でなくても歯の状態が悪ければ、う蝕と診断されます。
特にエナメル質形成不全は虫歯と診断され、最近よく見かけます。
エナメル質形成不全についてはこちら
参考リンク:エナメル質とその形成不全について~治療と原因~
エナメル質とその形成不全について~治療と原因~
ちなみに近年の発表では、エナメル質形成不全の歯が一本でも見られる人の発生率は20-25%にも昇るようです。
4-5人に1人はそういう歯をお持ちの割合になります。
また、黄色人種はそのほかの人種に比べてエナメル質が薄い傾向にあり、虫歯が進行しやすく注意が必要です。
まとめ
- 細菌、歯質、糖分、時間のリスクが重なり、虫歯ができます。
- 虫歯の原因因子は、唾液量、乳歯う蝕の経験歯数、菌の量、プラーク量、飲食回数、フッ素使用頻度などがあります。
- 唾液量、歯質などは個人差が大きいですが、総じて日本人は歯が強くない傾向にあります。
以上のような要素を考えながら、予防対策を行うことが重要です。
診療室では、虫歯に最もなりやすい人に対しても、なりにくい方法を考えます。
そして、その対策を説明しています。
「チョコ止めましょう」
「グミやめましょう」
「そろそろ卒乳が必要です」
など、飲食習慣の改善も含めたお話になることもあります。
そのため、少し厳しく聞こえる場合もあるかもしれません。
しかし、個人の体質や虫歯リスクに対して、最も効果的な予防や処置を行うことが重要と思っています。
ご不明な点や、虫歯予防について話が聞きたい場合は、お気軽におたずねください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
小児歯科とアレルギーについて
2021年12月13日
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村剛です。
最近、アレルギー体質の方が多く来院されています。
当院も、様々な配慮をしつつ歯科治療を行っています。
もしアレルギーが起きた場合の酸素設備やエピペンという薬剤を常備し、緊急時の対応研修等も定期的に行っています。
歯科医療では多くの薬品や材料を使います。
日本全体でアレルギー体質の方が増え、色々なものに対してアレルギーを出す人が増えてきている印象です。
そこで今回は小児歯科とアレルギーについて、お話していきます。
1)アレルギー反応の種類
ひと口にアレルギーといってもその種類・症状は様々です。
抗原(アレルゲン)の種類によって、引き起こされるアレルギー症状も違ってくるからです。
代表的なアレルゲン
- 食物
- 薬物
- ハウスダスト(ペット類の毛やダニなど)
- 花粉
代表的なアレルギー症状
- じんましん
- 皮膚炎
- ぜん息
- 発熱
- 喉頭浮腫(呼吸困難を起こします)
また、アレルギーの種類は、IgE抗体によって起こるⅠ型から、Ⅳ型までの4種類に分けられます。
それぞれ免疫機構や抗体の種類などの違いによって発症する病気も違ってきます。
アレルギー疾患の発症には遺伝的な体質も関わっているといわれます。
アレルギー体質・アトピー素因とよばれるもので、こういった人たちはIgE抗体がつくられやすい体質です。
アレルギー反応はその程度、状態によって分けられます。
程度の低いものはアレルギー反応と呼ばれ、じんましんや皮膚炎など。
呼吸器症状や血圧にまで影響する重篤なものは、アナフィラキシー(ショック)と呼ばれ、エピペンなどの使用が必要となる場合があります。
2)アレルギーと歯科で使う薬品・材料
平成20年の皮膚科学会の調査によると、日本のアナフィラキーショックの多い原因は抗ガン剤、造影剤、血液製剤、抗菌薬です。
それ以下のものとして、痛み止めに用いられる非ステロイド系の鎮痛薬(代表的なものとして、ロキソプロフェンなどの痛み止め。カロナール/アセトアミノフェンは少し作用機序が異なり、アレルギーは比較的出しにくいと言われています)、麻酔薬も挙げられています。
