日本の口腔保健(小児歯科を含む)の目指すもの
2026年2月13日
日本の口腔保健(小児歯科を含む)の目指すもの
こんにちは、岩国市の医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 副院長の吉村です。
前回は、日本と海外の「予防歯科」の考え方の違いについて解説しました。
医療で何を重視するかは国によって異なりますが、日本の特徴は次の2点でした。
- ・日本は予防よりも治療に重きを置いている
- ・予防については個人の価値観が重視され、学校や自治体の関与は比較的少ない
これは良い・悪いという話ではなく、医療に対する考え方の違いによるものです。現在の日本の保健行政も、この前提に基づいて計画が立てられています。
参考リンク:世界と日本の歯科保健シリーズ
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①虫歯は減ったのに、なぜ口の病気は世界最大級の健康課題なのか~歯科保健行政が目指しているもの~
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②海外の小児歯科事情について― 日本との違いから見えてくる「予防」と「矯正」 ―
1)日本は「健康寿命の延伸」と「健康格差の縮小」を目指している
日本では2024年に策定された「健康日本21」歯科版の「歯・口腔の健康づくりプラン」に基づき、「健康寿命の延伸」と「健康格差の縮小」を大きな目標として医療行政が進められています。
具体的な取り組みとしては、
- ・学校での歯科検診
- ・学校での歯みがき実施や歯科保健教育
- ・フッ素の活用
- ・ライフコースアプローチの推進
などが挙げられます。
ライフコースアプローチとは、幼少期、場合によっては胎児期からの生活習慣や健康状態が、成人期・高齢期の健康にまで影響するという考え方です。
「子どものころの習慣が一生を左右する」という視点に立った健康づくりです。
次の章から、具体的な目標について解説していきましょう。

2)日本が健康寿命を延ばすために目指している「目標」

2-1)歯周病を有する人の減少と、その格差の縮小
- ・正しいセルフケア(歯みがき・歯間清掃)の実践者を増やす
- ・歯肉炎・歯周炎のある人を減らす
- ・喫煙・受動喫煙を減らす
ここに喫煙・受動喫煙が入っているのは、タバコは歯周病の原因になるためです。
ニコチンが毛細血管を収縮させることで、歯茎の血行が悪くなることで歯周炎になりやすくなってしまうのです。

2-2)よく噛んで食べられる人の増加と、その格差の縮小
- ・むし歯のない人の割合を増やす
- ・60歳で24歯以上残っている人を増やす
- ・40歳以上で19歯以下の人を減らす
- ・口腔機能が低下している人を減らす
2-3)歯科検診を受ける人の増加と、その格差の縮小
- ・歯科健診を実施する事業所を増やす
- ・「健康経営」に歯科を取り入れる企業を増やす
- ・妊産婦歯科健診を行う市町村を増やす
- ・歯周病検診を行う市町村を増やす
(厚生労働省資料より)
3)どのくらい達成できているの?
前述のような目標に向かって、行政も歯科医師会も頑張ってきたわけですが、では、これらの目標はどの程度達成されているのでしょうか?
3-1)高齢者の目標について
特に注目されている指標が「8020達成率」です。

80歳で20本以上の歯を保つ人は、要介護になることが少ないことから、1989年(平成元年)に、厚生省(現在の 厚生労働省)と 日本歯科医師会 が提唱した国民運動です。
- ・現在80歳で20本以上の歯を保つ人の割合は約61%
- ・2016年に「8020達成者率を50%に」という目標をしました。
- ・現在は新目標「8020達成者率を85%」に向けて新たな取り組みがなされています。

3-2)歯科受診率の目標について
・1年以内に歯科を受診した経験がある人は約6割に増え、年々増加。

3-3)小児歯科における数値目標
3歳児
- ・3歳児のむし歯経験なし率:目標80%以上(健康日本21)
→ 2021年の現状値では、「3歳で4本以上の虫歯がある子供の割合」は4%(出典:地域保健・健康増進事業報告)
- ・日本における 3 歳児のむし歯有病率(1 本以上むし歯を持つ割合) は、長期的に大幅に低下
→1989 年頃:約 55.8%(むし歯がある割合)
→2010〜2020 年代:10〜20% 台前後 の割合に低下(研究・市区町村データによる)

12歳児
- ・12歳児(1人平均永久歯むし歯数(DMF)が1.0未満である都道府県を増やす)(健康日本21)
→1998〜2000年前後:2〜3 本台に低下(学校保健統計など)
→2018〜2020 年代:0.7 本台へ減少(学校保健統計)
→令和 4 年度(2022〜2023):0.56 本(過去最低更新)という報告あり

こうして見ると、日本は予防意識の向上と制度整備により、着実に改善を重ねてきたことが分かります。
一方で、いわゆる「二極化問題」、
多くのお子さんの歯が虫歯にならずに予防できているのに対し、口腔崩壊というレベルで虫歯になっているお子さんも見かける…という問題があります。

- ・ほとんどむし歯がないお子さん
- ・たくさんの虫歯により、口腔内の問題がたくさんあるお子さん
背景には生活習慣や家庭環境など、さまざまな事情があります。
行政の改善も、学校からの関りも、各家庭での生活習慣の見直しなども、
最終的には「一人ひとりの改善」の積み重ねです。
行政や学校も、口腔崩壊の状態にあるお子さんにどうアプローチすべきか、議論を重ねています。
そういったケースでは、歯科受診さえしていただければ、そのお子さんに最もあっている方針を個別に考えますので、まずはご相談いただければと思います。
3-4)切れ目のない検診機会の確保
近年、厚生労働省が特に力を入れているのが「切れ目のない検診機会の確保」です。

子供のうちは
- 「1歳半検診」
- 「3歳児検診」
- 「学校歯科健診」
と切れ間なくある歯科健診も、社会人になったあとは途切れてしまう問題です。

現在、成人の節目検診は市区町村が実施主体で、実際の実施年齢や回数は 各自治体の裁量 です。
ちなみに岩国市では「いい歯おとなの歯科健診」という自治体の無料歯科健診があり、
20歳 25歳 30歳 35歳 40歳 50歳 60歳 70歳 +妊婦(年齢問わず)
が対象となっています。
現在の受診率は約53.6%(全国平均の58%より低い)で、
一方で「歯科健診を受けたことがない」と答える人が20.8%もいることが問題視されています。
健康日本21(第3次)では、歯科受診率95%という高い目標も掲げられています。
「特別なときだけ、トラブルがあったときだけ」ではなく、「習慣として通う」ことが求められているのです。

4)まとめ
いかがでしたか?
- ・この20年で、日本の歯科保健は数値目標を明確にし、国民の健康レベルは大きく前進してきました。
- ・最終的にお口の健康を守るのは制度ではなく、ご家庭での習慣と選択です。
- ・「何か問題がある時だけ歯科受診する」ではなく、「習慣として通う」こと重要です。
- ・お口の中の問題でお困りごとがありましたら、歯科医院で個別に治療や習慣の見直しなどを相談するのがおススメです。

気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!






