感覚が過敏な人のしくみと、その世界観に対する対策
2025年11月27日
小さなお子さんや発達がゆっくりなお子さんで、受診時や毎日の歯磨きの際に口を開けることを拒んだり、体を動かして嫌がることはありませんか?
こんにちは、医療法人つぼい歯科クリニックおとなこども矯正歯科 副院長の吉村です。
ここ3回ほど、歯科での痛みや麻酔、歯科への怖い気持ちから起こる体の反応などについて特集してきました。
参考リンク
- 歯科麻酔 なるべく無痛に近い歯科治療の実現のために
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7508 - 歯科麻酔2 歯科医院での麻酔のしくみ
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7636 - 怖くて歯医者に行けない人のメカニズムと自己対策について
https://tsuboidental.com/blogs/archives/7823
今回は、なぜ「歯医者・歯磨き=苦手」になりやすいのかの理由を、「感覚の偏り(過敏/鈍麻)」という観点から掘り下げていきます。
「歯医者さん、嫌だな、怖いな」
「どうしても歯医者に行く勇気が持てない」
「自閉傾向がある子供が、歯医者で極端に嫌がるため困っている」
そんな方にこそ、最後までお読みいただきたいです。
▼▼この記事の概要を図解▼▼

1.優位感覚の4タイプ
人は五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)を通じて情報を得ていますが、どの感覚に心と頭が反応しやすいかは人によって異なります。
この「感覚優位性」は、視覚・聴覚・体感覚の3つに分類され、最近では言語優位タイプもあると言われています。
優位感覚とは、その人が無意識に多く使う「脳のクセ」のようなもので、同じ出来事でも感じ方やインプット・アウトプットが異なります。
1)視覚優位タイプ
- 目から入る情報で物事を認識しやすい
- 絵・図・フローチャートで理解するのが得意
- 「空間」「色」「明るさ」など視覚的な表現を好む
- 目からの刺激に反応しがちで、気持ちがあちこちに飛びやすい
- 言葉だけの指示は覚えにくく、メモして視覚化すると理解しやすい
- 話の展開が早く、早口で主語が抜けやすい傾向
2)聴覚優位タイプ
- 音で物事を捉えるのが得意で、声の変化にも敏感
- 聞いて学習するのが得意で、音声コンテンツが効果的
- 「騒がしさ」「聞こえる音」など聴覚的な表現を好む
- 言葉で伝えられたことを理解し、そのまま繰り返せる
- 騒音があると集中しにくく、静かな環境が必要
- 論理的で、手順や分析を重視するタイプ
3)身体感覚優位タイプ
- 体験したこと、触れたことを記憶しやすい
- 体験・ロールプレイ・リズム・身体を動かす学習が定着しやすい
- 身振り手振りが多く、「温度」「肌ざわり」などの表現を好む
- 一つのことをじっくり味わうのが好き
- 早口だと処理が追いつかず、ゆっくりした話し方が合っている
- 見聞きしたことを身体で受け止めてから反応するタイプ
4)言語感覚優位タイプ
- 誰かと話したり、メモを取ったり、文章にまとめることで理解が深まる
- 自分なりのまとめ方やノート術が効果的
- 例え話やストーリーと関連づけて記憶するのが得意
2.感覚の偏りとその影響
1)感覚の偏り
「ふわふわの手触りが好き」「熱がり/寒がり」など、感覚の受け取り方は人それぞれです。
優位感覚が均等であるという方は意外に少なく、例えば以下のようなケースは良くみられるパターンです。
- 子供のころから眼鏡をかけている人は視覚からの感覚が弱く、聴覚・身体感覚を強く感じる
- 目が良い人は視覚からの感覚が強く、聴覚からの感覚が弱め
中でも、自閉症/自閉傾向がある方では、聴覚と触覚に偏りが出やすいとされています。
自閉症の診断基準にも「感覚刺激に対する過敏または鈍感、もしくは環境の感覚的側面への特異な興味」が含まれています。
定型発達の人の場合、会話は鮮明に聞こえ、背景音(エアコン、風、車の音といった環境音)は意識しないと聞き逃してしまうものなのですが、自閉症・自閉傾向のある方は“すべての音を均等に拾ってしまう”ことがあります。
以上により
- 「音がうるさい」
- 「逆に会話が聞こえにくい」
という状態になることがあります。
環境音と会話が同じように聞こえてしまうために、会話が聞こえにくくなってしまうんですね。
自閉症の方の場合は、触覚でも同じようなこだわりや偏りが見られます。

