生えたての永久歯の根管治療について ――歯根の完成を目指した2症例
2026年8月29日
こんにちは。岩国市の医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 小児歯科専門医で副院長の吉村です。
突然ですが、「幼若永久歯(ようじゃくえいきゅうし)」という言葉を聞いたことはありますか?
幼若永久歯とは、生えてから間もなく、歯根や歯質がまだ十分に完成していない永久歯のことです。一般的には、歯が生えてから2〜3年程度の永久歯を指します。
今回は、こどもの生えたての永久歯である「幼若永久歯」について解説します。6〜12歳のお子さんがいる保護者の方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
1)生えたての永久歯は、虫歯になりやすく進行も速い
生えたての永久歯は、見た目は大人の永久歯と同じように見えても、歯質がまだ十分に成熟していません。酸に対する抵抗力、つまり「耐酸性能」が低いため、大人の成熟した永久歯と比べて虫歯になりやすく、いったん虫歯になると進行も速いという特徴があります。
場合によっては、数か月で虫歯が神経にまで達することもあります。
また、永久歯にはまれに「中心結節」や「歯内歯」など、虫歯や神経の炎症につながりやすい特殊な構造がみられることがあります。そのため、きちんと歯磨きを頑張っていても、虫歯になってしまう場合もあります。
2)生えたての永久歯の根管治療はとても難しい
生えたての永久歯と、大人の成熟した永久歯との大きな違いは、主に次の2点です。
1つ目は、先ほどご説明したとおり、歯質がまだ十分に成熟しておらず、虫歯の進行が非常に速いことです。
2つ目は、歯根がまだ完成していないことです。
通常、大人の永久歯では歯根や根管が完成しています。そのため、根管治療では、感染した組織や細菌をできるだけ取り除き、根管内を清潔にしたうえで密閉し、再治療のリスクを減らすことが重要になります。
一方、歯根が完成していない「根未完成歯」では、根の先端が大きく開いています。この状態で歯髄炎や根の先の炎症を起こすと、治療は非常に難しくなります。
このような歯に対しては、感染を抑えながら、歯根の先端が閉じるように誘導する治療を行います。専門的には「アペキシフィケーション(根尖閉鎖術)」などと呼ばれる治療法です。

左から2番目の歯をご覧ください。
ほぼ歯根が完成しているものの、先端部分はまだ完成していない段階の幼若永久歯の根管治療。他の歯の歯根と比べて、先端(根尖)部分が太く、未完成であることが分かります。

アペキシフィケーション(根尖閉鎖術)で治療終了後。根尖の形は、他の歯のように細くならずに治癒しています。
3)生えたばかりの永久歯を残す治療
近年では、歯科用セメントをはじめとする材料が進化し、生体への親和性に配慮された材料や、根管をより緊密に封鎖できる材料も使用できるようになりました。以前と比べ、生えたての永久歯を残すための治療の選択肢は広がっています。
今回は、治療後の経過をある程度確認できた2症例をご紹介します。
3-1)症例1|9歳女性・歯内歯
3-1-1)「顔が急に腫れた」とのことで来院
この患者さんは、「顔が急に腫れた」とのことで来院されました。
先に相談した近隣の歯科医院でも、腫れの原因がよく分からなかったとのことでした。
当院でレントゲン撮影を行い、歯の状態を詳しく確認したところ、歯内歯が原因になっていると考えられました。

このレントゲンをよく見てみると……

本来、歯の神経が入っている部分に、歯内歯が確認できます。
3-1-2)歯内歯とは?
歯内歯とは、歯の表面の一部が内側へ深く入り込み、歯の内部に袋状の構造ができている歯の形態異常です。
歯を切断して観察すると、歯の中にもう一つ歯があるように見えることから、「歯内歯」と呼ばれています。

出典:https://www.jsop.or.jp/atlas/developmental-anomalies-of-the-teeth/dens-in-dente/
内側に入り込んだ深い溝は、歯ブラシできれいにすることが困難です。そのため、溝の内部に細菌が入り込み、虫歯や歯髄炎を起こしやすい構造といわれています。
歯には動揺があり、頬側の歯ぐきには、たまった膿の排出路もできていました。
抜歯も視野に入る厳しい状態でしたが、ご家族と相談し、まずは歯を残すための治療を行うことになりました。
3-1-3)歯根の完成を目指して治療
治療では、感染した根管内を清潔にしながら、永久歯の根の先端が閉じることを目指すアペキシフィケーション(根尖閉鎖術)を行いました。
歯ぐきにできていた膿の出口は、2回目の診療時には消失しました。