これらのうち、抗菌薬、非ステロイド系鎮痛薬、麻酔薬は歯科でよく使います。
麻酔薬でのアナフィラキシーの頻度は1%程度と言われています。
以上のような薬品は使うべきでないという意見もあるかもしれませんが、医療はメリットとデメリットの両面があり、メリットが上回れば、薬品は適正に使用すべきと考えられています。
フッ素はアレルギーを起こすか
歯科でよく用いられるフッ素は、アレルギーの可能性はゼロではないものの、非常に稀です。
アレルギー症状は起きない、とアメリカの皮膚科学会でも定義されています。
ただ、歯磨き剤でのアレルギー反応の報告はいくつかあります。
原因は、添加されている他の材料と考えられています。
詰め物、被せ物による金属アレルギー
詰め物、被せ物による金属アレルギーは、その反応に時間を要すアレルギーⅣ型と言われています。
金属が長い時間で溶けてイオン化して発症します。
金属ではアナフィラキシーショックは起こりずらいと考えられます。
しかし、全身に吸収されて遠隔部位に皮疹が生じる全身性接触皮膚炎(全身型金属アレルギー)なので、アトピー性皮膚炎の悪化や、皮膚炎が治らない時、原因が歯科金属であることがわかりにくいことが問題となっています。
対策としては、金属から非金属の詰め物、被せものに変更することで、徐々に改善していきます。
アレルギーを起こさない最大の防御法は、虫歯を作らないこと
小児受診をされると、初めてのこと、行為が多く、ご心配な点は多いかと思います。
使われる薬剤や材料によるアレルギーがご心配な方は、『虫歯にならない』『予防をがんばる』これが最大の対策だと思います。
アレルギー体質の方も増加しています。
ご心配な方、重篤な方は、アレルギー科や皮膚科、大学病院での検査や加療が必要な場合があります。
口腔内の状態を含め、ベストの方法を考えましょう。
まとめ
いかがでしたか?
- アレルギー反応は食物、薬、ハウスダストなど様々な原因で発症し、体質や素因で反応の出方が異なります。
急激に発症し、重篤なものには、アナフィラキシー(ショック)があります。
- 歯科で用いる抗菌薬、非ステロイド系鎮痛薬、麻酔薬などでもアレルギー反応が出るリスクはあります。
治療上のメリットが多ければ使うケースもあります。
- 金属アレルギーと直後のアレルギー反応は、発症の仕組みが異なります。
虫歯にならないことが最大の対策です。頑張って予防していきましょう。
萌出障害などの小児歯科領域での歯科用CTについて~へんかと経過と診断~
2021年11月27日
こんにちは、岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。
当院には、歯の生え方などに問題があるお子さんが多く来院されます。
歯の生え方や、生える前の永久歯がどうなっているかは、通常「パノラマエックス線写真」と呼ばれる顎全体のレントゲンで判断します。
それでもよく分からない場合、CTで精査をすることもあります。
当院でも、骨の中の永久歯の状態や、他の歯との位置関係を確認するためにCT撮影をする機会が増えてきました。
そこで今回は小児歯科とCTについてお話していきます。
1)歯科で撮影するレントゲンの種類
歯科医院で撮影するレントゲンは主に3種類です。
デンタルエックス線写真
1-2本の歯をチェックする撮影で、問題のある部分が主に黒く写ります。
一度に撮影できる範囲が狭いです。
しかし、わずかな被爆量で詳細に歯を診ることができるのが特徴です。
ただし、デンタルエックス線写真は、影絵のようなものです。
3次元的な位置関係は精細に分かるわけはありません。
「X線の入射角に対する影の長さで推定する」という感じです。
パノラマエックス線写真
顎全体を撮影をします。
末端にひずみがありますが、広範囲を診ることができるのが特徴です。
