前歯で噛めない「開咬(かいこう)」は小児期の治療が大切です
2026年7月2日

「前歯で麺類が噛み切れない」
「噛んでも、前歯が閉じない」
「いつも口が開いている(お口ポカン)」
このようなお悩みでご相談いただくお子さんが近年増えています。
背景には、食生活の変化や口の筋肉の発達不足、舌の癖など、さまざまな要因が関係していると考えられています。こうした口腔機能の問題は、2018年から口腔機能発達不全症として保険診療の対象となり、多くの歯科医院で診断・指導が行われています。
こんにちは、医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 副院長の吉村です。
今回は、奥歯を噛んだ状態でも前歯が噛めない「開咬(かいこう)」についてご紹介します。
1)開咬(かいこう)とは?
開咬とは、奥歯は噛んでいるのに前歯が噛み合わない状態をいいます。
前歯で食べ物を噛み切ることが難しく、麺類やサンドイッチなどが食べにくいだけでなく、発音や飲み込みにも影響することがあります。
一方で奥歯には強い負担がかかるため、奥歯だけがすり減っているケースもたまに見られます。
2)開咬は大人になってからの治療では大掛かりになることも
永久歯が生えそろった後の重度の開咬では、
- ・抜歯を伴う矯正治療
- ・顎の骨を手術で移動する外科矯正
などが必要になることがあります。
しかし、小児期は顎の骨が成長している途中です。
この時期であれば、
- ・歯並びを適切な方向へ誘導する矯正治療
- ・舌の癖や飲み込み方を改善する口腔筋機能療法(MFT)
を組み合わせることで、顎の成長を利用しながら改善が期待できる場合があります。
もちろん、すべての症例で手術を回避できるわけではありません。しかし、小児期に適切な治療を早めに行うことで、将来の治療の負担を軽減できる可能性があります。
では、矯正とトレーニングを頑張った結果、改善が見られた実際の症例をご紹介します。
3)実際の症例
3-1)症例1:8歳女児
定期管理で通院されていた患者さんです。
「前歯でパスタなどが噛み切れない」という症状がありました。
術前

術後(2年後)

まず、治療前(術前)の状態をご説明します。
大臼歯(奥歯)の噛み合わせは正常(Ⅰ級咬合)でしたが、舌を前へ押し出す癖(舌突出癖)が強く、それによって前歯が噛めない状態になっていました。また、上唇小帯(前歯の中央にある筋)が強く付着していました。

上唇小帯の付着が強い
前歯が噛んでいない
以下の治療を併用しました。
- ・上唇小帯の処置(ヒダがついている部分を切除する)
- ・舌の癖を改善する柵付きの取り外し式矯正装置
- ・下顎の軽度拡大
- ・口腔筋機能療法(MFT)
下図:使用した装置(タンクリブ付き拡大床装置)


約2年後には前歯がしっかり噛み合うようになりました。

レントゲンによる骨格の比較では、特に上顎前歯の傾きが大きく改善し、成長を利用した良好な変化が得られました。

- ・緑:術前 上の前歯が唇側に大きく傾斜している
- ・赤:術後 上の前歯の傾きが改善し、歯並びが良い人の平均値にかなり近い形になった
- ・青:歯並びが良い人の平均的な形
歯並びが改善しただけでなく、口角が上がるようになりました。
笑うと前歯がきれいに見えるようになり、笑顔がハツラツとした印象になりました。
3-2)症例2:7歳女児
こちらも定期健診で通院されていた患者さんです。
永久歯への生え変わりとともに開咬がさらに強くなり、矯正相談にいらっしゃいました。
診査では前歯4本がまったく噛み合っておらず、このまま成長すると、将来的に抜歯矯正や外科矯正が必要になる可能性もある状態でした。
術前

2年後

まず治療前(術前)の状態をご説明します。

開咬の原因として、以下が認められました。
- ・舌突出癖
- ・上唇小帯の強い付着
- ・舌小帯の強い付着
次の治療を並行して行いました。
- ・上唇小帯・舌小帯の処置
- ・舌の癖を改善する取り外し式矯正装置
- ・下顎の軽度拡大
- ・口腔筋機能療法(MFT)
約2年後には前歯が噛み始め、骨格分析でも上顎前歯の角度が大きく改善しました。

*写真はワイヤーが一部外れています。この後、修理しました。
レントゲンによる骨格の比較では、特に上顎前歯の傾きが大きく改善し、成長を利用した良好な変化が得られました。
- ・黄色:術前 上の前歯が唇側に大きく傾斜している
- ・緑色:術後 上の前歯の傾きが改善した

骨格的には大きな変化が見られ、外科的な処置が必要となる可能性は低くなったと考えられます。
現在は上顎の装置を変更して、より深く噛み合うように、矯正と指導を継続しています。
この患者さんには軽度の発達特性があり、矯正装置とトレーニングを継続することは決して簡単ではありませんでした。それでも、ご本人とご家族が一緒に頑張ってくださり、大きな改善につながりました。
4)開咬は「形」と「機能」の両方を治すことが大切です
開咬では、
前歯で噛めないために舌の癖が悪化し、舌の癖によってさらに噛めなくなる
という悪循環が起こります。
歯並びや顎の形(形態)が変われば、お口の使い方(機能)も変わります。
そして、お口の機能が改善すれば、改善した歯並びも安定しやすくなります。
そのため、当院では矯正治療だけでなく、MFT(口腔筋機能療法)も組み合わせながら、お子さん一人ひとりに合わせた治療を行っています。
「前歯で噛めない」
「食べ物が噛み切れない」
「お口がいつも開いている」
このような症状が気になる場合は、お早めにご相談ください。
成長期だからこそできる治療があります。
5)まとめ
- ✓ 開咬(前歯が噛み合わない状態)は、小児期に改善できる可能性があります。
- ✓ 原因は歯並びだけではなく、舌の癖や口の筋肉の使い方が大きく関係しています。
- ✓ 矯正治療と口腔筋機能療法(MFT)を組み合わせることで、顎の成長を利用した改善が期待できます。
- ✓ 早い時期に治療を始めることで、将来の抜歯矯正や外科手術が必要となる可能性を減らせる場合があります。
- ✓ 「前歯で噛めない」「食べ物が噛み切れない」「お口ポカン」が気になるお子さんは、一度ご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。