膿を取り除く際には、歯や歯根をつくる可能性のある未分化な細胞まで、一緒に流れ出てしまうことがあります。そのため、感染源は取り除きながらも、必要以上に根の先を刺激したり、膿を過剰に除去したりしないよう配慮しました。
根管内をできるだけ清潔にし、緊密に密閉して経過を確認したところ、5回目頃の診療時から、根管の先端に閉鎖する傾向がみられるようになりました。
治療開始から半年後には、根の周囲にわずかな骨の形成が確認できました。そして、治療開始から4年が経過した現在では、歯根の先端が完成しています。
処置した根管は太いままで、歯の強さには今も少し不安が残ります。しかし、治療前の厳しい状態を考えると、歯根の先端が完成し、永久歯を保存できていることは、非常に良好な結果だと考えています。
3-2)症例2|9歳男性・中心結節の破折
3-2-1)中心結節とは?
中心結節とは、主に小臼歯の噛み合わせ面にみられる、小さな突起状の構造です。歯の形態異常の一つに分類され、特に下顎の第1小臼歯、第2小臼歯に多くみられます。
外見上は、小さな「こぶ」や「ツノ」のように見えます。
中心結節の内部には、歯髄、いわゆる歯の神経が入り込んでいることがあります。そのため、硬いものを噛むなどして中心結節が折れると、神経が露出したり、細菌が入り込んだりする危険があります。
発生率はおよそ1〜4%とされ、日本人を含むアジア人に比較的多くみられる形態異常です。

中心結節は、このような小さな突起としてみられます。

歯の内部構造です。歯の「こぶ」にも神経が通っています。
3-2-2)中心結節が折れてしまうと、歯の神経が露出してしまう
この患者さんは、「乳歯の生え変わりの部分が激しく痛み、泣いている」と連絡をいただきました。
「歯の生え変わりにしては、かなり強い痛みだな」と思いながら診察したところ、乳歯の下で生えてきていた永久歯の中心結節が折れていました。
歯の神経が外に出ると、強い痛みが出ることがあります。また、口の中の細菌が神経に入ると、顔が腫れたり、歯がぐらぐらしたりすることも。
この患者さんも、あっという間に顔が大きく腫れ、歯もぐらぐらした状態になってしまいました。
症例1と同様に、歯根の先端の閉鎖を目指す治療を行いました。
治療開始時には、根の先端がまったく閉じていない根未完成歯の状態でした。そのため、根管内に薬を入れ、慎重に経過を確認しています。
この症例でも、2回程度の治療で痛みや歯の動揺はなくなり、状態はかなり改善しました。



歯根は未完成で、アペキシフィケーション(根尖閉鎖術)を行いました。
3-2-3)半年後も歯根は未完成
治療開始から半年が経過した先日、根管の先端が閉じ始めていることを期待して、もう一度歯の内部を確認しました。
しかし、歯根はまだ未完成で、根の先端が閉じ始める傾向は、まだ十分に確認できませんでした。

治療した部分を再び開けることで、根の先端に残る細胞に感染が生じる可能性があります。一方で、根管内の薬を交換することが細胞を刺激し、根の先端が完成するきっかけになる可能性を示した報告もあります。
この歯根が完成していない原因は、現時点では分かっていません。症例1と比べ、膿を処理した際に、歯根の形成に関わる細胞が多く流出した可能性もありますが、現時点では判断できません。
症例2の歯が今後どのような経過をたどるかは、まだ定まっていません。
これからも慎重に経過を観察しながら、何とか永久歯を残せるよう、できる限りの治療を続けていきます。
4)根未完成歯でも、治療後に歯根が成長することがあります
今回ご紹介した症例以外でも、根管が完成していない永久歯に対しては、感染を抑えながら歯根の先端の閉鎖を目指す治療を行います。
根管治療の終了後、数年たってからレントゲンを撮影すると、歯根の先端が閉じているだけでなく、歯根自体がさらに伸びている場合もあります。
生えたての永久歯、とりわけ根未完成歯の根管治療は、本当に難しい治療です。残念ながら、すべての歯を残せるわけではありません。
それでも、今回ご紹介したような治療によって、治療開始時には残すことが難しいと思われた永久歯を保存できたときは、私たち歯科医師も大変うれしく思います。
生えたての永久歯の痛みや腫れは、早めにご相談ください
もちろん、今回のような状態にならないことが第一です。
生えたての永久歯は耐酸性能が低く、大人の成熟した永久歯より虫歯になりやすいうえ、虫歯の進行も速いという特徴があります。また、歯根が完成していない状態で歯髄炎や根の先の炎症を起こすと、治療が非常に難しくなります。
中心結節や歯内歯のような特殊な構造は、ご家庭で見分けることが難しい場合もあります。永久歯が生えてきた時期には、定期健診で歯の形や生え方を確認しておくことが大切です。
すでに強い痛みや腫れがある場合でも、歯を残せる可能性があります。生えたての永久歯について気になる症状がある場合は、できるだけ早めにご相談ください。
5)まとめ
- ・生えたての永久歯は耐酸性能が低く、大人の永久歯より虫歯になりやすく、進行も速い傾向があります。
- ・生えたての永久歯には、中心結節や歯内歯など、神経の炎症につながりやすい構造がみられることがあります。
- ・歯根が完成していない状態で歯髄炎や根の先の炎症が起こると、治療は難しくなります。
- ・根未完成歯では、感染を抑えながら、歯根の先端が閉じることを目指して治療します。
- ・炎症が強い場合には歯を残せないこともありますが、厳しい状態でも保存できる可能性があります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

