詳細に診ることには向いていません。
顎全体を虫歯がないか、重度の歯周病がないか、生える前の永久歯の位置は問題ないか、などを大まかに判定することに使用します。
これも影絵ようなものです。
3次元的な位置関係は分かりません。
パノラマエックス線写真で大まかに「問題がありそう」と思った部分については、デンタルエックス線写真やCTで精査することも多いです。
CT
何枚もレントゲンを撮影し、それをコンピューター上で組み合わせたものです。
患部を3D画像で確認できるのが特徴です。
他のレントゲン写真は「影絵」なのに対して、立体的に確認することができます。
情報量としては、「影絵」と「3D模型」では、それはもう段違いです。
手術前のCT撮影で、手術した時と同じぐらいの情報量が得られます。
一方で、CTは他のレントゲン写真撮影と比べて被爆量は多くなります。
何枚ものレントゲン写真を撮影するからです。
それでも、一回あたり0.1mSv程度です。
歯科用のCTは医科用のものと比べ約1/20〜1/30程度の被曝量とされています。
ちなみに、日本で普通に生活した場合、年間2.4mSv被曝すると言われています。
政府によると、年間被曝量20mSv以下であれば「一応」安全とされています。
「一応」というのは、わずかな自然被爆だけでも病気になる人もいれば、大量の被爆があっても何も起きない人がいるからです。
ただ、20mSvという基準以内あれば、ほとんどの人には問題ないと言ってよいでしょう。
もちろん、被爆は少ない方が良いので、CT撮影は医学的に必要最小限で行っています。
2)萌出(ほうしゅつ)障害とCT撮影のメリット
つぼい歯科クリニックでは、必要に応じてパノラマエックス線写真を撮影し、全体のチェックを行うようにしています。
その結果、時々『なんか変。』と思う部位が出てきます。
多くは、まだ生えていない(骨の中にある状態の)永久歯の位置や、生えようとする方向が、通常と違う…というパターンです。
そんな場合は、定期的にデンタルエックス線写真で撮影し、経過を観察していきます。
精査や処置が必要な状態であるか、このまま生えるのを待つだけで良いかの判断をするためです。
その上で異常がある場合は、必要に応じてCT撮影します。
この流れが表題にしております『へんかと経過と診断』で、小児歯科では非常に大事とされています。
3)CTが有用な症例
一般的に、萌出障害の原因には以下があげられます。
- 歯が生えるスペースの不足
- 先行歯の異常
- 過剰歯や歯牙種などの存在
- 骨の異常
「歯が生えるスペースの不足」は模型で分析して判定します。
しかし残りの原因については、レントゲン撮影で判断することとなります。
パノラマエックス線写真やデンタルエックス線写真では情報が不足する場合は、CT撮影が有効です。
またCT撮影すると、う蝕や根の治療も状態が完全に判定でき、状態がわかります。
萌出障害は手術を伴う治療が多いです。
しかしCT撮影することで、我々歯科医師も、患者さんの痛みや侵襲が最も少ない治療プランを、術前に考えることができます。それは、患者さんにとっては被爆量というデメリットを越えるメリットになります。
しかるべき年齢になっても歯が生えてこない、乳歯が抜けて随分になるけれど歯が生えない、などのお悩みがある場合は、ぜひ一度ご相談ください。
歯の萌出障害は、保険適応で出来ることも多いので、早めのご相談をおススメします。
まとめ
- 歯科で撮影するレントゲン検査には、デンタルエックス線写真、パノラマエックス線写真、CTがあります。
- CT撮影によって、萌出障害の原因、異常を判明することができます。
- 原因がわかれば、最小の侵襲での治療プランを考えることができるようになります。
- お子さんの永久歯が生えてこないなどの悩みがある場合は、早めにご相談ください。
コロナ禍で指しゃぶりが増えている!?指しゃぶりの原因とは?
