歯科技工士ってどんな仕事? 勤め先が歯科医院の場合とラボの場合で、仕事はどう変わるの?
2025年3月17日
こんにちは、岩国の医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 院長の坪井です。
今回は歯科医院のお仕事シリーズの第4弾、「歯科技工士」編です!
歯科技工士とはどんな仕事か、歯科医院と歯科技工ラボと仕事はどう変わるのかなどについて、解説します。
過去のお仕事シリーズはこちら
歯科医師と歯科衛生士の業務範囲って、どうちがうの?
https://tsuboidental.com/blogs/archives/6895
歯科助手のお仕事とその魅力~コンプライアンスを守って、安心安全な医療を。
~患者さんへも自分たちにも〜
https://tsuboidental.com/blogs/archives/6922
歯科医院のお仕事 ~医療事務編~
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7059
1 歯科技工士ってどんな仕事
歯科技工士は歯科医師の指示に基づき、詰め物(インレー)、被せ物(クラウン)、入れ歯(義歯)、矯正装置などの歯科技工物を製作する医療技術専門職です。
国家資格で、専門学校や大学で資格を取得することができます。
岩国近郊では、広島県廿日市市にある広島歯科技工士専門学校が最寄りの学校になります。
他にも、広島大学歯学部口腔健康科学科の口腔工学専攻(4年制)でも資格が取得できます。
主な仕事内容は、患者さんごとの歯型を基に石膏模型を作成し、オーダーメイドで金属・セラミック・ジルコニアなどの素材を使用して精密な修復物を作成します。
最近では、手作業の職人仕事だけではなく、歯科医院から患者さんの3Dデータを受け取ってCAD/CAM技術で技工物を作るケースも増えてきました。
CAD/CAM(キャドキャム):コンピューターによる設計と製造を組み合わせた技術
CAD(Computer Aided Design):コンピューターによる設計支援
CAM(Computer Aided Manufacturing):コンピューターによる製造支援
主な就職先は?
主な就業先は歯科技工所や歯科医院です。
フリーランスとして活躍されている人も大勢います。
歯科技工専門学校に入学する学生さんの人数が減っていること、高齢化が進んでいることなどから、「就職には困らない資格」と言われています。
2.歯科医院と歯科技工所(ラボ)では、働き方が違う?
給与の違いは労働時間の違い
歯科技工士を志す学生さんや、新卒の歯科技工士さんが就職先を探そうとして驚くのが、勤め先によって年収に大きな差があることです。
「最初は治療を実際に見ることができる歯科医院でキャリアを始めたかったけれど、給料が歯科技工所(ラボ)より低いので諦めた」という声も多く聞きます。
実際、歯科医院と歯科技工所(ラボ)では、歯科技工所の方が給与が高いことが多いです。
勤務時間の差(残業代)がそのまま給与格差につながっている形です。
歯科医院で働く場合
歯科医院では、
・ほとんど残業がない(そのため残業代がない)
・9時~18時半前後の日勤帯勤務が主流
・有給も比較的自由に取ることができる
歯科技工所で働く場合
歯科技工所(ラボ)では、
・1日平均就労時間は自営業の技工士さんは10.8時間
・残業は多い(残業代分、収入は上がる)
・独立すれば収入はさらに伸びる(労働時間は増える)
歯科医院勤務の魅力はライフワークバランスが良いこと
歯科医院では技工の量によって、患者さんの予約をコントロールできます。
「今は溜まった仕事もないので、この詰め物は、明日にできます。」
「この入れ歯は1週間ください」
など、患者さんごとに技工士さんは納期のコントロールが可能であるため、「納期が間に合わないから夜なべして、何とか間に合わせないといけない」といったことをする必要がありません。
また、多くの歯科医院では院内に技工士が在籍していても、外部の歯科技工所とも取引があり、納期が詰まってきた場合は一部を外注化するなどして、仕事量をコントロールできます。
ですから、多くの医院では残業がほとんどありません。
ちなみに当院でも、未処理の技工が溜まらないように、外注(ラボに発注する)と内製(院内技工士が作成する)を分けていて、内製はスピードを要求されるもの、矯正治療器具関係、義歯関係のみとしています。
さらに、歯科技工士が有給取得した後など未処理技工が増えた場合は、歯科助手や歯科衛生士が石膏流しを行うなどして、歯科技工士が残業にならないよう医院全体で取り組んでいます。
歯科技工所の魅力は、量をこなせることや、がんばれば給与アップにつながること
一方、ラボではクライアントの歯科医院から、どれくらいの模型が届くか事前に分からず、しかも
「今仕事が立て込んでいるので納期を伸ばしてください」
「今は仕事が多いので受注は制限しています」
といった交渉ができないことから、注文が殺到すれば残業するしかない状況になりがちです。
残業は多いものの、残業代が付くので院内技工士より収入は高くなりますし、短期間に大量の技工を作ることが多いことから、キャリアのスタートとして、手早い仕事が出来るようになりたい技工士さんにおススメです。
また、いずれは独立して自分の歯科技工所を起業したいと思う技工士さんは、歯科技工所で経験を積む必要があります。
上記の事情から、歯科医院にはライフワークバランスをとって働きたい女性技工士さんが比較的多く、
