咬合誘導 ~「生えてこない永久歯」を生えるように誘導する小児部分矯正~
2026年5月30日

こんにちは、岩国市の医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 副院長・小児歯科専門医の吉村です。
今回のブログも前回に引き続き、小児の部分矯正(MTM)の話題です。
小児の部分矯正(MTM)とは?
気になる一部分だけを治療する方法で
- ・前歯だけなど、限られた範囲を整える部分矯正
- ・自然には正しい位置に生えにくい永久歯を、正しい方向へ導く小児部分矯正
などがあります。
参考リンク:MTMシリーズ①小児の部分矯正とは?少数歯を短期間で整える「MTM」について
1)「永久歯が予定通り生えてこない」場合は、早めに歯科医院で相談しよう
小児の歯列では、歯の生え方のトラブル・歯が本来と違う場所・向きに生えてくることといった問題(萌出障害)が起こることがあります。
「歯が本来の位置・向きに生えてこない」ことは、
- ・歯並びがガタガタしている
- ・歯が捻じれて生えてきた
といった問題よりも、歯列矯正治療においては大きな問題となります。
萌出障害では、処置が遅れると
- ・隣の歯の歯根吸収が起きるリスクがある
- ・上手く生えてくる可能性がゼロと予想される場合は、摘出しなければいけなくなったりする
といったことがあり得るため、早期発見、早期治療がポイントとなります。
一方で、
- ・ただ生え変わりがゆっくりなだけ
というパターンもあるので、まずは早めの歯科相談がおすすめです。
2)実際の症例: 上顎犬歯の萌出障害のため、部分矯正を行ったケース
萌出障害はさまざまな歯で発生します。
特に、臨床的に大きな問題になりやすいものに犬歯の埋伏、位置異常があります。
当院で治療した実際の症例でご説明しますね。
2-1)術前の状態
いつまでも上の犬歯(糸切歯)が生えてこないと思ったら、前から2番目の歯が、どんどん外側に開いてきて、歯と歯の間に隙間が広がってきてしまった…というお悩みケースでした。
術前:上の犬歯が生えてこない
上の2番目の歯が外側に開いてきた

精査してみると、骨の中で犬歯が側切歯(2番目の歯)の根っこを押しており、そのため2番目の歯が外側に開いてしまったと分かりました。このままでは、犬歯は自力で正しい位置に生えることはできませんし、側切歯の歯根吸収などが起こる可能性も非常に高いため、犬歯の萌出誘導を行いました。
2-2)治療方針と治療中の様子
実は、これは珍しくない症例で、広島大学小児歯科の医局員時代にも、よく似た症例を数多く経験し、治療してきました。
このような「上顎犬歯が生えてこない」ケースでは、以下の2段階で治療を進めます。
①先行乳犬歯の抜歯を試みる。
50%近くの犬歯の萌出方向が改善するといわれています。
②それでも萌出方向の改善がみられなかった場合、犬歯を矯正器具で牽引する。
手術で骨の中に埋まっている犬歯に矯正器具をとりつけ、生えてほしい方向にひっぱります。
2段階に分ける理由は①のみで犬歯が生えてくれば、保険診療のみで治療が完了するからです。犬歯の生えようしている方向や位置関係から、乳犬歯の抜歯だけではどう考えても犬歯が生えてこれないだろうというケースでは、最初から②を行うこともあります。
この患者さんでも、乳犬歯の抜歯をして6カ月様子を見たところ、
- ・左側は大幅に萌出方向が改善しましたが
- ・右側は改善が見られませんでした


そこで、抜歯8カ月後から牽引装置を用いて、歯を引っ張り出すことにしました。

リンガルアーチを応用したシンプルな装置にゴムをひっかる部分をつけて、エラスティックスレッド(ウレタンゴム)で歯をひっぱる仕組みです。
2-3)術後の状態


牽引を開始して8か月程度で埋まっていた犬歯が生えてきて、牽引16カ月で治療を終えました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主訴・治療開始年齢 | 犬歯が生えてこない、2番目の歯が開いてきた・8歳3か月 |
| 治療期間 | 32か月 |
| 治療回数 | 12回 |
| 治療費用 | 34万8,900円(税込) |
| リスク・副作用 | 牽引対象である犬歯の歯根が短縮・湾曲する可能性がある |
| 治療内容 | 固定式の舌側矯正装置(SLA)による埋伏犬歯牽引術 |
3)上の犬歯が生えてこない!を放置するとどうなる?
犬歯の萌出方向の異常は、第二大臼歯の萌出異常とともに発生頻度が比較的高く、よく問題となります。
目立つ場所ですから、審美性の問題が大きい部位です。
放置してしまうと、他の前歯の根っこが吸収されてしまって、成人してからの治療が困難となることもあるため、早期治療がとても大切です。
運悪く、早期治療のタイミングを成人まで得ることができなかった場合、写真のように前歯の歯根が吸収してしまうことがあります。

写真:骨の中の犬歯によって、前歯の根っこが吸収されてしまっている
歯根を失った状態では、歯は長くはもちません。
そして若くして前歯の目立つ部分の歯を失うことになった場合に
「入れ歯でいいや」
と諦められる方は少ないです。
「複数歯の歯根吸収が起きている+犬歯が埋まっている」ケースではブリッジ治療も困難となることが多く、またインプラント治療も骨の中の犬歯が邪魔して難症例(犬歯を抜歯してもインプラントを埋入する骨の量が足りず、骨の再生術が必要となります)となってしまいます。
「上の犬歯が生えてこない」は、こどものうちに治療しておいた方が、治療期間面でも費用面でも審美面でも良い結果となることが多いのです。
4)「上の犬歯が生えてこない!」をこどものうちに治療するときの方針
重症度により
- ・乳犬歯を抜歯するだけ(保険適応)
- ・乳犬歯を抜歯して歯ぐきや骨に穴をあけ、犬歯が生えやすくする(保険適応)
- ・乳犬歯を抜歯して歯ぐきや骨に穴をあけ、埋まっている犬歯に装置をつけて牽引する(自由診療)
に方針が分かれます。
歯のサイズが大きい、顎のサイズが小さい、歯の先天性欠損があるなどの歯並びの問題がある場合は、全顎的な歯列矯正治療と併用して治療していくこともあります。
この症例ではスペース不足など、他の問題がない症例ですが、全顎的な歯列矯正が必要と考えられる場合は
当院では、院内ミーティングなどを通じて治療法や患者さんの情報を共有し、どういった治療法が患者さんにとってのベストになるか、検討を行ってから治療にあたっています。
先日参加した学会発表でも、口呼吸と気道、上顎洞の形態と犬歯の萌出位置異常を示唆した研究発表がありました。当院においても類似の症例は、口呼吸のお子さんの増加とともに「スペース不足+犬歯萌出障害」のケースは増加傾向にあると感じています。
お子様の
乳犬歯がいつまでも抜けない、
永久犬歯がなかなか生えてこない、
という場合は、早めにご相談ください。
5)まとめ
いかがでしたか?
- ・萌出障害や位置異常がある場合、早期治療が重要です。
- ・前回の第2大臼歯の萌出位置異常もよくある症例です。
- ・犬歯の萌出位置異常も多くみられる異常です。
- ・犬歯の萌出位置異常は治療時期を逃すと、隣在歯の歯根吸収のリスクがあり、重篤な事態を引き起こす可能性があります。
- ・犬歯の萌出位置異常はまずは先行乳歯の抜歯を行い、改善が見られない場合は小手術を併用した矯正が必要となります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!