2021年10月23日
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村剛です。
コロナの第5波、急速に終息の雰囲気ですね。
よかったなあと心の底から思う反面、子ども達を取り巻く環境に、コロナ禍のひずみが顕在化してきているようですね。
昨年度よりも不登校や自殺が増えているという報道も見聞きします。
長い休み明けによく出る話題ですが、大変難しい問題です。
「(子どもの)指しゃぶりがやめられません」という保護者の方からの相談が最近増えています。
今回は指しゃぶりをテーマにお話していきます。
指しゃぶりすべてが悪いわけではない
指しゃぶりは低年齢の時期は正常な発達過程の一つの行為です。
しかし、ある時期からはやめてほしい問題行動として捉えられます。
子供の成長発達と指しゃぶり
乳児期(1歳まで)
日本小児歯科学会の見解では、乳児期(1歳まで)の指しゃぶりは、乳児期の発達過程における生理的な行為とされています。
幼児期前半(1歳~2歳)
幼児期前半(1歳~2歳)からは、遊びの過程で指しゃぶりは減少していきます。
眠い時や退屈な時だけで指しゃぶりを行うのであれば、発達によって自然と減少していきます。
幼児期後半(3歳~就学前)
幼児期後期(3歳~就学前)からは、社会性の発達と共に、指しゃぶりなどの悪習癖は減少していく可能性が高いと言われています。
しかしながら頻繁な指しゃぶりの場合、3歳以降からは、噛み合わせや咬合などの口の形に影響を及ぼす可能性が高まり、上顎前突や開咬(前歯がかみ合わない)になると言われています。
問題行動となる指しゃぶり
就学以降にも継続している場合は、指しゃぶりなどは問題行動とされます。
原因追究などにおいて、心理学的な面からのアプローチが重要になります。
指しゃぶりをやめさせるには?
幼児期後期からの、やめたいけどやめられない程度の習癖の場合、おすすめなのは指しゃぶり以外に別のおもちゃなどに興味を持たせることです。
保護者の方におススメしている方法
- 手遊び歌などのスキンシップを多めにし、眠たくなったら手を握って眠るまで待つこと
- 手に絆創膏など違和感強めのものを張っておき、手を口に入れたら気付かせること
また幼児期後期には、兄弟姉妹ができて環境が変わり、赤ちゃん返りと共に一時的に頻度が上がってしまう場合があります。
気持ちの落ち着きとともに頻度が下がっていく場合が多いです。
しばらくはおおらかな気持ちで見守っていくことが大事です。
影響が大きな場合の歯科的・心理学的アプローチとは?
歯並びに指しゃぶりが悪影響を与えている場合
指しゃぶりの力が強いと、歯並び矯正で器具が歯や顎にかける力よりも、強い力が顎にかかります。
そこで歯並び矯正を開始するためには、指しゃぶりの癖を止めていること、もしくは止めたいと思っていることが重要になります。
お子さま本人が、例えば「保護者の方の注目を集めたいために指しゃぶりを行う」などの心理が原因なら、やみくもに叱っても指しゃぶりの癖はやめられません。
ある程度の年齢のお子さんの場合、「なぜ指しゃぶりをしてしまうのか」そして「どうなったら指しゃぶりを止めたいと思えるのか」という点について心理学的に追究しないと効果が低いです。
指しゃぶりが収まってきた場合、開咬(かいこう)であればタンクリブと言われる、咬合関係に舌や指が入らないようにする装置が有効です。
開咬(かいこう)
また前突(ぜんとつ)に関しては、歯列幅の拡大と、ブラケットを用いた矯正が有効である場合が多いです。
(抜歯を伴う、伴わないなど状態の診断も必要となります)
前突(ぜんとつ)
指しゃぶりについてご心配な方は、お気軽にご相談下さい。
まとめ
いかがでしたか?
- 指しゃぶりは1-2歳児では発達に伴う生理的な行為とされますが、3歳以降はなるべく、就学以降(6歳以降)はやめるべき習癖とされています。
- 癖(習癖)をやめるには、本人の自覚、そしてやめるという決心が大事です。必要に応じて、原因追及や行動変容のために、心理学的なアプローチを行います。
- ある程度習癖が落ち着けば、タンクリブ、拡大装置、ブラケットなどを組み合わせた矯正治療が適応となります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
大人の歯の本数が足りない?!そんな時はどうすれば良いの?
2021年8月16日
こんにちは!岩国のつぼい歯科クリニック 小児歯科専門医の吉村です。
どうなるかと思っていた東京オリンピックが、無事に終わりましたね。
最近、診療室で生まれつき永久歯の本数が足りない、という症例について患者さんにご説明をすることがよくあります。
永久歯の歯の数のトラブルについては、一度ブログでも書いたことがあります。
参考リンク
永久歯の本数のトラブル(先天性欠損歯や過剰歯)について
今回は、歯の本数が少なかった時の対処法などについてのお話です。
人間の歯は退化している!