2)感覚の偏りがあると、強いストレスを感じてしまうことがある
歯科医院には、こうした「感覚の偏り」があると、苦手に感じる刺激がたくさんあります。
- 歯科医院独特の臭い(義歯材料のレジン、根治用薬剤などの臭い)
- 歯科医院独特の音(チュイーン!という歯を削る音)
- 口の中を照らすための強いライトの光
- バキュームで口の中を吸われる感覚
- 歯を削られるときの振動
一般の方でも、「嫌だな…」と感じる方も多いこうした刺激は、「感覚の偏り」がある場合、特に強いストレスとなってしまうことがあります。それが強い恐怖心・苦手意識・拒否感につながってしまう…というわけです。

3.簡単な工夫でストレスを軽減できることも
ちょっとした配慮で、困りごとや疲れ方を軽減できる場合があります。
できることから、試してみていただけたら嬉しいです。
- ライトの光が苦手・気になる → アイマスクを使う
- 大きな音や特定の音が苦手 → イヤーマフやイヤホンの使用
- 背もたれが倒れる感覚が怖い → 先に背もたれを倒しておく
- わずかな振動・接触でも強い痛みに感じる → 弱い刺激から慣らす
- 痛みや熱に鈍感(ケガやむし歯に気づかない) → 定期健診でフォロー
- 歯医者の臭いが苦手 → 事前に歯科側に相談する(個室対応、アロマオイルを使用するなど)
- (発達障害があり)気になるものがあると触ろうとする → 気になるものを隠す
患者さんが思っている以上に、歯科を怖いと感じている人は多いです。
我々歯科医師・歯科スタッフの多くは、「歯医者が怖い方」に慣れています。
「自分だけ恥ずかしい」と思わずに、まずは怖い・苦手だと感じているものについて歯科スタッフにご相談ください。
4.小児歯科・障害者歯科で治療が難しい理由
患者さんの歯科への苦手意識から治療が困難になるケースはあります。
多くは、ストレスや理解できない刺激によりパニックが起き、気持ちが折れてしまうことがきっかけです。
歯科医師は、そのとき「何が問題だったのか」を振り返りつつ、嫌なこととその受け取り方が人によって異なる点を踏まえ、個人に合わせた治療のやり方を組み立てます。
- 虫歯の大きさと治療法
- 精神的な配慮
- 落ち着いて治療を受けられる環境を用意できるか
などを考慮します。
5.感覚過敏と心理的拒否の違いと対応
患者さんが「感覚の偏り(過敏)」によって治療に強いストレスを感じているのか、恐怖心によって心理的に治療を拒否しているのか、はたまた両社が混在している状態なのか、他の要因も重なっているケースなのか。
上記のどれに該当するかで、歯科医師の対応も変わります。
1)感覚過敏が主なストレス源となっている場合
どんな刺激でも口や身体に触れた直後から力が入って拒否する場合、触れられることに少しずつ慣れていく“過敏の除去”が必要です。
口から遠い場所(肩など)から触れて、マッサージなどをしながら徐々に口に近づいていくように触れる方法や、いきなり歯を削らずに、バキュームだけ、水だけ、など刺激が小さいものから慣らしていく方法などがあります。
2)心理的拒否
優しい声かけや丁寧な関わりで、これまでの歯科診療や歯磨きのイメージを修正します。
笑気の使用などで「これならできる」という自信がつくと、行動が変化することもあります。
笑気についての参考リンク
- 笑気ガスによる歯科診療を導入しました
https://tsuboidental.com/blogs/archives/3929
6.まとめ
いかがでしたか?
- 感覚の受け取り方は一人ひとり違い、歯科が苦手になる理由にもつながります。
- 優位感覚を理解すると、お子さんの感じ方や行動の理由が見えやすくなります。
- 自閉症では聴覚・触覚に偏りが出やすく、強い疲労や拒否反応が起こりやすいです。
- アイマスクやイヤーマフなど、家庭でできる小さな工夫でも負担軽減に役立ちます。
- 感覚過敏と心理的拒否は別で、丁寧な対応や慣らしで改善することが多いです。
- 困りごとは一人で抱えず、歯科医に相談することで適した対応策を一緒に探せます。
お困りごとがある場合は、可能なところから一緒に検討できますので、まずはご相談ください。
参考文献
「学校における発達障害のある児童・生徒への対応」
日本学校歯科医会会誌 第138号(令和7年度 No.2)