逆に男性技工士さんは残業があっても年収が高く、独立の夢もある歯科技工所を選ぶ人が多い印象です。
3 歯科技工士さんの職務は所属組織の設備や医院/ラボの得意領域によって変わる
歯科技工士の仕事は、伝統的な手作業による技術からデジタル技術へと移行しつつあります。
ただし、その移行スピードや導入される技術は、勤務先の歯科技工所や歯科医院の設備状況によって異なります。
3-1)CAD/CAM設備がある場合
歯科医院、歯科技工所ともに3Dスキャナーは既に広く普及しています。
3Dスキャナーで得た3Dデータをもとに、技工物を作成するCAD/CAM(コンピュータ支援設計・製造)システムは、歯科医院へはさほど普及しておらず、歯科技工所には普及しています。
3-2)鋳造設備がある場合
従来の金属冠や金属の詰め物を製作するために必要な設備です。
歯科技工所にはほぼ必ずあります。
歯科医院の技工室には、あるところとないところがあります。
その医院の技工物のほぼすべてを院内で作成する場合には、鋳造設備がありますし、矯正装置や特急の仕事のみを院内で作成する場合には、鋳造設備は不要となります。
3-3)そのほか、院長/提携医院の得意な治療に合わせて
歯科医院の院内技工士さんの場合は、院長こだわりの小児矯正装置や、インプラントの仮歯や上部構造、特殊な入れ歯などを製作することもあります。
また、一般的な入れ歯でも、かみ合わせを特殊な方法で記録する場合(フェイスボウトランスファーやゴシックアーチ法など)なども、院長と連携がとりやすい院内技工士が関わって製作することがあります。
4.歯科医院の技工士は、歯科技工所との情報連携のカナメ
歯科医院は、模型や電子データ、技工指示書に納品書、請求書、貴金属の預かり書など、非常に多くの書類やデータをやり取りします。
医院によりますが、歯科医院の技工士さんはそうした技工所との情報連携の責任者をしていることも多いです。
一方、歯科技工所の技工士さんは納期が厳しい歯科技工に専念するために、そうした情報連携は事務員さんが行っていることが多いかもしれません。
5.ラボとクリニック、どっちの職場がタイプ?
5-1)ラボの歯科技工士に向くタイプ
・職人気質で淡々と技工がしたい人
・技工作業が手早い人
・起業を目指している人
・残業できる人
・歯科技工を幅広くできるようになりたいと思っている人
・技工だけに専念したい人
5-2)歯科医院の技工士に向くタイプ
・育児や子育て、介護中で家庭と両立したい人
・ライフワークバランスを重視したい人
・矯正器具やインプラント技工、特殊な義歯など、ニッチ領域を極めたい人
・診療室のチェアサイドで、自分の技工物を患者さんが使用しているところを直接確認したい人
・女性の多い職場で勤務が可能/希望する人
・患者さんに会うことも多いので、清潔感がある非喫煙者(タバコ臭いのはNG)
6.歯科技工士と歯科医師の業務範囲って、どうちがうの?
歯科医師(絶対的歯科医行為)と歯科衛生士(相対的歯科医行為)の仕事には、グレーゾーンがあるというテーマを以前、記事にしました。
参考リンク
歯科医師と歯科衛生士の業務範囲って、どうちがうの?
https://tsuboidental.com/blogs/archives/6895
では、歯科技工士と歯科医師の業務範囲はどう違うのでしょうか?
歯科医師は、すべての歯科技工を自分で行っても法的に問題ありません(毎日、たくさん技工物を作成している歯科技工士の方が上手なことも多いですが…)。
一方で、歯科技工士は歯科医師抜きで患者さんを治療してはいけない、という判例があります。
具体的には、歯が1本も残っていない患者さんの総入れ歯を、歯科医師抜きで歯科技工士だけで作ったことが裁判になったことがあります。
参考リンク
裁判例検索
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51636
昭和34年の最高裁判所判例では
「 歯科技工士はたとい総入歯の作り換えに伴うものであつても、印象採得、咬合採得、試適、嵌入をすることはできないとすることは、公共の福祉のための制限であつて、憲法第二二条、第一三条に違反するものではない。
」
要は、歯が1本もなくても、歯科技工士は『歯科医師の指導のもと』、技工すべきであるという判例です。
歯科技工士は、患者さんの口腔内に装着する技工物を作成できる専門職でありつつも、治療計画を立てることはできず、チェアサイドにおいて法的にできることは歯科助手と同等のものである、ということですね。
逆に言えば、技工の参考にするためにお口や歯の写真を撮影する、などは多くの技工士さんが行っています。
7 まとめ
いかがでしたか?
・歯科技工士は歯科医師の指示で詰め物・被せ物や入れ歯、矯正装置などを作る専門職です。
・高齢化と学生数の減少が進んでいるため、国家資格は必要ですが「就職には困らない仕事」です。
・デジタル技術の進化がどんどん進んできている業界です。
・歯科技工士は起業して高収入を目指すことも、ライフワークバランス重視の職場も、自分にあった働き方を選ぶことが出来る職業です。
歯科技工士は患者の口腔内に合わせた技工物を製作する重要な医療技術職です。
近年はデジタル化が進む一方で人材不足の課題もあります。
しかし高齢社会において歯科補綴物の需要は高まっており、専門性の高い技術者として今後も必要とされる職業です。
歯科技工士に興味をお持ちの方は、ぜひ進路の一つとして考えていただけると嬉しいです!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。