歯は人間の歴史においては退化傾向にあります。
縄文時代人の歯を見ると、親知らずと言われる第3大臼歯までしっかり咬んでいます。
しかも現代人より歯のサイズも顎のサイズも、全体的に大きいです。
旧人類に近いほど歯の山の部分(咬頭)が多く、大きく、複雑な形をしています。
現代人では親知らずがある人でも咬頭が少なく、小さくなっていく傾向(5咬頭→3→1に減少)にあります。
また、親知らず自体が生まれつきない人もいます。
それ以外では、前から2番目の前歯、5番目の小臼歯の欠損が多いです。
そして、上顎よりも下顎が先天性欠損は多い傾向にあります(2010年の日本小児歯科学会の調査による)。
画像引用 朝日新聞(2011年3月7日)
同調査によりますと、何らかの形で1本以上の歯がないお子様は現在10人に1人程度の比率となっています。
2018-19年に僕が当院で調べた時も、比率は同様でした。
10人に1人ですから、クラスに数人は歯の先天性欠損のお子さんがいる感じですね。
実際僕の近しい肉親にも永久歯が欠損している人がいます。
なので、歯の退化傾向をまさに実感しています。
原因は基本的にはわかりません。
遺伝、薬物(抗がん剤などの強力なもの)、栄養状態などが考えられています。
歯の先天性欠損の治療法や考え方(部位や本数別に)
1)乳歯の本数が足りない場合
乳歯でも先天性欠損はたまに見かけますが、基本的には様子を見ます。
顎は歯が押し合いながら大きくなっていきます。
よって、欠損があった場合、欠損がある側の顎が小さくなる傾向が確認されています。
2)永久歯の本数が足りない場合
・下顎の2番目の歯の場合
下顎の前歯の場合は、上下で顎の正中が合わなくなる、という欠点はあります。
しかし、そこまで目立たないということもあり、経過を観察する場合が多いです。
・上顎の2番目の歯の場合
上顎前歯は正中が合わないと、やや目立ちます。
矯正をおすすめすることが多いと思います。
・上下の5番目の歯の場合
小臼歯の欠損の場合は、先行乳歯が抜けないように保存することが大切です。
虫歯にさえならなければ、乳歯といえども根がしっかりしているので、30代ぐらいまではもつ場合が多いです。
歯並びが悪い場合は、残った乳歯を抜歯して、歯並びを整えることもあります。
ただし、歯並びが良い場合は、乳歯が抜けて出来たスペースを矯正で埋めきることが難しいこともあります。
・6本以上、歯の数が不足する場合
6本以上の多数歯欠損の場合、大学病院などに代表される、国の指定医療機関であれば矯正を行います。
2020年からはインプラントも条件によっては保険治療が可能となりました。
しかし、これだけの多数歯であれば矯正+補綴の治療を効率よく組み合わせる必要があります。
また、インプラントも矯正も子どものうちは出来ない治療です。
ある程度の年齢になるまで乳歯を使って、そのうえで長期的な治療プランを立てることになります。
「乳歯を使う」という選択肢が無くならないように、先天性欠損の場合は最終的な治療が出来るようになるまで乳歯を無傷で残す努力が必要です。
誰にでも起こりうる事態ですので「乳歯は生え変わるから」と軽く考えずに、赤ちゃんの頃から大事にしていきましょう。
・大人になってから永久歯の代わりに使っていた乳歯が抜けた場合
虫歯や歯周病で歯を失った場合と同じようにブリッジ、インプラント、義歯の治療を行うことになります。
まとめ
いかがでしたか?
- 永久歯の先天性欠損は近年増加傾向にあります。
10人に1人ぐらいは観察されています。その治療法や考え方は歯のない部位(欠損部)で異なります。
- 乳歯は大事に使えば長くもつ場合もあります。
また、多数歯がない場合は保険がきく症例も稀にあります(指定医療機関に限る)。
各個人の状況・時期によりベストな治療法が異なります。
歯が生え変わらない理由には、他にも「ただ単に生え変わりが非常にゆっくりなだけ」というケースもあります。
気になる場合は歯科医院で相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。